妖精息子3の12
さわこがその婉然たる後ろすがたに見とれていると
「……あぁあ。母さまは行っちゃったね」
胸元から声がする。
「あら?起きてらしたんですか、ぼっちゃま」
眠っているとばかり思っていた雛鳥は、目をうっすら開けて
「うん、まあね。母さまはあの黄色い髪の王子に全賭なさったけど……どうだろうね?
ぼくは、その異世界生まれの王子につくのもアリだと思うんだけどな。下民に武器を与えてつかうだなんて、うまいことやるじゃない。話が通じる相手だと思うんだけど……しょせん、母さまも旧世代の存在なんだよなぁ。新しい時代の流れを受け入れることができない」
ため息まじりにつぶやく。急におとなびたもの言いだ。
「――このぶんだと、もう母さまと会うこともないかもね」
そんな冷めた口調に
「そんなことないですよ。またお会いできます」
さわこが熱っぽく返すと、
わらって
「……おまえはやさしいね、さわこ。でも、ぼくは母さまの言うとおりの存在だから。ただ巣立ちまでのあいだ彼女に寄生するのが目的だから。どうしてもドライになってしまうんだよ」
その口ぶりに、さわこはおどろいて
「ほんとうに、ぜんぶご承知の上での行動だったんですか?」
ただのこどもらしい無邪気なふるまいだと思っていたのに。
しかし、坊はあっさりと
「うん、そうだよ」
認めると
「なんたって、ぼくらは預けられた先でうまいこと生きていかないといけないからね。せいぜい愛されるように立回らないと」
すべて計算ずくだったとは、驚きだ。
「ただ、おまえのことを気に入っているのは本当だよ。なにせ、おまえが持ってきてくれた薬のおかげでぼくの体は良くなったし。それに、どうやらおまえとぼくは、もとの出がいっしょのようだからね」
出がいっしょって、どういう……?
たずねようとしたが、外から響く銃声がけたたましいものになってきた。
「おしゃべりは後になされて!さわこ、はやく坊をこちらに!」
ヘイタイムシの先導のもと、小間使いの少女は雛鳥を抱えて階段を下る。
ここからは、さわこが今まで立ち入ったことのない地下階だ。
「このまま抜け道まで、突っ切っていくぞ」
ヘイタイムシのことばに従ってせまく暗い通路を通るさわこだったが、その途中で
「……さわこ。ちょっと、こっちの方に寄り道して」
坊が声をかける。
ヘイタイムシは
「なんと?そちらは牢獄棟ですぞ。罪人どもが収監されておる所です。そんなことより、早く逃げねば!」
言うが
「いいから。ちょっと寄って」
坊のことばには逆らえない。
ヘイタイムシは命にしたがって横路に入った。




