彼女達との遭遇
アレイがパンを買いに行っている間、こちらも別で行動することにした。
まあ、単に市場を見てまわるだけだが。
「あの…」
背後から声をかけられた。
声の主は緑の短髪に青っぽいスカートの女だった。
「ん?」
「一つお聞きしたいのですが、この町で美味しいスイーツのお店はどこか、ご存知ですか?」
「…いや、知らんな。こっちも旅人なんでね」
「そうですか…それはごめんなさい」
「いやいや。あれ、てかあんた、もしかして僧侶か?」
僧侶は修道士系種族の中級に位置する種族で、修道士の上かつ司祭の下の階級だ。
基本的に修道院から出られない修道士と異なり、ある程度自由に外を出歩く事が出来る。
「はい。一年前に昇格し、外出が可能になりました。
ちょうど昇格したタイミングで、ラカルさんに声をかけられて、同行することになったんです」
とすると、こいつはラカルの仲間か。
「オリア、何してるの?」
僧侶に、白い長髪で黒い服を着た女が話しかけた。
「ちょっと聞き込みをね。美味しいスイーツのお店はありませんかーって聞いてたの」
「そう。それで、何かわかったの?」
「ううん。この人も旅人なんだって」
「そう…」
そいつは、俺の方を見てきて、
「仲間がご迷惑をおかけしました」
と頭を下げた。
「気にするな。…なるほど、僧侶と魔法使いねえ…」
ひと目でわかった。この白髪の女は、魔法使いだ。
魔法使いは術士から分岐した、光と闇以外の魔法を扱う種族で、しばらく修行を積むと魔導士に、さらに修行を積むと魔女あるいは魔王になる。
「へえ、私が魔法使いだってわかるんだ」
「ああ。昔、魔女と旅をしてた事があるんでな」
「それとは関係なくない?」
「…まあ、そうかもな」
そう言うと、魔法使いは俺を真剣な顔で見てきた。
「…メーレイ?」
「なんだろう…あなたの体から、色んな魔力を感じる。古い時代の魔力、最近の魔力。
あと…変な匂いも感じる」
「匂い?」
「そう。山の匂いもするし…潮の匂いもする。あなた、今まで色んな所回ってきたね?」
「まあ…な。俺は放浪者だし」
さりげなく嘘をついた。
放浪者とは探求者という種族の仲間の異人で、家を持たずにあちこち旅している異人だ。
「放浪者…か。それにしちゃ、ちょっと血なまぐさい匂いもするけど」
一瞬、ドキッとした。
こんな町中で正体に気づかれたらやばい。
「まあ、俺は吸血鬼狩りだしな?」
吸血鬼狩りなら、そんな悪いイメージは持たれていないのでセーフだろう。
「吸血鬼狩り?…なるほどね。うちの僧侶ちゃんにも吸血鬼狩りになってもらいたいもんだ」
「私は吸血鬼狩りになる必要なんてないよ。むしろ、メーレイこそなったほうがいいんじゃない?光魔法苦手なんだし」
「そうかな。私は銀武器があるから、大丈夫だと思うけど」
それを聞いて、俺は思わず言った。
「銀武器を使ってるのか?ちょっと見せてくれ」
魔法使いは、素直にそれを見せてくれた。
「はい」
柄に蛇の装飾が施された、刃渡り7センチ程の短剣。
刃には魔力が込められている、恐らくはこれで威力を増幅しているのだろう。
いかにも魔法使いっぽい武器だ。
「ふむ…」
「どう…ですか?」
俺は、それを見回しながら言った。
「悪くはない。魔力を込めてあるおかげで、それなりには威力があるだろう。しかも短剣だから、取り回しもいい。汎用性には優れてるな。
あとは…使用者の技量次第だ」
「技量…?」
魔法使いは、疑問を浮かべる子供のような顔で言った。
「そうだ、技量。あんたがこいつをどこまで使いこなせるか。それで、こいつの価値は大きく変わる」
