疑問と閃き
「どうよ?」
セレンはどや顔でこっちを見てきた。
「…見事なもんだ。これなら、即戦力になりそうだな」
「よかったじゃない、セレン!」
「あなたほどの人が吸血鬼狩りになってくれれば、レークも大丈夫そうね。よかった」
マーシィとアレイが喜び、当の本人は、
「ふふっ…」
照れ笑いをした。
もうちょい柔軟な発想するのかなとか思ってたから、そこはちょっと期待はずれだったが、彼女の実力自体は確かなものだ。
「ところで龍神さん、なぜここに吸血鬼がいることがわかったんですか?」
マーシィが言った。
「…ん?」
「さっき私が探知結界を張った時、心の中で"やっぱりか"と呟いてましたよね。なぜ、わかったんですか?」
心の中を見られるのなんて久しぶりだな…。
「言うまでもないだろ?」
「…まあ…そう、ですね」
「あれ、龍神さん始めからここに吸血鬼がいることわかってたんですか?」
「まあな…」
期待の新人もいる事だし、説明しておこう。
死霊騎士はアンデッドを率いている事がある。
奴らは主が訪れた町や都市を、主が去った後に追い討ちをかける形で襲う。
あるいは、アンデッドはより高位のアンデッドの元に集まる習性があるので、場に残された死霊騎士の力に反応して集まってくる事もある。
「そういう事でしたか…」
「覚えとけよセレン…。これは、吸血鬼狩りなら知ってて当然の事だからな」
「わかった」
町への帰り道、こんな話をした。
「なあマーシィ、なんで心の声がわかったんだ?」
素直に答えてくれるかは正直疑問だが、一応聞いてみた。
「"魔女の瞳"…この首飾りのおかげですよ」
「あ、そうなのか」
あっさり答えてくれた。
いや、もちろん嬉しいが…なんと言うか、呆気ないな。
「どうかされました?」
「いや、こういう事聞かれて素直に答えてくれる奴は珍しいなって…」
さして親しい訳でもない奴に自分の特殊能力や強みの所以を聞かれてホイホイ教えるのは余程純粋な奴か、じゃなきゃ絶対にそれを利用されない自信がある奴だろう。
「なんだ、そんなことですか。それは簡単な事です」
マーシィはそこで言葉を切り、
「私には、あなたが100%信頼出来る人だとわかるから…ですよ」
と、胸元の首飾りを妖しく光らせながら言った。
その声は優しく、どこか艶かしく…
囁く魔女のようだった。
「なぜ、俺が信頼出来る奴だと思うんだ?」
「あなたは私の祖先を助けてくれた人。先祖が受けた恩は子孫が返さなければ。
それに、私は魔女の末裔ですよ?邪な考えを持つ人であれば、すぐわかります」
…なんか、色々と懐かしい感じがする。
こうして見ると、やっぱりこの子はあいつの末裔なんだな、としみじみ思う。
「…龍神さん?」
「あら…どうかなされました?」
「…んっ?」
「今、強い負の感情を持つ過去を感じました。何か、複雑な過去があるみたいですね…?」
「心が少し乱れていますね。何か悲しい事でも思い出したのですか?」
精神系の能力持ち二人に心に入ってこられるのは、なかなかくるものがある。
「いや、大したことじゃない。もう、終わった話だからな…」
しまった、メチャクチャ気になるような締め方をしてしまった。
◇
彼の締め方から、何か訳ありな過去があることは考えるまでもなかった。
気にはなるけど、なぜか見る気にはならなかった。
いや、正確には見てはいけないような気がした。
龍神さんとメラリーとの間に、一体何があったんだろう。
ユキさんたちはレークに帰ったけど、私達は今日も神殿に泊まっていいそうだ。
私達もレークに戻ってもよかったのだけど…
キャルシィさん、ありがとう。
「なんだよ、一体…」
「いいから、来てください!」
「わかったわかった…」
夜9時すぎ、龍神さんを引っ張るようにしてベランダへ連れていった。
どうしても、彼に見せたいものがあったから。
「っ、さっむっ…!アレイ、早く用件を…」
「見て下さい…」
彼は怪訝な顔をしていたけど、「それ」を見て言葉を失った。
私が龍神さんに見せたかったもの。
それは夜空を彩る、紫や緑の光のカーテン…
そう、オーロラだ。
ニームでは、冬の晴れた夜には結構高めの確率でオーロラを見ることができる。
「綺麗だな…」
「でしょう?ニームは、ジークでも有数のオーロラ多発地帯なんですよ。神秘的ですよね…」
これ以上の言葉はいらない。
寒空の下、静かに光り輝くオーロラを見上げながら、私はただ思いに耽った。
やがて紫色のオーロラは消え、緑一色になった。
さらにそれは、そのうちチカチカと点滅を始めた。
きれい…
そして、この光を見ていると、何か閃きそうだ。
何か、何か…
はっ、と閃いた!
新しい氷の術…。
ただ、これは魔力の消費が大きそうだ。
今日はもう疲れたし、もうしばらくオーロラを見たら寝よう。