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部屋を出て、マーシィ…もといロザミについていく。

時折通行人が変な目で見てくるけど、気にしない。




大広間で待機していた客人。

それは、一本の槍を携えた緑髪長身の男性だった。

「ロザミ陛下、お久しぶりです」

(きし)()さん、ご足労ありがとうございます」

彼はロザミに向かって一礼した後、すぐに私の方を見てきた。

「陛下、そちらの方々は?」

「どちらも知り合いです。左は水兵、右は殺人鬼。

一応申し上げておきますが、彼は危険はありません」

「左様ですか…。

陛下、よろしければお二人とお話しても?」

「ええ、結構ですよ」

彼は私の方に歩いてきた。



「あなたは…」

「アレイ·スターリィと言います。(きし)()(みつる)さん、ですよね。ユキさんからお話を伺っております」

「ユキ、ということは…そうか。あなたはレークの水兵か」

「はい。長くにわたり、長と町をお気遣い頂きありがとうございます」

彼は軋羽光さん、ユキさんの知り合いの霊騎士だ。

数十年に一度レークに来て町を見たり、水兵に訓練をつけたりしてくれる。

「以前レークに行った際は見なかった顔だな…

新人か?」

「新人…ではないですね。今年で20年目になります」

「20年目か。なら見たことがないはずだ…しかし」

彼は、顔を近づけて私の目を見てくる。

「遠い昔、どこかで会ったことがあるな?」

「…そうですか?」

「ああ。君の魂が纏う力…見覚えがある。確か、数千年前の異人の…誰だったか…」

実を言うと、私も彼の姿を見た時、既視感を感じた。

何だろう。今まで会ったことないはずなのに…


「それは自然な感覚かもしれませんよ。彼女は、生の始祖の末裔ですから」

ロザミがそう言うと、軋羽さんは酷く驚いた顔をした。

「生の始祖の末裔…?という事は、生き残った妹か!?

信じられん…本当に生きていたのか!」

「えっ?」

生き残った妹?って何だろう?

そんな私の疑問をよそに、軋羽さんは私の手を取って、

「そうか、君が生き残った妹…シエラの子孫だったのだな!

そうか…通りで…」

なんかすごい喜んでるけど、何?何なの?

「あ、あの、生き残った妹、って何ですか?」

「なんだ?知らないのか?」

「あ、そっか、そういや言ってなかったな」

龍神さんが口を挟み、軋羽さんは彼の方を見て…その目を光らせた。


「君は…ほう、なかなかの大物ではないか。

この子に、妙な事を吹き込んでいないだろうな?」

「そんなことする訳ねーだろ。この子に、俺みたいな汚れた奴が吹き込める事なんざ、何もない」

「ほう…汚れているという自覚はあるのだな」


「あの、彼は私の味方なんです…軋羽さん、彼は本当に大丈夫なので…」

あまり悪い空気にならないよう、一応カバーしておく。

軋羽さんは、人を殺して回る殺人者を見つけ出して殺す仕事も行っていると聞く。

二人は普通に会話しているように見えるけど、どこか緊迫した雰囲気を醸し出していた。


「本人とロザミ陛下がそう言うのならば、信じよう。

それに、考え方によっては都合がいい」

軋羽さんは再びロザミの方を向き、

「申し遅れましたが陛下、本日はお願いがあって参りました。既にノグレからの国書が届いているかとは思いますが、一週間後に行われる、リスウェ湖付近の異形の討伐作戦にご参加をお願いします」

「ええ、わかっております。

ノグレ王に、よいお返事をしようと思っていた所です」

「感謝致します。それから、一つ提案があるのですが…」


軋羽さんは、私達に視線を移す。

「まず、彼ら二人をリスウェ湖に派遣されては如何でしょうか」

「何故ですか?」

「リスウェ湖の(びゃく)水兵…。彼らとの意志疎通は、我々では困難です。今回の作戦では、白水兵との干渉は極力避ける、という事で一致しておりました。しかし、彼らならば話は別。ここはこの者達に、話をつけてきてもらうのがよいかと」

ロザミは私達の顔色を伺った後、

「そうですね。

お二人とも、よろしいでしょうか?」

と頼み込んできた。


「ええ、いいですよ」

「御安い御用だ」

「ありがとうございます。という訳なので、白水兵達の事は引き受けます。

私も後程国書を出しますが、ノグレ王にもそうお伝え下さい」

「ありがとうございます、陛下。それでは、私はこれで」


軋羽さんが去った後、彼女は口を開いた。

「申し訳ありませんが、速やかにリスウェ湖に向けて出発していただけないでしょうか。

私はこれから兵を集め、ノグレ王に国書の返信を書かねば。

リスウェ湖へは西口を出て、フステア川を登って向かうとよいでしょう」

「わかった。すぐに向かおう」

「今からいけば、夕方には帰ってこられますね。

向こうには、ノグレとマトルアの軍が来ることを伝えてくればいいんですよね?」

「ええ、お願いします」





町の西口を出てしばらく草原の道を進むと、右側に大きな川が現れる。これがフステア川だ。

「ここを泳いでいけばいいんだな」

「そうですね」

彼に力を与え、川に飛び込んだ。



水の中はごみなどもなく、至って綺麗だった。

川の流れは緩やかで、泳ぐのは難しくない。

龍神さんと横に並び、川の中央を泳ぐ。


「真冬の川を生身で泳ぐなんて、普通じゃまず出来ない経験だな」

「水温が低いですからね。

でも、深海の水に比べれば冷たくないでしょう?」

「そうだな…で、湖まではどれくらいかかるんだ?」

「10分もあればつくと思います」

「歩きで行くより、断然早いな。俺の足じゃ一時間はかかるんだが」


この川はリスウェ湖から流れ出し、ニームの方を通って海に流れ出している。

傾斜は緩やかなので、登るのはたやすい。



冷ややかな淡水の中を、水をかき分けて進む。

湖は、おそらくもうすぐだ。


異人・霊騎士

騎士、聖騎士、魔騎士の上位に位置する、騎士系の最上位種族。

霊力と呼ばれる独自の力を操り、総じて類まれな武術の腕と高いカリスマ性を持つ。

他の生物のような魂ではなく霊魂と呼ばれる霊力の塊を本体として宿しており、死亡しても霊魂が無事であれば記憶・能力をそのままに何度でも肉体を変えて生まれ変わる事が可能。

生まれ変わった回数は「○周目」というように表現される(一度も死んでいなければ1周目、一度死んでいれば2周目)。

 

軋羽光

現在318周目、ノワールにおいて最古参とされる霊騎士。

「大陸最強の魔騎士団」と呼ばれるレザイ王立魔騎士団の創設者にして団長で、厳格ながら面倒見のよい性格。

トータルで三億年という年月を生きており、歴史上の重要人物や過去の大きな出来事の実態を知る数少ない人物。

生·死の始祖らとも面識があるようだ。

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