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62.たとえ双子でも

「ごめんジョン君……」

「謝れとまでは言ってねぇけどよ」

「其方が謝るべきだろう」


 どうやらわたくしたちは子供たちの前で痴態(ちたい)を晒してしまいかけたらしい。その事実に、いたたまれない気持ちになってしまう。

 そんなわたくしをよそに、フレデリク様はジョン君の方を振り向いた。


 ジョン君の方を見るとその隣には先ほど助けたというか、見つけたリサちゃんがいた。

 たしかに並ぶと兄妹なのだとわかるが、リサちゃんはちょっと小さいので一見双子には見えない。


 わたくしも木の上で見た時「双子なの?」と思ってしまったぐらいだ。


「ほら、みんなに心配かけたんだから謝れ」

「でも……」

「姉ちゃんは怒ったりしねぇから大丈夫だ。心配かけてごめんなさいだろ」

「だって……」


 彼女は言葉に詰まっているようだ。それもそうだろう。ジョン君に聞くところによると二人の父親は貴族だったらしい。

 そしてその父親がろくでもないというのだから、彼女の中の貴族像もまたあまりよくないものだというのは想像に難くない。

 彼女がいいイメージを持っているのはせいぜいミアぐらいだと思う。


「さっきは隠れるのがとても上手だったね。部屋の中でもちょっと言ったけど、わたくしの名前はイェニー。あなたは?」

「……リサ」

「リサちゃんね。よろしく」


 彼女の名前は先にジョン君から聞いていたけれど、わたくしの口から言うのはマナー違反もいいところだろう。


 わたくしは心からの笑顔を意識して手を差し出す。

 彼女は恐る恐るといった様子でわたくしの顔を見た。続けて、彼女はジョン君の顔を窺う。彼が首を縦に振ったのを見ると、彼女はわたくしの方に向き直って、手を握ってくれた。


「ジョン君から聞いたよ。あなたたちが双子だって話」


 その言葉を聞いたリサちゃんは下を向いてしまった。双子と知られたことが原因で痛い目にあった過去が原因なのだろう。

 誘拐されたことも彼女の心に影を落としているのかもしれないけれども。


「あのな、姉ちゃんも双子らしいぞ」

「え?」


 リサちゃんはジョン君の言葉に開いた口が塞がらないといった様子だった。わたくしはその言葉につとめて笑顔で対応した。


「わたくしにも双子のお姉ちゃんがいるの」

「そうなん、ですか」


 あれ? やっぱりこの話はタブーだったかな。彼女はまたまた俯いてしまった。それともこれが普段の彼女なのだろうか。


 暗く下を向いて過ごすのがいけないとは言わないけれど、今の生活が辛くはないのだろうかと心配にはなる。


 しかしそう思ったのもつかの間。彼女は意を決したように顔を上げた。


「あの、おねえちゃんは辛くないの?」

「……うん。辛くないよ」

「双子って、きらわれているよね」


 わたくしは彼女の言葉に答えようとして、回答に(きゅう)した。


 わたくしは目の前の少女に何と答えればよいのだろうか。彼女の中では双子というのは忌み嫌われる存在で。


 一方わたくしは双子としてこの世界に生まれ落ちたにもかかわらず、そのせいで不当な扱いを受けた覚えは一切ない。


 でも、この国において一般的な双子とは彼女の心の中にあるイメージの方が近いのだろう。わたくしや侯爵家から追い出されることのなかったシェリーが異質なのだと思う。

 それでも、わたくしは彼女に伝えたいことがある。


「たしかに、リサちゃんの言う通りよ。この国では双子だというだけで嫌われている子がたくさんいる。でも、双子だからという理由で誰かを悪く言うのは間違っているとわたくしは思うの」

「双子はだめじゃないの?」

「みんながどうして双子のことを嫌がっているのか知ってる? わたくしはおとぎ話がきっかけだと思っているの。でも、そのおとぎ話に双子は生まれてはいけないだなんて書かれていなかったわ。でも、その話を聞いた人の中には間違って『双子はだめ』だなんて言った人がいたんだと思う」


