妖精息子3の26
王子は薄目を開けると
「王妃の飼っていた異界ものか……たしかに、余は契約したな。うぬには手出しせずに守ると……とはいえ、このようなざまになっては、おまえを守ると言ってもできることはほとんどあるまい」
自嘲気味に言う。
傲慢を絵に描いたような王子らしからぬすがただ。
「あの機械兵どもに取り囲まれて、このざまだ。このまま静かに消滅を待つつもりであったが、そんな余の前に汝らがすがたを見せたというのも、これも王妃の執念か」
王子のことばに、
坊が
「かあさまは死んだよ。あの金属のツルピカたちを引きつれて死んだ」
言うと
「……そうか、異界よりの侵略を身を呈して防いだということか。仮とはいえ、この世界の支配者だったものとして正しいすがただな。そこは評価できる」
讃える。
「あのツルピカは、いったいなにかな?」
坊のなれなれしい問いにも、
たんたんと
「あれは、おまえと同じく異世界よりの侵略者だ……と言っても本来、あの程度の侵略は身体に入る黴菌と同じで、日常茶飯事。ちゃんとした免疫……正式な王による防衛体制さえ整っていれば、すぐさま排除できた。王の不在が問題の本質だ」
「ぼくは、侵略なんかしてないよ」
坊の不満げな声にも
「ふん。たしかに侵略の意志はなかったろうが、結果として今この世界が危機に瀕した最大の要因はおまえだ、取り替え子。おまえと王子の卵が取り替えられたことで、この世界の秩序が崩壊されてしまった。
取り替えられ異世界で生まれた王子は、われわれの常識とは異なるグロテスクな成育をとげた。まさか、王になるのを厭う王子とは!本来ならば最初に抹消されるべき精神的奇形児が一番の強者になるとは、まさしく世の末だ。これでは次の王がいつまでも決まらぬ!」
動きもままならぬ苦しい体で、せいいっぱいの憤激をしめすと
「……このままでは混沌が復活する。いや、すでにその影はこの世界に射している」
顔をしかめる。
――こんとん?さっき、あの黒い騎士が言っていたことばだ。
「なにそれ?ぼく知らないよ」
坊の重ねての問いに、
王子は
「……それは、この世界の成り立ちにかかわることがらだ。おまえたちよそものにこの秘を明かすことは決し……いや、この期に及んでそんなことに拘泥しても、仕方あるまいな」
半分なげやりに苦笑むと、説明をつづける。