妖精息子3の10
空中に待機していた雷の王子の親衛隊が、おしよせる軍勢にそれぞれの異能をふるって攻撃を加えるが、攻めこむ民衆は損害をうけながらも侵攻の手と足をゆるめない。
そして火縄銃による遠距離からの攻撃は、強大な力を持つ貴族階級相手にも、少しずつとはいえ確実に損害を与えていた。
一発や二発ならともかく、数十発もの被弾はいかな親衛隊員といえど耐えきれるものではないらしい。
飛行を維持できず落下していく隊員がつづく。地に落ちた彼らを待つのは、多数による殴打である。
親衛隊員が盾や鎧など身を守る装備をしていれば、被害はここまで大きくならなかっただろう。が、あいにく彼らにそんな発想は無かった。貴族が下民を相手にして傷つくなど、ありえないことだからだ。
少数精鋭の貴族が、そこそこの威力の武器を手にした大量の下民に押されていた。
集団は王城門を打ち破り、宮殿内部に侵入しようとしている。
「「革命だ!」」
(革命って……王権をひっくり返す気?王子はどうするの?)
さわこには不審なことを下民は口走っているが、実際問題として城は攻めこまれている。
そのどう見ても不利な情勢に
「……どうしますか?王子。あたしの協力を求めるのならば、今でしょう」
奥方のうながしに、
雷の王子は顔をしかめつつも
「……やむを得ませんな。よいでしょう、とっとと余に名をお与えなされ。はやくせねば、あなたの居城、そしてなにより大事になされている愛玩物が、いやしきものどもに蹂躙されますぞ」
どこまでも傲岸なくちぶりで返す。
奥方は
「その前に、しかと言挙げなされよ、王子。あたしがあなたに名を与えるのと引き換えに、あなたは今後あたしの坊やに害意をもたず、その身の保全に努めなさい」
その強いことばに、
王子は肩をすくめて
「誓おう」
手を上げ承諾する。
そのしぐさに、奥方はうなずいて
「よし。では先王妃にして王権代行たるこのあたしが、汝・雷の王子に名を与えよう。汝の名は『アーロン』。以後はその名のもと、力を十全にふるうがよい」
告げたと同時に、王子の身体から膨れ上がるような圧力が放たれたのが、さわこらにも感じられた。
「――おお、これは!たしかに身内より力があふるるわ!早速、ためしに下郎どもを粉微塵にしてくれよう!」
バルコニーで腕を振るうと、すさまじい雷撃を眼下の叛徒にたたき落とす。親衛隊に被害がおよぶことなどもおかまいなしだ。
「ハハハハハ、これはいい!これはいいですな、王妃!」
狂喜しながら力をふるう。