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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
一章・流れる血

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ペレスの酒場

「な…っ…」

ゼガラルは、何が起きたのかわからないという顔で倒れた。

そして、アレイもまた、動揺を隠せずにいた。


「どうした?」


「すごい…胸を撃ち抜いても倒せなかったのに…!」


「そんな驚くことか?首を落とせば、肉体がある奴は大抵やれる。人間だってそうだろ?」


「は、はい…」

アレイは、あっけにとられてまともに喋れないという状態になっていた。

そんな引くような事ではないと思うのだが…。

もしかしたら、俺の感覚が麻痺しているのかもしれない。


まあ、とにかくこれでここでのイベントは終わった。

あとは、次の町へ行くのみだ。


       




        ◇






塔を降りる間、ずっとゼガラルの最期が頭から離れなかった。

私は終始奴の気迫に押されて、体を思うように動かせなかった。

正直、もし奴が私に向かってきてたら普通に食らってただろう。


でも、彼は違った。

彼はゼガラルの異様な気迫に全く怯えることなく、冷静だった。

そして、奴の隙を突いて背後に回り、奴を一撃で…。

私が胸を撃ち抜いても倒せなかった高位のゾンビを、容易く葬った。


いや、でも、彼は殺人鬼だ。

長年培ってきた技術、知恵があるのだろう。

それをもってすれば、あのような芸当も…。


あるいは、彼が吸血鬼狩りであるからか。

私は正直、吸血鬼狩りというのがどんなものなのかよく知らない。

でも、恐らくは吸血鬼…というかアンデッドを倒す為の豊富な知識や技を持ち、彼らを倒すのに特化した異人の集団…要はアンデッドを相手にする暗殺組織のようなものだろう。


とすると、殺人鬼である彼が吸血鬼狩りなのにはなんか納得がいく。

人のみならず、生きた屍も殺したいと考えたとか、そういうことだろうか。






町に着くと、龍神さんがラカルが死んだ事を皆に話そうと言い出した。

私は、反対した。

ラカルはこの町の…いや、この大陸の人達の希望だ。

彼らが倒れたと知れ渡れば、人々は想像もつかないほどのショックを受けるだろう。


だから、私は黙っていた方がいいと思った。

けれど、彼は打ち明けた方がいいと言った。


「既に結果として出ている事だ。黙ってても、ろくな事にならないぜ」


「それはまあ…そうかもしれません。でも…!」


「真実を皆に語るのは、真実を知った奴の役目だ。それを知った奴らがどう言おうが、真実は覆りはしない。

現実ってのは、残酷なもんだ」


「…」

私は、それ以上言い返せなかった。





その後、私達はペレスの酒場に行った。

マスターは、若い女性だった。

食事をしながら彼女と話し、ラカル一行が全滅したことを言った。

マスターは驚きつつも、「そうか…」とすんなりと受け入れたようだった。


「驚かないんだな」


「正直、仕方ないと思う。ラカルは強かったけど、あくまで戦士。王典に歯向かうなんて、おおよそ無茶だったんだよ」


「でも、彼の仲間には僧侶もいましたし…」


「僧侶くらいじゃ、到底歯が立たないよ。王典は元殺人者だ、並の異人じゃ話にならない。というかそもそも、吸血鬼狩りですら勝てないのに、普通の下級種族の異人が勝てるわけないよ」


「吸血鬼狩りでも…?」


「そう。あの塔の向こうにはメルトンって町があって、そのすぐ近くにはドーイっていう廃都があるんだけど、王典はそこのどこかにいるって言われてる。

今まで、何人もの吸血鬼狩りが王典に挑んだ。でも、誰一人帰ってはこなかった」


マスターは、無表情でそう言った。


「なんで、何人もの吸血鬼狩りが挑んだってわかるんだ?」


「…」

マスターは黙り込んだ。

そして、改めて口を開いた。


「あんた、命の酒って知ってるかい?」

これの事は、私も聞いたことがある。

「ああ。死者に飲ませれば息を吹き返し、生者が飲めば若返る事ができるっていう魔法酒だよな」


「そう。この町とドーイは、命の酒の件で深い関係にある町だった。ドーイで採れた材料を使って、この町で命の酒を作ってたんだ。

ドーイは殺人者とかがたくさんいる町だったけど、みんな素直で、こっちとも素直に取引してくれてたし、互いにいい印象を抱き合ってた。

でも、ある時王典が現れた。

みんなで立ち向かったけど、歯が立たなかった。

結局、ドーイは壊滅さ。命の酒の材料になる作物は全て枯れた。ドーイは王典に乗っ取られて、生きた死人の町になった。

この町は、滅亡は避けられた。でも、命の酒を作る事は、もう出来なくなった。その時、この町は死んだんだ」


淡々と、でもどこか切なげに喋るマスター。

私は、そんな彼女にある種の違和感を感じた。


「町が、死んだ…?」


「そう。命の酒が作れない以上、この町はもう死んだも同然さ。メルトンでは、ただ、住民の意志と未練から、辛うじて存続してるだけ。

…ま、私みたいなもんだね」


その言葉で、私は違和感の正体に勘づいた。

そして、それとなく言った。

「…もし、王典を倒してくれる人がいたら?」


「そりゃ…いいね。この町が息を吹き返す事はできなくても、活気はつくだろうさ。そうなれば、もう私にも思い残す事はない」


「そう、ですか…」

私は、出されたカクテルを飲んだ。


「王典…か」

龍神さんはグラスを光に透かし、彼もまた、カクテルを飲み干した。

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