妖精息子3の17
「愛だと?だからいったいなんだ?それは!」
いらだつ雷の王子に
「きみには一生わかるまいな。そんなだから、きみはわたしには勝てないのだ」
「なにを!貴様のようなものに余が負けるはずがない!今日こそ勝負をつけてくれる!」
怒りのままにふり下ろす雷撃は、しかし赤き王子のまわりを囲う炎によって防がれる。
「おのれ!向こうの世界では、余に手も足も出なかったものが!」
歯ぎしる王子に対して、
火の王子は
「わかっているはずだ。わたしがやむを得ずもこの世界に訪れてから、もうかなりの時間が経過している。わたしはすっかりこの世界の魔素を取りこみ、なじんだ。もはやきみとわたしのあいだには、彼の地で相対したときのような保有魔素の差は無い。
先王妃に名を授かる小手先の手を打ったところで、わたしには勝てないよ。そんな判断もできないようでは、立派な王になることはあるまいて」
「なにを!?」
憤怒に顔を歪ませ、さらにいきりたつ雷の王子の後ろから
「――あら?それでは、あなたが王になればよいのではなくて?」
声をかけるのは、王子と同じく高貴なるもののすがたであった。
その優美なるものに接して、火の王子は
「おやこれは。どうもお初にお目にかかります。先王妃どの」
形としては、うやうやしくも頭を下げて
「実の母であらせられる御方に、このような形でお目見えするにいたったは不本意です」
と、ちっとも思い入れのない口調で言う。
「どうもはじめまして、火の王子……でよかったわね?それにしても、仮にも実母が治める領地・王城を、こうも無惨に侵略・破壊しつくすとは、いったいどういう了見かしら?それがあなたのうまれた異界のご流儀?まったく『氏より育ち』と言うのは本当のようね」
「……わたしには、あなた方を攻撃する意図はなにもなかったのですがね。なにせ、この世界に渡ってきた当初、慣れぬわたしに親切にしてくれたのは彼ら下民でした。
『ひとに世話になったら「ありがとう」と言うのよ』と、わたしは尊き御方にきつく躾けられています。返礼のひとつやふたつ、せねばなりますまい。
自衛のための武器がなにか無いか、と彼らに求められたので、わたしが知る原始的な武器……火薬と火縄銃の製造法を伝授しただけです。
それを使って、あなたがた王族への命がけの反逆を判断したのは、わたしが指示したものではありませんよ。彼ら自身の判断です。
下民は、よほどあなたがたの苛政に苦しんできたようですね。善政を敷いていれば、彼らがこのような行動に出ることはなかったでしょうに」
ひとごとのように説明する。




