妖精息子3の27
「この世界は、もともとおそるべき無秩序、無分別で暴力的な混沌が支配する世界だった。そこにはなんら生産性も発展性も無く、混乱のみが渦巻いていた。
しかしあるとき、その世界のありように異を唱えたものがいた。彼は混沌のがわに属するものを打ち破ると、この世界に秩序を打ち立てた。
それが、我らが父祖・初代の『王』だ。以降、歴代の王は秩序を引き継ぎ、この世界は整然たる発展を続けてきた」
大きな話だ。
「王に破れ界外に追いやられた混沌の勢力は、常にこの世界の支配権を取り返そうとしてきた。
今現在、世界各所で崩壊の兆しがあるのもすべてその作用だ。混沌のがわは王が決まらぬこの隙に、少しでも秩序を壊して無秩序に引きこもうとしている。ただ、その作用はまだそこまで決定的では無い。やつらは手をこまぬいている」
「もしかしてあの侵略者たちは?」
「それはあるまい。われらと混沌の関係は、あくまでこの世界における特殊事情だ。あの機械どもに関係はない。
とにかく混沌に飲みこまれきったとき……それがこの世界の終わりだ」
(――終わりではない。新しい世界のはじまりだ)
「――えっ?」
今、どこからか声がした気が佐和子にはした。まるで心の中に直接語りかけてくるような……
雷の王子は
「だからこそ、そうなる前に正統な資格を持った王子が新王の座につかねばならぬのだ……こうなっては業腹だが、あの火の王子を王にすえるしかあるまい」
自尊心をおさえこんで言った。
「火の王子には王になる気がないんでしょ?そんな王子は無視して、あなたが王になればよいのでは?」
坊の問いに、
誇り高き王子は奥歯をかみしめて
「闘いに負けたものが王になって、そんな王権のどこに正統性がある?
火の王子は奇矯な発想を持っているが、まちがいなく王の血統であり、いまや余より強い……異世界で生まれ育ったことが、結果的にあのものに力を与えた。今となっては、あの『ぷーすけ』王子を王にするしか、この世界が残る手段はない」
「……ぷーすけ?」
思わず、さわこは鸚鵡返してしまった。
その名を聞いて、胸に火が点ったような気がしたのだ。
そのつぶやきに、アーロンは反応して
「その声は?……きさま、王城にいたものだな。気になっていた。その声にはたしかに聞き覚えがある。なにものだ!?顔を見せろ!」
弱ったとはいえ、若干の電撃はあやつる。
その衝撃に、布が飛ばされる。
「――貴様は!?ぷーすけの拾い親!」
顔を見た雷の王子の驚き顔に、こちらのほうがびっくりだ。
(――親?あたしが、あの火の王子……ぷーすけの親だというの?)