10.文化祭前日(2)
実際に1時限目の授業に入ると、社会科担当でこのクラスの担任でもある藤山教諭が
「——ああ、青柳?今日から******同伴らしいな。さっき、理事長にうかがってびっくりしたぞ。なんでも深夜に報告したというじゃないか。ひどく急だな」
佐和子に声をかける。
(——深夜?)
いぶかしんだ少女が自分の机のわきに立つ息子の顔を見上げると、彼はみょうに鼻高々で
「ほら、みてごらんなさい」
という表情だ。
(……もしかして、昨日の夜中ぷーすけが出かけた先って、ウチの学園理事長さんの家?)
満足げに首をゆらす息子に
(——まったく、とんでもない子ね)
内心あきれつも
「……すいません。この子がどうしても離れないっていうもので」
佐和子が起立して頭を下げると、
藤山教諭はうなずいて
「いや、まあそれはしかたないだろう。なにせ******だからな。……ただ、わかっているだろうが授業中はじっとしていてもらうぞ。その子を教室の後ろの方で静かにさせておけるか?」
問いに、佐和子が
「静かにしてられる?ぷーすけ」
たずねると、
赤髪の美青年は
「無論です。もし母上の勉学を妨げるものがいましても、わたしが排除いたしますのでご安心を」
(いや、安心できないから、そんなの。とにかく、じっとしといて)
妖精が教室の後ろに立つのを確認すると
「よし……じゃあ、みんな授業にはいろう。教科書の64ページからだ」
「——母上、リラックス!あなたはできる子です!」
(だから黙ってて!授業参観じゃないんだから)
息子の声援に、少女は真っ赤になって後ろをふりむくこともできない。
休憩時間になっても、学校中からぷーすけを見に来るものが大勢いて大変だった。
「どこで売ってるの?」
売ってないよ。拾ったの。
「えさはなに?」
あたしたちと同じものだよ。今日の朝は、ハムエッグと味噌汁をたべてた。
そんなぐあいで面倒だったから、昼休みは少しでもラクしたいと、佐和子は仲の良い友達ふたりとテラスに逃げ出した。
もちろんぷーすけはついてくるが、先に入ると、他のものは入ってきにくいので、少しは静かになった。
お弁当を広げる。
「あー、もう。たいへんだよ」
佐和子のことばに
由紀乃が
「ほんと、大騒動ね」
茉優も
「うん、******をつれてると目立つもの」
わらいながらうなずく。
「……ふたりとも、当事者じゃないから笑ってられるんだよ。ほんとうにたいへんなんだから。こんなのにつきまとわれて」
苦々しげな佐和子のことばに、ぷーすけは与えられたウインナーをかじりながら
「母上、『こんなの』呼ばわりはあんまりです。わたしには母上からいただいた『ぷーすけ』という尊い名があります。せめて『ぷーちゃん』とお呼びください」
なじる。
「いやだよ。くまさんじゃあるまいし」
そんな「母子」のやりとり……というより「子」を見つめる二人の少女の様子がおかしい。