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鬼哭のナツメ  作者: れーめぃ
4/5

【4】ナギとの模擬戦

朝。日差しが私の顔に差し込み起きる時間だということを伝える。

どこか期待に溢れているも気だるい朝だ。


「あぁ……朝は辛いな……ん?」


起き上がり周りを見渡すと、ナギが居ないことに気づく。


「ナギ?」


そう一言呟くと、デジャヴ感溢れる靴の音が響く。

少しすると、巫女服に似合わぬロングブーツを履いたナギが入ってきた。しかし、巫女服に隠れている為か、さほど違和感は無かった。

……まぁ、同じくロングブーツを履いている私が言うことではないが。


「ナツメ!まほろばのランキングが出てるよ〜!」


「ランキング?なんだそれ」


「え?知らないの!?この国での強さのランキングを《泡沫の夢》が出しているんだよ!上位なら有名にもなれるから今結構賑わってるよ!」


恐らく冒険者の向上力を養うために行っているのだろう。


「ふぅーん。あまり興味はないな……それよりも眠い……」


そういいまた布団を自分にかけて横になろうとすると、驚くべき事がナギの口から飛び出す。


「あっ!ナツメも入ってたよ!」


「え?」


私は驚いて素早く起き上がった。


「なんで?」


私はキョトンとして聞く。


「そりゃ〜《泡沫の夢》のメンバーなんだし!居るに決まってるよ!」


「そうなのかぁ。でもそんな高く無いだろ?」


「6位だよ」


「………ん????」


なんて言った?6位?私が?国で?いやいやいやそんな訳が無い。他の人間と競ったことは無いが私より強い奴なんてごまんと居るはずだ。

それに母数も分かってない。


「ナギ。因みにそれ何人中の話だ?」


「え?それはもちろんこの国の総人口一万人の内だよ?」


「え?」


ほんとに何でだ。意味が分からない。そりゃいつ敵にあってもいいように鍛錬は欠かさずに行っているし、依頼で沢山の魑魅魍魎を屠ってきた。

だがそれだけだ。何でこうなった。


「因みにナギは?」


「400位ぐらいだったよ。やっぱりナツメは凄いね!! 」


なんか嬉しいが嬉しくない。

そしてナギも十分凄い。


「ところでナギ、そのランキングで上位に入ると何かあるのか?」


「それはもちろんだよ!他の人よりも危険な依頼も出来るし、訓練場が自由に使えるようになったり図書館の禁書も見放題だったり!いいことも沢山あるよ!」


その説明を聞いて不意にある事を考えた。


「……訓練場か。ナギ、それは今日からでも使えるよな?」


「え?多分大丈夫じゃないかな?」


「そうか。ナギ、突然だが模擬戦をしないか?」


「模擬戦?」


「ああ。最近お前依頼に行ってないだろ?そんな鈍った状態じゃ怪我するだろうからな。それとも、私じゃ不満かな?」


「いやいやいや!そういう事じゃなくて!ちょっといきなり過ぎてびっくりしちゃって。模擬戦ね!分かった、やろう!」


「ああ。それじゃ午後にな」


「うん!受付は私がしてくる!」


そう言うとトタトタと走っていくナギを見送った後、模擬戦の準備をし始めた。

ナギとの模擬戦。実に久しぶりであった。

ナギと戦う時には十分に準備しなくてはならない。

理由は簡単、ナギは強いからだ。

下手をすれば最強に成りうるレベルでだ。

事実、私とナギの模擬戦の戦歴は九勝十一引き分けである。

毎回辛うじて打ち勝つかどうかというレベルなのだ。

ロングブーツの紐を締めたりと準備を進めている間に、トタトタとナギが走ってきた。


「ナツメ!訓練所使えるって!私は準備も終わったから先に待ってるね!」


「そうか」


そう返事をするのを聞いたナギは、踵を返して訓練所へと向かって走っていった。


「……ん〜。今日は勝てるかな?」


そう独り言を呟いていると、準備が整った。


「よし」


そう言い私は訓練所へと走っていった。


______________________________________


先に待っていたナギを見つけた後、ナギが取ってくれた場所に赴いた。

50×50mの広い間取りの中には、実践を意識した人口の森林が作られていた。


「ふぅ〜!久しぶりだから楽しみだね!ナツメ!今日こそは勝たせてもらうからね!」


「威勢がいいじゃないか。でも今日も私が勝つよ」


「ふふ〜ん!あっナツメ!開始の合図は《泡沫の夢》のスタッフさんにお願いしたよ!花火の合図でスタートだからね!」


「はいよ」


そうして少しの間沈黙があった後に、何処からか花火の音が鳴り響いた。

それと同時に私は駆け出す。

木々の間をすり抜けナギがいた方向へと駆ける。


「……よーし。ナギなら多分ここら辺でっっ!!!」


そう言うのと同時に後ろへと飛ぶ。

先程まで私が居た場所を挟んでいた木々が突然宙に浮きぶつかる。


「危ない危ない」


すると何処からかナギの声が聞こえる。


「え〜!絶対当たったと思ったのに!」


声のする方に目を凝らすと、キラキラと光る何かがある。

それは森の至る所に張り巡らされ獲物の到着を待つ硬糸であった。

何千にも織り込み鋼よりも硬くしなやかになった糸。それがナギの武器であった。


この糸。見た目以上にヤバい代物である。

何故なら入り組んだ場所での凶悪性が高いからだ。ある時は振動で遠くの人間に情報を伝えるメッセンジャーとなり、ある時はどんな物質も切り裂く無敵の刃となり、またある時は全てを守る盾となるからだ。

