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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
五章・毒の水

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明日への布陣

 その後すぐ、キャルシィの妹ことリヒセロの他、数十人の水兵が神殿に集まってきた。

意外と少ないな、と思ったが、これでも町にいる者全員らしい。


そう言えば、この町はついこの前悲惨な経験をしたばかりだった。

それを思えば、この人数でもむしろ多いほうか。


ちなみに、中にはもともと外部の町にいたが、町の緊急事態を知って戻ってきた者も少なくないらしい。

故郷のピンチには、迷わず駆けつける・・・と言ったところか。



 みなを集め、事態を説明した後、キャルシィは真剣な顔で言った。


「みんなも知っての通り、今この町は、邪悪な存在の襲撃に耐え抜き、復興しようとしている最中・・・もし襲われたら、私たちだけではとても対処しきれないでしょう」


けれど、とキャルシィは勇気づけるように続けた。


「でも、だからといって、敵の思うがままにさせるわけにはいかない。この町は私たちのもの。守るのは、私たち自身よ」


 その言葉に、水兵たちは力強く応えた。


「それと、今回は心強い味方もいるわ。・・・まあ、みんな知ってるとは思うけど」


そう言って、キャルシィは俺たちをみなに紹介した。

幸運にも、それで嫌な顔をしたり、怪訝な顔をする者はいなかった。


「彼らがいれば、フィージアの連中との戦いもかなり楽になるはず。もちろん、みんなにもできるだけのことはしてもらう。・・・いい?どんな相手が来ようと、死力を尽くして戦うのよ!」


「「はい!」」

水兵たちは、また力強く応えた。





 フィージアの連中が侵攻してくるのは、明日の朝。そして、今はもう夕方だ。

・・・つまり、もう時間がない。


今のうちにできることをしよう、とキャルシィは言った。


「奴らは、どこから入ってくるかわからない。町に入れる場所をすべて封鎖して、見張りをつけたいところだけど・・・とてもそんな余裕はないわ・・・」


「それなら、俺の術・・・[ムーンライトシャドー]を使おう。あれで水兵たちの影を作って、それを配置すればいい」


 そう提案すると、キャルシィは「それはいいわ!」と言って手を叩いた。


「あれ、でも・・・注意点があるんじゃなかったっけ?」


「注意点というか、弱点な。光を始めとした魔法攻撃を受けると、消滅する・・・ってやつだ。ただ、言い換えれば術さえ受けなければいいってことでもある」


それを聞いて、何人かの水兵が「『陰の影』?」と呟いていた。

俺はそれに正解の意を示しつつ、「この方法はどうだ?」と尋ねた。


すると、全員が「いいと思う」というような答えを返してきた。


「影は無限に生み出せるから、元になる奴が生きてる限り尽きることはない。それと『陰の影』は、物理攻撃を無効化できる。まあ、気づかれればあまり効果はないんだが、それでも元が水兵なら、回避力はそれなりに期待できるだろう」


「そうね。あくまで戦闘力は、元になった子と同じなんだものね」



 キャルシィは、リヒセロに命じて壁に町全体の地図を貼らせた。

そして、その中で「門」と書かれているところに印をつけ、他の境目のところは赤いペンでなぞった。


「一つの門には、最低10人を配置する。それ以外の町境には、私が結界を張る。それと・・・」


次にキャルシィは、町の沿岸・・・つまり海辺にも何かを書き込み始めた。


「フィージアには船があるし、潜水を専門とする部隊もいる。海から来る可能性も十分にある」


 なるほど、確かにそうだ。奴らは、なにも陸地から来るとは限らない。

だが、正直海での戦いに関しては、水兵たちの方が上手だろう。

何しろ、彼女たちは元々海人なのだ。


「海については、海岸線と沖合いに二重の結界を張る。そしてそれを守るようにして、少なくとも500人の人員を配置するわ」


500人か。ちょっと少ないような気もするが、奴らよりも彼女たちが水中での戦いに秀でていることを祈りたい。


「町内についても、各地に人員を配置することにする・・・万が一、防衛を突破された時に備えてね。同時に、みんなの一時的な詰め所も設置する」


 それは何気にいい判断だ。

長、つまり指揮官のいる目立つ建物とは違う場所に詰め所を配置するのは、戦いではよくあることだが、とても重要なことでもある。


もし本物の戦争が始まっても、キャルシィはいい指揮官になりそうだ。


「町内の各地に、ワープ用の魔法陣を設置しておく。神殿に直通のものと、各地に飛べるものの2種類。町の者以外には、使えず、破壊もできないように魔法をかけておくわ」


「ん?それだと、俺も使えなくないか?」


「あなたは私と一緒よ。そして、みんなの影を作るのを手伝ってほしい。もしもの時は、私が運ぶ。だから、心配しないで」


「それならいいが・・・しかし、アレイとラヴィナはどうするんだ?」


「ラヴィナはニームの者、みんなと同じように、前線に出てもらう。アレイちゃんは・・・あなたと同じように、私と一緒にいてもらおうかしら」


 アレイは、自分が前に出て戦えないことに不満げだったが、「あなたに何かあっては、ユキに顔向けできない」と言われ、納得したようだった。


「それに、あなたたちには私といてもらった方が助かる。あなたたちは、いわば最終兵器・・・勝ち目がなく、追い込まれた状況になった時に、私とリヒセロと共に出てもらいたいの」


「それはいいな。背水の陣になった時に、みんなで暴れてやろう」


そのようなことにならないと良いのですが、とリヒセロは心配げに言った。


 正直、この戦いがどんな結末を迎えるかはわからない。

だが、敵がこちらを上回る戦力でかかってくること、負けるわけにはいかないことは確かだ。


「それじゃ、配置についてだけど・・・みんな、希望はある?」


キャルシィが、配置先を一つ一つ指差しては、みなの希望を聞いていく。

水兵たちの士気は高く、一つの場所を差されるたびに数十人が手を挙げた。

その結果、みんなの配置はすぐに決まった。


「足りない人員分は、影を作ってもらわなきゃね」


そう言われてゾッとしたが、幸いにもキャルシィは7人ほどの水兵を「月」の術を使えるとして選出し、彼女たちと一緒に影を作ってほしい、と言ってきた。


 助かった、と思った。いくら無限に作れるといっても、数百人単位の影をずっと作り続けるのは骨が折れる。


何より、無限というのは「理論上」の話であって、実際は魔力を使うから、少なからず休憩を挟みつつやらねばならない。

だがまあ、他に7人もいるなら休憩は十分できるだろう。


「あなたたちには、彼と同じようにみんなの影を作ってもらう。・・・できる?」


 キャルシィは一応確認したが、みな大きく頷いた。


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