星気霊廟・眠る生の始祖
翌日、すぐにマトルアの南西の町、リットに向かった。
リットは生の始祖ことシエラの出身地で、生の始祖の町とも呼ばれている。
そして町の南には、シエラを祀る霊廟であり、ジークで最も神聖な場所と言われる星気霊廟がある。
リットもだけど、星気霊廟にも行ってみたいと前から思っていた。
特に大きな理由はないけど…
リットは、観光地として有名だから。
そして星気霊廟は、私の祖先が眠る場所だから。
リットに入ると、すぐに何かの魔力が町全体に満ちているのに気づいた。
町の人に聞いてみたら、星気霊廟を中心としてリットを包む強力な結界が張られており、町の中は生の魔力で満たされているとのことだった。
星気霊廟が作られた時から存在する結界。
今も生きているようで安心した。
「それで、まずは町のどこに行くつもりなんだ?」
「町長の所に行こうと思います。
星気霊廟の試練を受けたいので」
龍神さんはよくわかっていないようだったけど、行けばわかる事だ。
微かに雪の舞う町中を歩く。
なんだか懐かしい気分だ。
-初めて水兵の長に会った時も、こんな天気だったっけ。
そう言えば、ユキさんは今頃何してるんだろう。
ニームの復興は、どこまで進んだんだろう。
町長の家は町の南東にあった。
他の家より大きめだけど、決して豪華ではない。
-あれから長い年月が経った。
町並みがどんなに変わろうとも、この家だけは変わっていない。
まあ、当然と言えば当然なのだが。
ドアをノックすると、黒髪に白髪が混じった中年男性が出てきた。
「何の御用でしょうか?」
「旅の者です。星気霊廟の試練を受けたいのですが、町長さんはいらっしゃいますか?」
男性ははっと驚いた顔をし、町長は私です、こちらへ、と言って入れてくれた。
二階の部屋へ通され、ソファに座るよう言われた。
「星気霊廟の試練を受けたい、と仰っていましたが…本気、なのですか?」
「はい。私達は、八大再生者を倒すために旅をしています。
まだ王典しか倒していませんが、いずれは…」
言ってる途中で、町長の驚きの台詞に割り込まれた。
「な…王典を倒したのですか!?」
「ええ…再封印もしました。
私達…」
「封印した…?
では、あなたが生の始祖様の末裔…生き残った妹なのですね!」
「は、はい…。
星気霊廟には、生の始祖が次世代の戦士を選び抜く為に残した試練があると聞きました。
私は生の始祖の末裔として、先祖の残した星気霊廟の試練を受けたいんです。
そして、もっと強くなりたいんです」
「そうですか…
ところで、そちらの方は試練の事をご存知なのですか?」
「あ、彼は…」
「知らないな…状況がよくわからん」
「では、説明いたしましょう。
星気霊廟は生の始祖様が自身のお墓として直々に築かれた霊廟ですが、別の目的があります。
それが、星気の試練。
いつの日か再生者が蘇る事を知っておられた生の始祖様は、再生者と戦う力がある者を見極め、または育てる為の試練を残していったのです。
復活の儀が起こって25年、再び再生者が現れた今こそ、星気の試練を乗り越えられる戦士が必要です。
しかし、この数千年間、星気の試練を一つとして達成出来た者はいません」
「なるほど、その試練のクリアに必要な資格とかはあるのか?」
「細かい物はいくつかありますが、最終的には"力"が求められると聞きます。
私も、これまで何度も力のある者が試練に挑むのを見てきましたが、無事に試練を乗り越えられた者はいません。
しかし、あなた方ならば…」
すると、彼はニヤリと笑った。
「あんた、人を見る目があるな。
楽勝だよな、アレイ?」
「楽勝…かはわかりませんが…
きっと完遂して見せます!」
「そうですか。それは心強い。
星気の試練を乗り越えた者には、かつて生の始祖様が使った武具が与えられるとも言われております。
あなた方になら、扱う資格があるでしょう、
試練は星気霊廟で簡単に受けられます。
どうか、お気をつけて」
町長の家を出て南に行くと、すぐに大きくて立派な建物が現れる。
堀に囲まれたそれは、唯一の進入路である一本の橋を踏む者に挑戦心と希望を与え、一面白塗りのその姿を見る者に厳粛ながら優しい印象を与える。
星気霊廟…
その昔、生の始祖とも望み子とも呼ばれた陰陽師が最後に残した場所。
そして、私の祖先が眠る場所。
「ここが、星気霊廟か…」
龍神さんもそれ以上の言葉を失っていた。
「荘厳な眺めですね…
でも、今は別の目的があります。行きましょう」
廟に入り、奥へ進むとすぐに出迎えがある。
と言っても、それは人間や異人ではない。
「ようこそおいで下さいました。
試練を受けられる方ですね?」
私達を出迎えてくれたのは、白く長い狸のような尻尾を生やした人型の存在。
人型をしているけど、私達とも異形とも違うグループの存在。
陰陽師が呼び出し操る、膨大な魔力の塊…
"式神"だ。
「はい。どこに行けば受けられますか?」
「そちらの階段を下っていただき、直進すれば第一の試練を受ける事が出来ます。
なお…あ!あなた様は、もしや!」
式神は、私の正体に気づいたようだった。
「よくぞいらっしゃいました。
私共一同、あなた様の来訪を心待ちにしておりました」
「ありがとう。
そうだ、試練のついでに彼女の遺骸も拝んでおきたいのですが、どこにありますか?」
「階段を下った所の左の通路を進めば、あの方の眠る棺があります。
あなた様がお戻りになられたと知れば、我が主もきっと喜ばれるでしょう」
「わかりました。
龍神さん、行きましょう」
「お待ち下さい!」
「はい?」
「試練は全部で4つ、基本的には連続ですが、途中でやめる事も可能です。
その場合、次回再挑戦される時に最初からやり直すか、中断した所から始めるか選択が可能です。
それから、試練の間は飛行する事は出来ませんのでご注意下さい」
「わかりました…」
「あの式神、なんで君の正体に気づいたんだ?」
「彼らは、かつてシエラが行使していた式神。
いずれ私の子孫がここにくる。その時は、全力でその子のサポートをしてやりなさい、と言う最期の命に、忠実に従っているんですよ」
「へえ…なんでそんなのわかるんだ?」
「何故でしょう」
そんな会話をしているうち、部屋の入り口についた。
邪心を持つ者には開けられない魔法がかけられた扉を開くと、10畳ほどの部屋が現れる。
その中央に安置された、質素な魔法石製の棺。
途轍もない魔力を感じるけど、恐れる事はない。
棺に歩み寄り、蓋を開けた。
白い袴と白い着物を着込み、手をお腹の上で合わせた姿勢で眠る茶髪の女性。
こうして見ると、とても厳かな印象を受ける。
でも、それと同時に優しい印象も受ける。
「これがシエラか。遺骨とかじゃないんだな」
「はい。この棺とこの建物に宿る魔力のお陰で、腐敗も乾燥もせずにここで眠り続けているんです」
「ほう…」
彼は、遺骸をじっと、興味深いという目で見つめた。
「あ、あの…」
「どうした?」
「あまり…凝視しないでくれませんか…?
その…なんか、気まずいので…」
「?わ、わかった」
私達は棺を閉め、手を合わせて拝んだ。




