11.文化祭前日(3)
お箸を持ったまま、なんだかポワーンとした目をしちゃって、ため息をつくように
「……でも、ほんとうにイケメンよね、ぷーすけくんって」
うーん、まあそうだね。あたしもそれは否定できない。
「ほんと……あたし、ぷーすけくんのこどもほしい」
えっ?なに言ってるの?由紀乃ちゃん。
「あたしも。遊ばれるだけになってもかまわない」
ちょっとちょっと茉優ちゃん!
なにあぶないこと言ってるの!?
ヘンだよ、ふたりとも!とろけた表情しちゃって!
佐和子はあわてて
「……ぷーすけ!あなた、みょうな魔法でも使ってるんじゃないでしょうね?やめてよね、いかがわしい!」
問いただすが、
息子は
「いかがわしいとは心外です、母上。わたしはなにも術など使っておりませんよ……ただ、わたしのあふれる魅力にご友人がたが感応なさっておられるだけです」
卵焼きをかじりながら、こぼれるスマイルで返す。
(——ええい、もう!にくったらしいやつめ!)
佐和子は、なんとか肩を揺さぶって友人たちを正気に返した。
ふたりとも自分の口走ったことに気づいて頬を赤らめる。
聞かなかったことにしておいてあげよう。
ちょっと気まずくなったからか、そのあとの時間は由紀乃・茉優とも別れて行動することにした。
食後の散歩がわりに、校庭内をぷーすけを連れて案内する。
この学校は植物園のような立派な庭があるので、散策にはもってこいだ。
「あなた、これからどうするの?」
「それは無論、母上に付き従います」
明日からの文化祭に備えて、今日の授業は早く終わる。
それからはクラス出し物の用意だ。
「いちおうあたしは実行委員だから居残りだよ。模擬喫茶店の用意といっても、机椅子をずらす以外そんなに大変じゃないと思うけど。きょうはあの平井直実をつかまえて手伝わさせてやる」
たよりない同級生男子のことを思い出して、ぷりぷりする。
そんな母に、飛びしたがうぷーすけは
「……母上、そのヒライナオザネとは、今朝駐輪場で会ったもののことですか?」
「そうだよ」
「われわれを見て逃げ出しましたね」
「ああそう。あたしの顔を見たとたん、青ざめて逃げ出しやがった。
昨日、自分だけ先に帰りやがったうえに礼も言えないなんて、ダメなヤツ!」
顔をいがめて言うと
「——そうでしょうか?」
ぷーすけが首を傾げる。
その言いぐさがおかしかったので
「それって、いったいど……」
聞こうとしたとき、にわかに煉瓦敷きの通路をひんやりとした風が吹きぬける。
「……母上、少々おまちください」
「なによ?」
佐和子がふしんげに返すと
「——敵です」
息子が答えた。