救出策
外に繋がる扉が開き、二人の水兵が走ってきた。
どちらも緑の帯が服に入っている。
「キャルシィさん!」
二人は俺達をそっちのけで倒れた長に駆け寄り、安否を確認していた。
「脈はある…よかった」
「ああ、なんて醜い姿に…」
「キャルシィさん…」
アレイが、申し訳なさそうに呟く。
「死んではいないはずだ…」
そう言った直後、二人のうち一人がこっちを向いて掴みかかってきた。
「長に何をしたの!」
彼女の目には、強い悲しみと怒りが写し出されていた。
「ラニイ、落ち着いて…彼は悪人じゃないよ」
「そうですよ。彼は私の連れです、キャルシィさんがこんなになった原因とは無関係ですよ」
「…っ!」
二人にそう言われて、彼女は手を離した。
そして、もう一人のほうが釈明した。
「申し訳ありません、姉は気が動転していたようです。
私は、この神殿で長のお手伝いをしておりますティーサ·アテニアと申します。
彼女はラニイ…私の姉です」
「姉…」
言われてみれば似てる。
「門番より、お話は伺っております。
長を静めて頂き、ありがとうございます」
「気にするな。
それより、この長だが…」
俺は、床に倒れ、ぴくりとも動かない水兵長を見下ろした。
「今言った通り、死んではいない。アレイが気絶させただけだからな」
「アレイが?」
ティーサは、アレイを驚きの目で見た。
「ええ…キャルシィさんを気絶させたのは私です」
「そう…
うう、キャルシィさん…」
ティーサはぽろぽろと涙をこぼした。
「どうしてこんなことに…」
「"再生者の胚"だ…」
そう言うと、3人は一斉にこっちを見てきた。
「再生者の胚、って…」
「知ってるのか?」
「ええ、私は吸血鬼狩りだもの。
てか…あ!あなたは!」
ラニイは俺の正体に気づいたらしく、
「ごめんなさい!失礼極まりない事を…!」
と頭を下げてきた。
「そんな事で頭を下げなくていい。
しかし、一時の感情に流されるのは関心しないな」
「っ…
それは、その…」
「まあいい。気持ちはよくわかる」
「…。それより、長を元に戻しましょう。
再生者の胚で変異させられたなら、胚を取り除けば…」
「その通りだ。だがな、こいつをよく見てみろ」
ラニイは、その肢体をしばし調べ、そして気づいた。
「あっ…」
「そういう事だ」
「あの、一体どういうことなんですか?」
アレイとティーサが首を傾げているので、二人にもわかるよう説明する。
「キャルシィが変貌した原因は、再生者が作り出す"胚"を植え付けられたことによるものだ。
その胚を取り除けば、元に戻す事ができるんだが…」
「何か、取り除けない理由があるのですか?」
「胚は普通、普通に見てわかる場所に植え付けられてるものだ。
だが、今回は違う」
「えーと、つまり…?」
「体の中にある、ってことよ」
ラニイが言ってくれた。
「え…?」
「外科的に植え込まれたのか、はたまた飲まされたのか…
いずれにせよ、胚はキャルシィさんの体内にある。
その正確な場所がわからない以上、外から取り除くのは難しいわ」
「そんな…」
「ここに医者でもいれば別だが、多分いないだろうし。他の所から呼んでくるにしても時間がかかる。
そしてこいつは今気絶してるだけだ、このままだといずれ目を覚ましてまた暴れるだろう」
「それは困ります…」
「どうすればいいの?
まさか、長を殺せなんて言わないでしょうね?」
ラニイが、泣きそうな顔で言ってくる。
「普通は言うところだ。けど…」
「けど、何?方法があるなら言って!」
「私も知りたいです!お願いします!」
水兵姉妹に頭を下げられた。
そんなことしなくてもいいのに。
「助ける方法は、あるにはある。
ニラルの山の深部にあるという煌めく清水…あれを飲ませれば、再生者の胚を死滅させられるかもしれない」
「本当ですか!?」
「確証はないが…他に良さげな方法はない。
ニラルの山に入る許しさえ貰えれば、すぐにでも行こう」
ニラルの山はニームの南西にある山。
詳しくは知らないが、環境保全のためにニームの水兵達によって入山制限がかけられているという。
「ニラルの山ねえ…」
「いいんじゃない?仕方ないよ」
「そうねえ…」
二人はしばらく懇談した末、許諾してくれた。
「わかりました。あなた達がニラルの山に入る事を、私達が許可します」
「本当は長が許可するものだけど…特別よ。
それと、これを持っていって」
緑の丸い石を使ったブレスレットをラニイから渡された。
「あ、これって…」
「アレイ、見覚えあるのか?」
「はい。これは、ニームにとって特別な意味のある人にだけ渡されるブレスレットです。
お二人とも、ありがとうございます」
「それを持って、ニラルの入山口に行けば山に入れます。
どうか、お願いします」




