妖精息子3の37
カラカラさん……いや、空の王子はそこで口を笑み曲げると
「実体のないオレは、ふつうならばそのままで終わりだったろう。ただ、オレはついていた。
異世界で生まれたおそれを知らぬ愚かな王子が、弱いくせにのこのことこの世界にやってきて、重力つかいの王子に破れたのだ」
それって……金の王子!
「そのとき、やつの片腕は落とされ地下に捨てられた。オレはそれを取りこむことで、ささやかながらも実体を得ることができたのだ。ほとんどをたまごの殻でおぎなわなければならない、なさけないほどもろい身体だったがね。
いわば、オレはからっぽ……∅(エンプティ)から、ほんの少し(アンプティ)増えたわけだ。エンプティ・アンプティ(empty-unpetit)……なんて、なんだか語呂が良いだろう?くふふふふ」
機械にはりついた顔をふるわせてわらう。
「いかに脆弱であろうと身体を持った以上、オレも王子のはしくれとして王を目指すことにした……と言っても、自分の力だけではとても御位争いを勝ち残るなんて無理だ。
そこでオレは、くふふ……王子としてはあるまじき卑怯な手段を取ることにした。この世界の外部の者たちと協力することにしたのさ」
外部って、まさかその侵略者をこの世界に導いたのって?
「このあっし……いやオレさ。もともとやつらが住む世界は、この世界と近接したところにある。なにせ、この侵略者……機械生命群の原型を作り出したのは、われらが始祖たる初代王だからな。
かの王は世界を秩序だって動かす試作品として彼らを作ったが、無機素材は優美に欠けるということで世界ごと放擲したのだ。そして新たに用意したこの世界で有機生命群……下民らを生成発展させた。まさか先王も、失敗作と捨てた世界に高度な文明が発達するとは思っていなかったろう。
この世界、そして機械たちの世界は連動している。ということは今、やつら機械の世界もここと同じく、混沌の侵食に苦しめられているということだ。むしろやつらの世界のほうが事態は厳しく、すでに世界の大半が混沌に飲みこまれている。
つまり、機械たちも生き残るために必死なのさ。
オレはやつらの放つ情報をキャッチすると、交信を重ねた。(オレはもともと情報だけの存在だから、そういうことが得意なのさ)
そして、やつらにこの世界へわたる経路を教えた。その代償として、やつら機械群全体をオレの肉体として使用することを承諾させた上でな……機械にとっても、王となるものと一体になることは損がなかった」