暴走
奴が腕を振り上げて床に叩きつけると、轟音と共に地震が起こる。
いや、正確には地震ではない。
(衝撃波か…)
まともに食らえば足を持っていかれかねないので、タイミングを見計らってジャンプし確実にかわすよう、アレイにも伝えた。
「キャルシィさん…!」
衝撃波をかわし、アレイが悲痛な声を上げる。
だが、嘆いている暇はないのだ。
「あいつが長だったことは忘れろ!
じゃないと本当に死ぬぞ!」
「でも…!」
そう言っているアレイに、奴は容赦なくボディプレスで襲いかかってくる。
「危ない!」
とっさに彼女を突き飛ばし、
「…っ!」
かわりに奴の下敷きとなった。
口から内臓が飛び出そうになったが、この程度で沈むものか。
「龍神さん!」
「心配すんな…こんくらい…」
かなり重いが、これくらいなら何とかなる。
いや、何とかしてやる。
「大丈夫だよ!!」
声を上げ、奴を壁まで投げ飛ばした。
奴は壁にぶち当てられてもピンピンしている。
対して俺は、奴に潰されただけで胴全体に少々きつい程度のダメージを受けている。
薬を飲む程でもない。弱い治癒魔法をかけて凌ぐ。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、気にするな…
アレイ、武器はやめだ。術で行くぞ」
あのタイプの奴には物理は効きづらいので、術で攻める事にする。
「わかりました…」
奴はラグビー選手のごとく突っ込んできた。
アレイはジャンプして、俺は右に避けて回避した。
そしてそのまま、
「[グロウサンダー]」
「[グレイスニア]」
電と氷の術を浴びせた。
多少はダメージを与えられたようだ。
次は、複数方面から電撃を同時に浴びせる術だ。
「[ビームゲート]」
奴の周り、6ヶ所に丸いゲートを生み出し、そこから一斉に電撃を撃ち出す。
さらに、
「[グラウァー·トレウ]」
細い雷で奴を囲み、ダメージを与える。
奴はうなり声を上げ、膝をついた。
これだけやれれば十分。あとは…
「奥義 [グレイシャル·イロージョン]!」
言うまでもなく、アレイがやってくれた。
アレイの奥義がかなり効いたらしく、奴が弱っているのが目に見えてわかる。
「っ…」
「どうした?」
「私には、やっぱりキャルシィさんを殺す事はできません。せめて、気絶してもらうくらいなら…」
気絶…?
「それだ!」
「え?」
「アレイ、あいつを気絶させる事はできるんだな?」
「ええ、それくらいなら…」
「なら、すぐにやってくれ!」
「は、はい!」
起き上がり、こちらに飛びかかってくる長に、アレイは弓を向ける。
そしてー
「弓技 [衝撃射ち]!」
頭を狙った正確な射撃が見事命中し、奴は空中でごろんとひっくり返って気絶した。




