妖精息子3の32
谷の上には巨大な機械兵たちのすがたがあった。
昨日、奥方が全滅させた飛行機体とは形状が異なる。地上戦に特化した重騎兵型のようだ。
先兵の壊滅にもめげず、早くも次の兵を仕向けてくるとは。
下民軍はテントを囲う半円状に隊列を築くと
「今は耐えろ!王子が助けに来てくだされるを待つのだ!」
旧式の火縄銃を手に防衛を試みる。
ただ、やはり手持ちの火薬では相手の装甲を突き破ることはできない。
上方からの襲撃という不利も重なり、巨大な重騎兵に一方的に押しこまれ、ふみつけられていく。
「こりゃいかん、逃げろ!」
ちりぢりになって、ただただ触手を惑い揺らせて逃げ回る。
さわこは坊を抱いて、テントから慌てて逃げるが
「なんだ?かってにどこに行った?からっぽ!」
ヘイタイムシが、持つべきカラカラさんを見失ったらしい。
さわこが
「カラカラさん!」
声を張り上げ見わたすと、なんということだろう。
カラカラさんはまちがえて機械兵の近くに出てしまっていた。
「カラカラさん!!」
少女の絶叫に、からっぽすかすかの人形は、みょうに落ち着いた声で
「……ああ、おじょうさん、気にしなさんな。あっしは本来、このままでいられるはずもないものなのさ。だれもあっしをもとには戻されぬ。ちょっと、おそかったくらいだよ。カラカラカラ……」
なぞめいたことを言いながらわらう、その上からあっさりと重機の脚にふみつぶされた。
たまごのわずかな内容物……ねばりが機械についた。
(そんな!)
しかし、少女にショックを受けているひまはない。
「いけないよ!さわこ!」
自分をふみつけにせんとする別の機械兵の影が差す。
そこを
「――さわこ!いかん!」
かばって機械の脚を押し返すのは、ヘイタイムシだ。
「手も肢も少ないくせに、なにをもたもたしておる?ばかもの!とっとと坊を連れ逃げよ!」
「ムシさんも!」
がなるさわこに、
しかし無骨な宮仕え虫は、重たい脚に抗いながら
「……生涯を外回りで終えると思っていたわしが、おまえのおかげで王城に上がり、上つ方近く伺候することができた。じゅうぶんだ。
なによりわしは、おまえたちを守れと奥方さまの命を頂戴しておる」
力をふるって機械脚を押しひっくり返すと
「ええい!この他所者めらが。このヘイタイムシの槍を食らうが良い!」
得物を手に、機械たちに向かっていく。
さわこは、ヘイタイムシがレーザーで貫かれ倒れるのを見た。