血の戦い
王典の体が瞬間的に凍り付き、動きを止めた。
その隙に、釘付けから脱出した龍神さんが、
「[ペルトグラドス]」
サマーソルトのような体術を放った。
王典は表情をにわかに変え、後ろに吹き飛んだ。
「なぜだ…」
まとわりつく氷を剥がし、王典が低い声で唸った。
「?」
「スターライトの銘がつく術を、なぜお前が持っている!」
「なぜ、って…」
そう言われてもなんとも言えない。
今の技は、今突然閃いたものなのだから…
「わからないか?」
「…!?」
龍神さんが言い出す。
「アレイはシエラの末裔…
奴の力を持っていても不思議はないだろう?」
とすると、今のは私の先祖の力を借りるか何かした術?
てことは…
「なるほど…な…確かに、そうだな。
だが…」
王典は構えて、
「所詮は水兵、俺の敵ではないわ!」
ハンマーを高々と振り上げた。
王典の左肩、左腕、武器が、徐々に薄い岩で覆われていく…。
左半身が岩でできているようにも見えるその姿を見て、こいつは私が倒さなければならないものだと直感した。
そして…
「地の獄に送ってやろう…
[グランド·ショック]!」
地面を叩くことなく、武器を振るった。
地震が起き、地面が割れ、複数の割れ目が現れた。
「っ!」
間一髪、落ちずに済んだ。
「ほーう…」
龍神さんが言い出した。
彼は割れ目に飲み込まれる前にジャンプして天井に刀を刺し、掴まっていたようだ。
「町の方で地震が多いと聞いたが…
やっぱりお前の仕業だったんだな」
「あの程度の地震は、我が力の副産物に過ぎん。
だがこれは、俺自身の力そのものだ…」
王典がそう言った直後、私の足元が崩れた。
ジャンプして回避し、弓を撃つ。
「[ヘッドステッチ]」
一応やってみたけど、やはりというか気絶は効かないようだ。
そればかりか、
「奥義 [大地惨状]」
カウンターで強烈な技を使われた。
私は避けたけど、龍神さんはもろに食らってしまった。
彼の身体は無数の鋭利な岩に貫かれた。
それを見て、王典は歓びに満ちた笑い声を上げた。
「うはははは!いいなあ!
血にまみれた肢体!殺意に満ちた眼差し!
それでこそ、殺人者!真の戦いに参加する資格がある者だ!」
その上で、奴は龍神さんを更に煽った。
「どうだ?今のは効いたか?俺が憎いか?悔しいか?
ならば戦え。…さあ、来るがいい。
この地を染めるは、俺の血かお前達の血か…
それを、決めようではないか!」
私が心配するまでもなく、龍神さんは岩から身体を抜いて脱出した。
「それは望むところだ…」
身体のあちこちを貫かれ、血まみれになっている。
しかしそんな状態になっても、彼は諦めていない。
「バイスブレード…!」
「[大地の脈動]」
王典が技を唱える。
するとどうだろう、先程それなりのダメージを受けた技を受けても、平気な顔をしていた。
「っ…![グロウサンダー]…!」
龍神さんは術を撃ったが、これもほとんど効いていない。
「こそばゆいな…」
王典はため息をつく。
そして…
「奥義 [土伏臥龍怒]」
ハンマーを振りかぶり、振り下ろす。
それは轟音と共に激しい揺れを起こし、その威力の凄まじさを語る。
龍神さんは血を吐き、一度項垂れたものの、すぐに立ち直ってくる。
「…!」
「うむ…まずまずだな。あとはお楽しみの…」
次は私の方に来るのを察し、前方に宙返りしつつ、
「[隕石割り]!」
王典の左肩目掛けて、踵落としの体術を撃ち込んだ。
意外にも、王典はたやすくよろめいた。
なのですかさず、
「[アイシクル·ボンバー]」
氷の力を宿した回し蹴りで追撃した。
「ぐあっ…!」
今の連撃はかなり効いたようで、王典は武器を落とした。
この隙にさらに追撃を…
と思ったのだけど、足を掴まれてしまった。
そしてそのまま振り回され、頭を地面に叩きつけられた。
さらに続けて、頭から壁に投げつけられた。
「っ…」
さらに王典は、私の太ももにハンマーを叩きつけてきた。
と思えば、今度は右肩を殴り付けてきた。
血こそ出ないけど、骨に響くような痛みが襲ってくる。
そのうち、骨が折れる感覚がした。
同時に、これまで以上の激痛に襲われた。
「まだだ…まだだ!」
王典は喚きながら、私を攻撃してきた。
「血を…血を流せ…!」
その目は、異様な殺意と渇望を感じさせた。
そう言えば、王典は元々殺人者だったんだっけ。
私のすぐそばにも殺人者がいたけど、ここまで露骨に血を欲する事はなかった。
最も、龍神さんは殺人者の上位種族だし、彼が特別なだけなのかもしれない。
とにかく、王典は異様な眼差しと動きで、私の体のあちこちを攻撃し続けた。
そしてしばらくして、疲れたのか手を止めた。
「なぜだ…なぜ血が流れない!
普通はー」
ここで、龍神さんが王典の背後から斬りかかった。
王典は彼の腕を掴もうとしたものの、掴めなかった。
そして、
「[ガノックスパイン]!」
とどめだと言わんばかりに、王典を斬りつけつつ払い抜けた。
私も立ち上がって手をかざし、
「[スレイブレイト]!」
魔力球を複数打ち出して攻撃した。
王典の体のあちこちから、血が流れ落ちる。
龍神さんや私の体も、その血でまだらに染まった。
王典は一際大きな傷を折った右の脇腹を押さえ、唸っていた。
…でも、怯んだり弱ったりしている様子はない。
むしろ、
「く、くく、く…」
奇妙な声を上げ始めた。
そして、
「くっ…はははははっ!!!」
嬉しそうに大笑いした。
「これだ、これだ!
戦いは、こうでないとな!」
そして私達の方を改めて見て…
「骨があるようで安心した。そろそろ始めようか…
血と殺意にまみれた、本当の殺し合いをな!」