罠を仕掛け安全に鋭い攻撃をし、振動で位置情報を奪い、例え自身に辿り着かれ襲われようと殆ど切れない糸がその身体を守る。

そんな「単体で機動性の高い無敵の要塞」を成し遂げたのがナギである。

…………なんでこの子私よりランキング低い?


大抵の人間が思い浮かべることであろう。

それには理由がある。

ただ今はそんなことを気にしている時間は無いのだ。

油断しているとやられるのはこっちだ。

そうこうしている間にも、ナギは無数の糸を放ち続ける。

私は最小限の動きで交わす。しかしそれにも限界はある。一刻も早くナギを見つけないといけない。


「………そろそろか」


そう呟くと私は立ち止まる。

何処からかまたナギの声が聞こえる。


「あれ?ナツメ、止まってたらやられちゃうよ?」


「いや、やられるのはナギだよ」


「何言って……え?」


ナツメの言葉を聞くと同時にナギはあることに気付いた。


ナツメの反応が増えている。


振動で探知しているナツメの反応が一つ二つと増え続けていた。

ナギは困惑する。


「え!?なんで…ふぇえええええ!?」


混乱で目が回りそうになっているナギは答えに辿り着いた。


「あ!ナツメ、自分の能力で色んな所の糸を揺らしたり切ったりしているんだね!?」


「気付くのが早いな。そうだよ」


「もしかして、始まった時からずっと?」


「勿論だ。ナギの武器は私の武器と相性が悪すぎるからな。確実に勝つためにはこれが一番良かった」


ナツメとの問答を終えた頃には、反応は訓練所を埋め尽くすほどになっていた。


「…ちょっとまずいかも。一時撤退っ!」


状況を鑑みてナギが隠れ直そうとした時だった。


「はて?それは無理じゃないかな」


聞き覚えのある声が上から聞こえ、そのままナギにのしかかった。


「どわぁぁぁぁあ!?」


「はい終了〜。私の勝ちだな!」


刀の峰を首元に持っていき、私は宣言する。


「あーーーーーーもう!!!また負けたー!!!!」


一気に力が抜けたようにナギは転がる。ちょっと涙目になっている。


「そういえばナギ」


「ん?どうかした?」


「いや、ナギの『必殺技』とか見ないまま終わったけど良かったのかなと」


「……必殺技出す前に負けたんだもん」


ボソッと呟く様にナギは言う。

それに関してはほんとに申し訳ない。

ナギもまた何かを思い当たったかのように話す。


「というか!必殺技出てないのはナツメもじゃん!」


「ん?そりゃそうだろ。これは模擬戦であって殺し合いじゃないんだから」


「それはそうだけど…一回本気のナツメと戦ってみたかったんだもん」


「あー。お互いそれはちょっと難しいかもな」


「むー!!」


私とナギが本気を出せない、出したくない理由は私達が持っている能力故であった。

私とナギが持っている能力は攻撃性が顕著に現れる能力であった。

特にナギはまさに殺戮の権化の様な能力を持っている為、人に使うことに対しては抵抗があった。


「…まぁいいや!また今度模擬戦やろうね!約束だよ!」


「ああ、その時はもっと強くなってるだろうしな。今より良い勝負が出来そうだ」


「そうだね!それじゃ、私は先に戻ってるね!」


大振りで手を振りながら去っていくナギを見送る。


「どうしてだろうな。ナギと居ると、何だかあったかいような感じがする」


日々の差別、憎悪、畏怖、嫉妬、様々な人間から向けられた冷たい感情も、ナギといると全て吹き飛んでしまう様な感じがした。


「……楽しいな」


少しの間ハッとした。

数年感じえなかった感情だった。


「さて、私も戻るとするか」


私は受付へと行き、終了の手続きを済ませる。


「……ナツメさん?何だか嬉しそうですね。何かありましたか?」


「ん?」


受付の人に言われた一言。

思わず顔を触ると、自身の口角が上がっているのが分かった。


「ああ、ちょっと気付いたことがあったもので」


少しにやけながら私はそう答えた。

受付は少し物珍しさを出した笑顔で私を見る。

そうして少し受付と話した後、私は自身の部屋へと戻って行った。

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