邪教徒二人
ユゥルは一冊の黒い呪術書を取り出す。
「出でよ、カーカス!」
地面が盛り上がり、肌が茶色っぽいゾンビのような怪物が三体現れた。
リヒセロさんがまとめて剣で斬ると、分裂して増えてしまった。
「なっ…!」
「ふははは!ユゥルのカーカスは、そんな剣などでは殺せんわ!」
リブーが高笑いした。
とその刹那、キャルシィさんがリブーに斬りかかる。
リブーは杖でキャルシィさんの斧を防いでいた。
「力は見事だ…だが!」
リブーはキャルシィさんを弾き飛ばし、
「力技ではどうにもならない事もあるのだ!
出でよ異形アドヴァー!」
サソリのような黒い異形を呼び出した。
こいつは見たことがある。夏の夜に町に入ってくる、獰猛な異形だ。
こいつが厄介なのは、物理攻撃がろくに効かない事。
しかも耐久がそこそこあるので、結構術を当てないと倒せない。
「へえ。確かに、力ではどうにもならない事もあるわね。
けど、この程度の奴をぶつけてそんな台詞を吐くのは違うんじゃない?」
キャルシィさんにとっては何てことない相手であるらしく、
「水法 [デッドスプラッシュ]」
一撃で葬っていた。
それを見たリブーは、再び異形を召喚した。
今度は、1体でなく10体近く。
「[ブリザードルーラー]!」
「[ジェットチェイサー]!」
「[エルクボルト]!」
キャルシィさん以外の全員が、それぞれ術を放った。
そして全ての異形を速やかに倒し、三人でリブーを狙う。
リブーはすぐに反応し、反撃してきた。
「[常々の闇]」
術をかわして近づき、まずリヒセロさんが斬りつける。
次に龍神さんが斬り、最後に私が斬る。
「ぐぉっ…!!」
リブーは呆気なく倒れた。
「我が魂は、偉大な主と共に…」
ユゥルはというと、術で生み出した刃でキャルシィさんと斬り合いをしていた。
そして、相方が倒されるのを見たユゥルは、取り乱すことも激怒することもなく、
「リブーをやったか。
けど関係ない…あたしは楓姫様の力を授かったんだ!」
と、新たに杖を取り出した。
「偉大な主よ、我が身にあなた様のお力をお与え下さい…」
杖に莫大な魔力が集まっていく。
私達はすぐに個別で結界を張り、防御の構えを取った。
そして…
「炎法 [ドラゴファル]!」
莫大な炎を噴き出した。
それは数秒程続き、結界ごしに熱が伝わってくるほど激しいものだった。
「この炎は…」
「うちらの主、楓姫様のお力さ!
あたしは恐れ多くも、あのお方の力の一部を使わせて頂き…そのかわりに、あの方の完全な復活の手伝いをさせて頂いてるんだよ!」
「完全な復活…?どういう事?」
リヒセロさんがそう聞いた。
「25年前の儀式で、生の始祖の血を引く者…星羅こころ様が再生者となられた。それによって、楓姫様は復活なされた。だが、まだ一つ封印が残るせいで、お力を取り戻されていない。
封印を解く方法はただ一つ…
もう一人の生の始祖の血を引く者にして、星羅こころ様の妹…
アレイを、殺す事だ!」
やはりそうだったんだ。
彼女らの狙いは、キャルシィさんもだけど私もだったんだ。
「なるほどね…」
キャルシィさんは斧を下げた。
「どうした?降伏か?」
「そんな訳ないでしょ?」
リヒセロさんは、キャルシィさんから離れた。
それを見て私もああ、来るな…と思った。
「そういう事なら、なおのことあんた達を逃がす訳にいかないなー、ってね」
そして、長は現した。
莫大な力と威圧を放つ、8枚の黒い翼を有する堕天使のような姿を。
これこそ、黒夢の水兵長の本来の姿。
そして、ニームの長の本気の姿だ。
ユゥルはにやりと笑った。
「ふふ…いいねえ!あんたのその凛々しいお姿を見たかったんだ、ニームの水兵長さんよ!」
「あなた…お姉様の力を知らないの?」
リヒセロさんが、呆れにも聞こえる言葉を発した。
「知ってるともさ。その翼に秘められた闇の力は…あたしらにとっちゃ、どんな財宝より価値があるシロモノだよ!
本当は体ごと持ち帰りたい所だけど…状況が状況だからね、仕方ない。
妹ともども始末して、その躯から剥ぎ取ってやるよ!」
ユゥルは嬉しそうな声をあげ、
「楓姫様への捧げ物として十分だ…
呪術 [死神の宴]!」
呪札を取り出し、無数の死神を呼び出した。
死神たちはたちまちキャルシィさんに群がり、キャルシィさんの姿は見えなくなった。
「お姉様!」
リヒセロさんが叫んだけど、この位心配ない。
私達の予想通り、数秒の後、死神達は翼で吹き飛ばされた。
「こんなもん?」
「そんなはずがない。次はこうよ!
呪術 [哀れなる姫]!」
地面から黒い女性?が現れ、その目からムカデが這い出てきて、髪が蛇になってキャルシィさんを襲った。
けれどキャルシィさんはその蛇とムカデを手で捕まえ、
「化け物が私に触るなんて許さないわよ?」
と両方を限界まで引っ張り、そして離した。
「ならばこれでどうだ…
呪術 [葬頭河の躯]!」
虚空に現れた黒い球体から、無数の人の手がキャルシィさんに向かって伸びる。
「あら、薄気味悪い」
キャルシィさんは翼で手を防ぎ、素早く広げて手をよけつつ、
斧で切り上げて手を球体ごと消し飛ばした。
「なっ…」
ユゥルは驚き、そして怯んだようだった。
「もうショーはおしまいかしら?」
「…おのれ、舐めやがって!」
ユゥルは激昂し、杖に魔力を集めて殴りかかってきた。
「もうすねちゃったの?つまんない」
キャルシィさんはユゥルの杖を右手だけで受け止め、
「[錨を上げよ]」
斧を振り上げた。
ユゥルが吹き飛ばされ倒れた所に、リヒセロさんが追撃した。
「剣技 [切り開き]!」
お腹を斬られ、血が噴き出す。
さらにそこに、キャルシィさんも追撃。
「最後は私にやらせて?
斧技 [小物の腹開き]」
斧を振り下ろし、ユゥルの体を縦に真っ二つに切り裂いた。
「楓姫の護りがあらん事を…」
ユゥルはそう呟き、事切れた。
リヒセロ·ファンド·ロームド·レニーム
キャルシィの3歳下の妹。
一目で相手の経歴や種族·名前などの情報がわかる「解析」の異能と、優れた剣の腕を持つ。
大柄な姉とは違い、身体は比較的小柄。
その戦法も姉とは異なり、スピードとテクニックを活かした戦いを得意とする。
普段は見せずあまり知られていないが、水兵長の血を引くため姉同様に闇の翼を持っている。
かつて魔女の元で修行した経歴があり、術の扱いにも秀でている。属性は風。
異人·祈祷師
術者から分岐する種族の一つ。
闇魔法の他、異形や悪魔、邪神など「闇の者」と呼ばれる存在と契約を交わし、その力を用いる事ができる。
その性質·思考上、カルト団体や新興宗教の構成員となる場合が多い。
上位種族の呪術師はより強力な闇魔法の呪術を扱い、さらに上位の陰陽師は複数の属性を有する高位の術[陰陽道]を扱う事が出来る他、最上位の術の一つである九星天術を扱える者も存在する。




