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鬼哭のナツメ  作者: れーめぃ
5/5

【5】同衾の温もりの中で

何度目だろう。この夢を見るのは。

出てくるのは懐かしき育ての親と、忌々しい翁面の……。ああクソっ!

未だに尻尾すら掴めない奴らを、私はいつ見つけられるのだろうか?

この夢ではいつもアイツらが出てくる。あの時と変わらぬあの顔で。

許せない。私の家族を!時間を返せ!許せない。許せない。絶対に!!!絶対に!!!


殺す!!!!!


そう言いながら飛び起きた。

外はまだ日の光を見せていない。そしてハッとしてナギの方を見る。

穏やかな寝顔でスースーと寝ている。

幸い眠りが深いようで起こしてはいないようだった。


「ふぅ…良かった。ふぁぁ……眠いが今日は眠れなさそうだな」


そうして私は立ち上がって外へと出る。

そうして道の半ばで空を見る。

どこまでも続く闇の中には、確かな星の光が輝いていた。それから周りを見るが、いつも居るはずの人の姿が全く見えない。


「変だ。誰も起きてないようだが……まぁいいか。よし、鍛錬でもするか」


思いつきだったが良い案に思えた。

最初は素振りから始まり、影を素早く移動させる練習、影から物を取り出す速度を早くする練習をしていた。

美しい星空の下、『不自然なまでの』静寂に包まれる中、刀の空を切る音のみが響く。

そうして1時間はたった頃だろうか。


シャンッ。


不自然に鳴り響いた鈴の音。その原因を確かめようとして私は音の方角を見た。

いたのは一匹の鹿だった。

しかしそれは何本にも別れた角を持っており、額にはシカには似合わないであろう六芒星の模様があった。

その特徴に私は覚えがあった。


神代から生きる旧神、鹿神。


人類、いや、この世の全ての生物が立ち向かおうと勝てない真の化け物。支配者。調停者。

それが、今私の目の前に居る。

そして私は悟った。

いつも居るはずの人が居ない理由。


コイツが殺したからだ。


ただそこに居たという理由で、人間が間違ってアリを潰すが如く、いやそもそも潰したことにすら気づかないような感覚で。

……まずい。この世で最も関わってはいけない類のものが目の前にいる。

そう思った私は焦りからか冷や汗をかく。

今コイツは動かずとも私の命を刈り取れる。

一秒後か、五秒後か、はたまたそれ以降か。

その全ての時間に可能性がある。

動けない。動いてはいけない。いや動かなくても結果は変わらない。全てこいつの気分次第だ。

一つの国が、村が、島が。こいつのせいで消えた何て馬鹿げた噂もある。

だから動くな。静かに。祈れ。


そう自分に言い聞かせて数分は経過した頃だろうか。

私が瞬きをするその一瞬で鹿神は突然消えた。


「……は?」


こぼれ出た吐息の様な疑問の声。

生きている。

この1つの事実は私の全身の力を抜き地面へと落とす。


「ナギ!!」


ハッとしたように思い出す最愛の者。

思い出すよりも少し早く体は動く。

鹿神の攻撃範囲は知りえない。もしナギが……。そんな事が頭によぎる。

風より早く走り荒々しく階段をのぼり部屋の扉を開ける。


「ナギ!!」


横になっているナギの近くに寄り名前を呼ぶ。


「ナギ!ナギ!!」


すると少ししてから横になった少女は声を発する。


「……んぅ?何ナツメ……まだ外暗いよ。私まだ眠いんだけれど……」


ナギが言い終わる前よりも早く腰が砕けたように床に倒れる。


「よかった……」


意図して出した言葉ではなかった。反射的に出た言葉だった。


「どうしたのナツメ。泣いてる」


「え?」


手で頬を拭うと涙が通った後であろう湿り気を感じる。

何故泣いているのか。私にもよく分かっていない。

ただ魂は覚えているであろう。たった一つの宝物を奪われる辛さを。幼きものから何かを奪うおぞましさを。


「何かあったのか知らないけど……ほらおいで」


そう言ってナギは左手で布団をあげて隙間を作る。


「え、いや」


「いいから、ほら」


そう言ってナギは自身の布団の中に私を引っ張り込む。

身長の差もあるせいか、ナギの胸ら辺に顔を置くことになった。その間もナギは私の頭を撫でる。


「うへへ……ちょっとこういうのやってみたかったんだ……ナツメ、もう大丈夫だよ。私がいるもん。どんな時でも私がいる。今も、これからも。どんな時でも一緒だもん…」


「……あぁ、ありがとう。ナギ…ん?」


少し力が緩くなったので顔をあげてナギを見ると、既に寝息をたてていた。

どんな時でも一緒…か。


「…ふふ。まったく…敵わないなぁ」


既にこの一帯の統治者には手紙を影で送った。もうすぐ国の方から調査団が来るだろう。

そうしたら寝られなくなるのは誰が見ても明白だ。


「もう少し。このまま……」


ああそうだ。ひとりじゃない。あの夢もこの時だけには入り込めないのだ。

……さっきとは全く逆の状況だ。

そう考えながら私たちはゆっくりと布団にくるまって寝たのだった。

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