妖精息子3の8
そんな王子と奥方のやりとりを、さわこは坊といっしょに一間はなれたところに控えてうかがっている。
坊は、さわこの腕のなかですやすや寝息を立てている。
(あの雷の王子……さま?前にどこかで会った気がするのだけど……気のせいよね)
記憶を失う前の自分に、あんな高貴な知り合いがいたとも思えない。
奥方は、興奮する実子にますます冷めた目で
「あの王子の能力は、認めるしかないでしょう。彼の用兵は、この世界の戦いのありようを変えた」
薄笑む。
そんな母の様子に、王子は
「……彼奴を認めるとは、それは余を見捨てるという意思表示でらっしゃるか?」
金色の瞳を鈍く光らせて質す。
しかし、王妃は
「いいえ。あたしも、あの異世界生まれの王子はきらいです。あなたの言うとおり、あまりに此界生まれと異なっている。いくら優秀であっても、あのものとわれわれでは共存できない」
はっきりと不快感を持って言った。
実の親にかくも忌み嫌わられるとは、その異世界生まれの王子もちょっとかわいそうに思えてくるが、もちろん控える小間使い少女はそんなことを口にはしない。
「……たしかに、彼奴は異常ですからな。余が異界に赴いて対峙したさいも、彼のものの行動原理はわかりかねるものでした。自己よりも下等種を優先する狂気があって……いや、今はそれはよろしい」
頭をふる王子に対して、
奥方は
「あたしは、次王になるのはあなたしかいないと考えています」
そして
「そのために、母が力を貸しましょう」
はっきりと表明した。
「……それは、あなたが兵力をお貸しくださるという意味ですか?失礼ですが、あなたの手持ちの勢力などわずかなものでしょう」
そんな子のいぶかしみを断ち切るように
「いいえ。そんなものよりずっとよい贈り物をさしあげましょう。あたくしが、あなたに名を授けます」
そのことばに
「おお、それは」
王子も眉を動かした。
奥方は威儀を持って
「今まで、あたしが名を授けた王子はいない。特別な恩寵と言えるでしょう」
王子はうなずいて
「たしかに、あなたに名をいただけるのであれば余の力も強くなりましょう。実は、あの異界生まれは名を持っております。拾い親に名を与えられておりました。もしやすると、やつの特異な力の源泉はそのあたりにあるやもしれません」
考えると
「……それで先王妃。余に名を与える代償に、なにを求められる?」
直截に問うた。
もとより、親が子に無償でなにかを与えるなどとは思っていない。