反撃
「アレイ、無事でよかった!
…キャルシィさん達も、ご無事だったんですね!」
マーシィが喜びの声を上げた。
「ええ、なんとかね…」
「その傷は…!すぐに手当てしましょう!」
「いえ…まだ…こいつらを…!」
無理に立ち上がろうとするリヒセロを、キャルシィが抱くようにしてなだめた。
「駄目よ、このまま戦っても勝ち目は薄い。
ここは彼女らに任せて、大人しく引き下がりましょう」
さすがは水兵の長、引くタイミングはしっかり弁えておられるらしい。
しかし、火を使う奴を相手にしてキャルシィが水の術を全く使わなかったのはなぜなのだろうか。
ニームの長なら水の力を使えるだろうに。
「さあ、こちらへ!私がお送りします!
アレイも、一旦下がって!」
マーシィが三人をどこかへワープさせた。
「あなたはどうなの?」
セレンが聞いてきた。
「どうだと思うよ?」
「…キツそうね」
「ご名答…はあ…」
彼女は俺の足を見て、小さく驚きの声を上げた。
「これはまずい…マーシィ、彼もワープさせて!」
「え、もしかして彼も酷い状態なの!?」
「足に腐食の呪いをかけられてる。
すぐユキさんの所に送って、呪いを解かないと!」
「へえ…」
これが「能力」と言うよりは「呪い」によるものである事を、一発で見抜くとは。
「君には、才があるかもな…」
「…なんですって?」
さて、ここで問題のお二人様が起き上がってきた。
それを見たセレンは、無言で俺を後ろに下げた。
さらにマーシィが、奴らに気づかれないように保護魔法をかけてくれた。
「増援とは小癪な…」
「まさか、他の町から来るとはね…」
エイミは大剣を杖代わりにして立ち上がる。
バスムは、普通に起き上がった。
「私達の繋がりを甘く見てたのかしら?」
「おおかたキャルシィさんを狙ったんでしょうが、大きなミスでしたね。あなた達の町への攻撃を受けて、キャルシィさんが私達を呼んでくれました」
「ちっ、ぬかったわ。エイミ様、申し訳ありません…」
「バスム、あなたのせいじゃない。
それに、これはチャンスよ。レークの奴らが来たって事は、こいつらも一緒に潰すチャンスじゃない?」
「そう…ですな!」
奴らは急に元気づいた。
「レークの水兵どもよ。
ニームの連中も、お前達も、すべて我らが殺してやるわ!」
「やってみなさいよ。
私達は簡単に負ける程、やわじゃないけどね」
セレンは背負っていた薙刀を抜き、
「殺されるものですか。あなた達の好きにはさせません!」
マーシィは杖を構えた。
状況的に動けそうにないので、ここは彼女らに任せる。
魔女っ娘の水兵と、戦闘好きの水兵…
二人の戦う場面は見たことがないが、二人が俺の予想通りやってくれる子達なら、面白い見物になりそうだ。
「威勢だけは立派ね。
水兵ってのは、威勢のよさしか取り柄がないのかしら?」
「どうだかね」
「威勢がどうこうなど関係ない。
私達はあなた達を倒す、それだけです!」
「ほう…ならば仕掛けて来るがいい。
お前達の実力が如何なものか…エイミ様に先だち、私が見てやろう」
「それはどうも。[マッハスナイパー]」
「[マインドショット]」
バスムは、セレンの最初の技はなんなく交わした。
そして、マーシィの技も同様に交わした。
「薙技 [ミドルベルン]」
「杖技 [白霊導光]」
二人はすぐに二回目の攻撃を仕掛ける。
バスムはセレンの技を交わしたが、マーシィの技は仮面に食らった。
多少のけ反ったが、倒れるには至らなかった。
「なるほど…威力はあるな。
だが、先ほどの連中と同じことよ…」
奴は再び炎を吐く異形を呼び出した。
「火の異形か…マーシィ、いける?」
「いつも通りだよね?」
「ええ。大丈夫?」
「任せて!」
セレンがにこやかにウィンクすると、マーシィは杖を横に構えて何か呪文のようなものを唱えた。
すると、異形のまわりに4本の赤い柱?が現れた。
それぞれの先端から別の柱とつながるように直線が伸び、異形を真ん中に閉じ込めるようにして立方体の結界を形成した。
そして、結界に封じられた異形は動きを止めた。
「何の小細工だ?…ぬ!これは!」
バスムは最初この結界が何なのかわからないようだったが、異形が動きを止めたのを見て理解したようだった。
「小賢しい事をしおって!…!?」
バスムが喚いている最中、後ろからセレンが奇襲をかけた。
さらに、奴が前に倒れているその間に前にまわりこみ、薙刀を振り下ろした。
その速さはまさしく電光石火。そして…
「理法 [精魂裂裁]!」
そこに行われる、マーシィの迅速な追撃。
さらに、二人は合流して…
「合術 [冷酷な暴風!]」
見事だ。
一人が補助技で気を引き、もう一人が奇襲をかけ、二人続けて追撃する。
そして、最後は協力して術を撃ち込む。
一見容易に見えるが、互いに経験と信頼がなければ出来ない…
それこそ、友人以上の関係でなければ成せぬ業だ。
「くっ…」
今の一連の攻撃で、バスムの仮面にはひびが入っていた。
「バスム…!
仕方ないわね、ここは下がりましょう!
あんた達…次に会った時が最後だからね!」
エイミはそう捨て台詞を吐き、バスムを連れてバニシュしていった。
「終わった…。龍神さん、大丈夫ですか!?」
「何とかな…。君の保護魔法のおかげで、どうにか耐えられた」
「ならよかったです…。でも、こんな強力な呪いは私だけでは解けません。ユキさんの所へ行きましょう!」