そうして、魔法使いに短剣を返した。
「あんた、魔法は何属性なんだ?」
「水と風。あと、氷と地も使える」
「なるほど、要は火と電以外の全部か。
あれ、魔法使いって光と闇は使えないよな?」
「うん。本当は使いたい所だけど、種族上制限があるからね」
「だもんな…早いとこ昇格して、魔女になれるといいな」
「いつかは…ね。私、まだ72年しか生きてないから、まだずっと先の事になるだろうけどね」
魔法使いは4年の命を持っていたはず。
ということは、こいつは今18歳か。
「じゃ、まだまだ若いな。あんたは何歳なんだ?」
すると、僧侶は何故か怒った。
「なんでそんな事聞くんですか!」
「いや、気になったからだよ」
「は…?あなた、マナーっていうものを知らないんですか!?」
「マナー…?」
あいにく、そういう事には疎い。
俺が首をかしげていると、僧侶はますます怒った。
「…ふざけてるんですか!?普通に考えて、女性に年齢を聞くなんて非常識でしょうが!」
「…すまん、全く理解できん」
すると、僧侶は驚き、怒り、そしてため息をついて呆れたようだった。
「まあいいです。それでよく旅なんて出来てますね」
「だろ?」
「褒めてないです」
ここで、魔法使いが再び喋りだす。
「あなた、かなり長い事生きてるようだけど…一体何歳?」
「俺は24だ。まあ、もう1500年くらい生きてるけどな」
「1500年…なるほど、だからこんなに沢山の古い時代の魔力が絡みついてたわけか」
「あなたのような礼儀知らずが、そんなに長生きできているとは…世も末です」
二人共、さして驚いていない。
ちょっと、残念だった。
「そうかいそうかい。で、勇者さんは一緒じゃないのか?あんた達は、ラカルの仲間だろ?」
「そうだね…でも、今は自由行動中でね。お昼には町を出るから、それまでに美味しいものを食べたり、気になるものを買ったりしようって話になってるんだよ」
「なるほど。で、僧侶さんは美味いスイーツがあるか気になってる、と」
僧侶は、俺に見られるとふてくされた。
「聞く相手を間違えたと思ってます。…全く、今の時代、最低限の礼儀もなってない人がいるなんて!」
あいにくだが、俺はマナーとかルールとか言うものには興味がない。
故に、それらに反するような事をしても何も感じないし、言われないと気づかない。
そう言ってやろうかと思ったが、ぐっと堪えた。
「ごめんね。オリアは礼儀にうるさいから。
私は、そんなに気にしないんだけどね」
「いいさ。修道士なんてそんなもんだろうし」
「私は僧侶です!修道士じゃありません!」
また怒ってるよ。
僧侶も修道士系の種族なんだから、どっちでもいいだろうに。
「…ま、とにかく頑張れよ。バーサクの塔にいるアンデッドは、かなり手強いらしいからな」
「ありがとう。私達なら、きっと勝てるよ」
「だな。ただ、くれぐれも油断するなよ。
…あのタイプのゾンビは、なかなかだからな」
僧侶はちょっと驚いたようだったが、魔法使いはさして動じずだった。
「忠告どうも。本職の吸血鬼狩りからアドバイスももらえたんだし、これはもう大丈夫そうだ。
さあ、オリア、行くよ」
僧侶を連れて去っていく魔法使いを見て、ふと思った。
(あの魔法使い、なんかフ◯ーレンみたいだな)
いやー、懐かしいな。
確か、俺が高校卒業する頃に流行ってたやつだ。
興味本位で見たことがあるが、なかなか面白かった記憶がある。
てか、よく考えれば魔法使い、って…
いや、いい。これ以上は触れないほうが良さそうだ。
ま、古典的なド◯クエのパーティみたいなもんだと思ってればOKだろう。