深夜の防衛
北口へ行くと、すぐに感じた。
…一際強いアンデッドの気配を。
いるな。
そう思った直後、暗闇の中に灯りが灯り、その姿が見えた。
それは数体のアウトルだったが、その中に別のアンデッドも混ざっていた。
あれは…?
一瞬、なんだかよくわからなかったが、じきにわかった。
あれは、"ネクロドワーフ"と呼ばれるアンデッドだ。
「ドワーフ」とは、この世界では「戦士」という種族の別名。
すなわち、ネクロドワーフとは戦士のアンデッドの事をさす。
まあ実際の所は、戦士のゾンビと言って差し支えない存在だが。
しかし、奴らがこんな時間にアウトルを連れて現れるのは珍しい。
理由はわからないが、本来アウトルは夜の7時から9時までの間しか活動しないのだ。
何か、特別な事情なり力なりがあるんだろうか。
いずれにせよ、町に入れるわけにはいかない。
例え弱い方の分類であっても、アンデッドである事には変わりがないし、普通の人間や異人にとっては、異形と同等の脅威であるからだ。
近づいてくるに連れ、向こうの様子がはっきりと見えてくる。
アウトルが6体に、ネクロドワーフが3体。
ちょっと多いが、まあ問題はない。
アウトルの方は、手斧やシャベルを持っていたので、元は一般人である事が容易にわかった。
ネクロドワーフの方は…詳しくはわからないが、おそらくは普通の戦士だろう。
戦士系種族は、戦士→狂戦士→魔戦士という順で昇格していく。
戦士は、言わずもがな系統の最下級種族。
なので、仮にアンデッド化してもさしたる脅威ではない。
さて、奴らは俺に気づくと立ち止まった。
そして、一人のネクロドワーフが前に出た。
「何者だ」
「ただの異人だ」
「ほう…」
黒い髪に青い瞳をした、男の戦士。
…の、ゾンビ。
その背には、斧を背負っている。
「先ほど、この町に我々の先行部隊が向かったはずなのだが」
「知らないな」
すると、金髪の女戦士が口を開いた。
「お前からは、いけ好かない匂いを感じる。
本当に、ただの異人か?」
「ああ…ごく普通の異人だよ」
「…いや、そうか。普通の異人ではあるか。
ただ…お前は不死者殺しだが」
女がそう言うと、アウトルたちは驚いた様子だった。
「そうなのか?」
「…よく、わかったな」
不死者殺しとは、その名の通り不死者…すなわちアンデッドを殺すすべを持っている者のこと。
生者の間では、吸血鬼狩り程ではないにしろ、アンデッドに対抗できる人材として重要視される存在だ。
…もちろん、こいつらにとっては真逆だが。
「ならば、なおさら生かしてはおけないな」
「…そうかい」
ここで、3人目の戦士が口を開いた。
「我らはさる方の命で、この町を襲うことになっている。邪魔するなら…」
言い終わる前に、男の首を落とした。
そして、そのまま電光石火の勢いで2体のアウトルを斬り捨てた。
「なっ…!」
「手が早いな…ならばこちらも!」
男が斧を、女がハンマーを取り出した。
そして男が斧を振り上げると、クワとシャベルとスキを持ったアウトルが向かってきた。
技を使うまでもない。
攻撃を食らわないように注意すれば、多少刀をデタラメに振りまわすだけで、敵が勝手にやられてくれる。
アウトルを全て倒すと、満を持してネクロドワーフ達が来た。
斧持ちが斧を投げてきたので躱すと、ハンマー持ちがジャンプして飛びかかってきた。
ハンマー相手では少し分が悪いので、横に飛んで躱す。
そして、着地の隙をついて首を斬る。
すると斧持ちが向かってくるので、適当に攻撃を受け止めつつ電撃を浴びせ、腕を掴んで投げ飛ばし、顔を踏みつけ、刀を口に刺す。
これだけで、完了だ。
正直あっけないが、まあいい。
後は、持ち歩いている聖水をかけて血を流し、死体を消して痕跡を消す。
俺達は、あくまでも影の存在。
故に、なるべく活動の痕跡は残さないようにするのだ。
まさか、一晩で2つの仕事をすることになるとは思わなかった。
まあ…いいだろう。
今度こそ、旅館に戻れそうだ。
体についた血をきれいに拭き取り、旅館に戻って布団に潜った。
◇
クリーチャー解説
ネクロドワーフ
異人の一種「戦士」がゾンビとしてアンデッド化した姿。
生前より動きは鈍くなっているが、ハンマーや斧、大剣など、生前と使っていたのと同じ武器を扱う他、生前の技を扱えることもある。
痛覚を失って耐久力が高くなっていることや、比較的戦闘力の高い種族の異人が元であることもあり、通常のゾンビより強い。
ある程度知能があり、アウトルなどと行動を共にしている事もある。
アウトル(一般人)
ごく一般的な村や町で生活していた人間がアウトルと化した姿。
手斧やクワなどで武装しているが、基本的に戦闘能力は高くない。
ただし、生前戦士などの異人と共に暮らしていた場合はある程度の技術を身につけている事がある。




