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二人の海

海の中は意外と暖かい。

ニームはレークより寒い所なので海水も冷たいけど、それでも水温は15℃はある。


龍神さんは、不思議な経験でもしたかのような顔をしていた。

「なんだ…濡れて嫌な感じがしないし、息もできる…」


「それが私の…水兵の力ですよ。

濡れても平気になり、水中でも呼吸や会話ができるようになります。そして、うまく泳げるようにもなりますよ」


「どれ…」


龍神さんは試しに軽く泳いで、驚いていた。

「ちょっと泳いだだけでこんなに進めるのか…」


「私の力を分けましたからね、今、龍神さんには私と同じ能力が身についているんです」


「君と同じ能力?…って、君はどのくらいの速さで泳げるんだ?」


「時速40㎞ほどですね」


「ずいぶん速ええなあ…」


「もっと速い人がザラにいます。

マーシィは50㎞、ユキさんなんて80㎞は行きますよ」


「そんな速く泳げんなら、陸を走る必要なくないか?」


「それは違いますね。

私は別ですが、水兵は海に生まれて陸に暮らす種族。

海は暮らしやすいですが、狭い世界です。

陸は広くて、多くのものと関わる事が出来ます。

折角陸に上がれたんですから、なるべく陸の人達ともいい関係を築き、うまくやっていきたい。

それが、私達の考えです」


水兵は、元々は海人の一種。

陸の面積は海と比べれば狭いし、海の者にとっては当然海より生きづらい。

でも、陸の世界は海のそれよりずっと広い。


私は元々人間だったから、最初から水兵だった人…ましてや太古の時代の水兵の気持ちはわからない。


けれど、これだけはわかる。

遠い昔、水兵の祖先が陸に上がったのは、広いようで狭い海の世界に飽きたから。未知の世界である陸に、他の種族との出会いを夢見たから。

そして…


陸の種族と、末永く仲良く暮らしていきたいと思ったから、だ。

「ほう…

そっか、君は元々人間だったんだな」 


「ええ。でも、"心"は生まれながらの水兵と同じだと思っています」


「ふむ…」

複雑な面持ちになる彼の肩をぽんと軽く叩く。

「複雑な考え事なんてしなくていいですよ。

折角だから、色々話しながら楽しみましょう」





それから、私達は穏やかな時間を過ごした。

たくさんの魚や氷珊瑚、海面にちらちら光る太陽を見ながらゆったりと泳いだ。

そしてその途中、色々話して、笑って、おどけて…

楽しい時間だった。


―こうしていると、ぼんやりと思い出す。

ずっと昔、こんな風に楽しく話せる大切な友人がいた事を。


もちろん今の友達や彼と話すのも好きだけど…

私にとって、初めてにして最高の友達は彼女達だった。

名前は思い出せないけど…彼女達はとても大切な仲間だった。

あの時、魔薬を飲む選択をしていれば…




いや、いいんだ。

これもまた、自分で選んだ道。

それに、今こうして充実した人生を送れているのだ。

今さら後悔する必要はない。




気づけばかなり沖合いへ来ていた。

ニームまでは10㎞ほどだろうか。

「なあ、アレイ」

「何でしょう?」

「海人は深海にもいると聞いたことがあるんだが…

水兵は深海にはいけないのか?」

「行けますよ。行ってみますか?」

「ここから行けるのか?」

「ええ。この下は海溝になってますからね」

「じゃ、行ってみたいな」

返事の代わりに、彼の腰に手を回す。

そして、後ろに倒れるようにして闇の底へ墜ちてゆく。








「お連れしますよ。この海で最高の場所へ…」


・異人詳細解説 水兵編

東西ジーク大陸の一部沿岸地域に分布する異人で、現在確認されている中では唯一の陸棲の海人。

他の海人とは文化や容姿が大きく異なり、ヒレや殻などの器官を一切持たず、人間とほとんど変わらない容姿をしている。

また、陸で生活し、高度な社会性を有している。男性は存在しない。

遺伝子的には人間とは無縁の種族だが、人間界で俗に言う「西洋系」の顔立ちに水兵服一式を身につけた細身の女性、といった容姿をしている。

また、一度死亡した人間が転生して水兵となる事もある。

数百人単位で海辺に町を作り、長を中心とした独自の社会組織を築いて生活する。

組織内には明確な役職が存在せず、経験や適正によって分けられた階級と職種に分かれて活動しており、それらは制服につけられた帯の本数と色で区別が可能になっている。

長は町の水兵の総括者を担い、町においては絶対的な権力を持っている他、町の代表として町の運営や外部との交渉などを行っている。

性格は総じて温厚で、古くから人間や他の異人を町に受け入れ、交易などを行って関わりを持ってきた。

そのため最も関わりやすく、珍しい海人として広く知られている。

海人の中では唯一の卵胎生の種族でもある。




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