妖精息子3の31
「……この子が、その火の王子の親だよ」
坊が、さわこを差して言った。
「なにぃ!?いつわりを申すな!」
「嘘じゃないよ。火の王子に会わせたらわかるよ。ねえ、さわこ?」
ほがらかな坊に比して、少女の顔は引きつる。なにせ
(わかるかどうかは知らない。だって、おぼえてないんだから)
「ほんとうだとしたら、たいへんだぞ。王子は、養い親さまを神にもまさるものとして崇め奉っておられる」
「そうだ。あの方は、朝な夕な暇さえあれば、遠く離れた母上さまに向かって拝礼なさっておられる」
あわてふためく一同。
「なぜ、王子の養い親さまがこの世界にいる?」
長老の問いに、
坊は
「そりゃ、この世界に大事な息子を探しに来たに決まってるじゃないか。そんなけなげな母親に、こんな扱いしていいのかなぁ?」
そのことばに、一同はさらにうろたえる。
(まったく、この坊ったら生きるための手練手管に、ほんとに長けているんだから)
さわこがあきれるやら感心するやらのいっぽうで、下民たちは坊の思うとおりに動く。
「とにもかくにも、このことは至急火の王子にお伝えせねば。おい!早虫を出せ!そして、とりあえずこの者たちの縛めを解くのだ!」
「ヘイタイムシさんたちも自由にしてあげて」
少女は、そこはわすれない。
「――おお、さわこ。たすかったぞ。無事であったか」
聞くと、ヘイタイムシとカラカラさんは、さわこらと別れたのち、黒鎧の騎士に抵抗するもあっさり蹴散らされた。死を覚悟したが、騎士は彼らにとどめを刺すこともなく去った。
生きのびたふたりは佐和子らを探して禁制地をさまよっているうちに奈落そばに出たが、そこで下民に遭遇して捕まったということだった。
「へへ、あっしも奮闘したんでやすがね。どうにも捕まっちまいやした」
「おまえは、わしに持たれてブラブラふられておっただけではないか」
「だんな。そこはやっぱりカラカラふられた、と言っておくんなせぇ」
ヘイタイムシとカラカラさんの軽口は、少女をなごませた。
ただ、今から火の王子に会うのだと思うと緊張する。
「おまえなど知らない」
と言われてしまったら、自分だけでなくみなも殺されてしまうだろう。
「ささっ。母上さまはこちらでお待ちを」
豹変した下民のうやうやしい態度が、なおさらおそろしい。
(ああ神さま。どうか、あたしがあの火の王子の養い親でありますように!)
願かけをしながら命がけの面談に備えてテントで控えていると、にわかに外があわただしくなった。
ついに王子が到着したのかと身構えると
「――侵略者の襲撃だ!」
思っていたのとは異なる恐怖がやってきた。