 その言葉に彼女はとうとう座り込んでしまう。彼女の見た目の幼さも相まって、わたくしは悪いことをした気分になってしまった。ジョン君が説明してくれる。


「その、さ。俺らの親父はお貴族様らしいんだけどさ。大切にしてくれたことなんて全然なかったんだ。だから、リサは双子がどうとか言うより……その、なんだ」

「でもお母さんは大切にしてくれた。違う?」


 一度は理由があって孤児院に送られたとはいえ、結局お母様だけでなくお父様にも愛されていたわたくしが言うのは気が引けるけれど。

 双子だと誰かに罵られようとも、様子を見に来ることすらしないろくでもない父親であろうとも。それでも話を聞く限り二人は間違いなく母親には愛されていたはずだ。


 みんながみんなそうだとは言わないけれど、少なくともこの二人には当てはまる話だと思う。わたくしの推測にジョン君は首肯した。


「ああ、母さんは俺たちのことを大事にしてくれていたと、思う……」

「うん」


 リサちゃんも座ったまま、同調するように頷いた。


「愛されちゃだめな子なんて、この世界には一人もいないの。双子に生まれてきたからって、そんなのは理由にはならないわ」


 わたくしは彼女の目線に合わせてしゃがみ込んだ。頭を優しく撫でる。


 こうしているとイライザに()われたことを思い出す。今回はわたくしが自発的にやっているだけだけれど。


 迷惑そうにはしていないので、そのまま撫でさせてもらい続けることにした。孤児となる子供が一人でも少なくなってほしい。そう願いをこめながら。


 今のわたくしはフレデリク様の妃、つまり未来の王妃となる立場で。つまり、それを成し遂げる力はあるはずだ。だから、あとはわたくしがそれを行動に移すだけ。


 今はまだ拙いわたくしだけれども。これから努力して一歩、また一歩と進んでいけばいつかは夢に届くはずだ。


 もしかしたらアーシャ様はわたくしがこうなることを予見していてこの孤児院への視察を頼んだのではないか、とまで思ってしまう。




☆☆☆☆☆




 どのくらい経っただろうか。いつの間にか、わたくしたちの周りにはおおくの子供たちが集まってきていた。


 その中の一人が声を上げたからだろう。わたくしたちの方を向いて彼らの声を背中側に受けているフレデリク様とミアも、わたくしたち同様にそちらを向いた。


「あー! お貴族様にそんなことしてもらってるなんてだめだろー!」

「そうだそうだ! 双子のくせに!」


 子供は、大人の鏡だ。理解せずに大人の影響を受けてしまう彼らには、ほとんどの場合そこに悪意などなく、純粋にそれが事実なのだと思い込んでいるだけだ。


 だからわたくしは立ち上がり、リサちゃんを揶揄(からか)う子たちの方を見て満面の笑みでこう言った。


「あなたたちも頭、撫でてあげようか? おいで」

「ち、違ぇよ! 双子だからってお貴族様に頭をなでてもらうのがいけねぇんだ!」

「そんなルールはなかったと思うけれど……そうですよね。フレッ……フレッドさん?」


 フレデリク様は珍しく考え事をしているようだった。

 もしかして、わたくしが習っていないだけで、そのような法律があったのだろうか。だとすると制止しなかったのは彼の優しさゆえだろうか。そんなことを思っていると。


「そうだ。イェニーの言う通りだ。別に私が其方たちを撫でてやってもいいぞ」

「……じゃあ姉ちゃんの方がいい」


 そう言ってその男の子はわたくしの方によって来た。彼の後ろではミアやアニーが他の子たちに囲まれてどんどん遠くへと連れて行かれているが、そのことは彼が気づくまで内緒にしようと思う。


 ちなみにフレデリク様は依然ここにいる。わたくしは中腰になり、男の子の頭を撫でながら、おもむろに話しかけた。


 ちなみに、先ほど彼と一緒にジョン君たちを揶揄っていたもう一人の子はミアたちの方にいる。


「実はね、わたくしもジョン君たちみたいに双子なの」

「えっ? そ、そうなんだ」

「双子が怖い?」


 彼は首を横に振って否定した。まあ、お貴族様に逆らうことができないせいかもしれないけれど。


「みんなが双子のことを悪く言うのは昔話のせいなの。知ってる?」


 わたくしの言葉に首を必死に縦に振る男の子。別にそこまで全力で頷かなくて大丈夫だと言ってあげたい。


「そのお話には双子が怖いだなんて一言も書いてないの。だから、読んでみて」

「うん……」

「それとも今度読んであげよっか?」


 彼はその言葉に再び首を横に振った。わたくしはひとまず子供たちの良心に任せてみようと心に決めた。


今回のサブタイは悩んだので変になってないか心配だったりします…

王都孤児院編あともう少しだけ続きます。

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