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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
一章・流れる血

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殺人鬼

深夜1時をまわった。

隣の布団で寝ているアレイを起こさないように布団を出て、旅館を抜け出す。


そろそろ、仕事の時間だ。


幸いにも、雪は降っていない。

とは言え、寒いのでしっかり防寒着を着る。




みなが寝静まり、うろつく者もほとんどいない深夜の町。

その一角に、俺は身を潜める。


パッと見、外には誰もいないように思えるが、そんな事はない。

このあたりで待っていれば、たぶん来る。



…待つこと数分、"それ"が来た。

真っ暗な夜道を、ふらつきながら歩く男。

それは、誰がどう見ても酔っ払いだ。


夜遅くまで飲んだくれて、酔っ払いながら帰る奴はどこの町にもいる。

一般人からすれば、見慣れた人種でありつつも、絡まれると厄介な存在、という程度の認識だろう。

だが、俺のような者からすればありがたい存在だったりする。



家の角から向こうを覗き見て、向かってる方向を確認する。

そうしたら先回りして、手頃な所に隠れる。

今回は、ゴミ箱の陰に隠れた。


そいつがこちらに気づかず、ゴミ箱の横を通った、そのタイミングで後ろから飛びかかって口を塞ぎ、首を掻き切る。


縦に切ってもいいのだが、個人的には横に切るのがやりやすい。

切れた感触がしたら、すぐに止血と麻痺の魔法を使う。


この状態で放っておけば、血は止まるが息ができないので、こいつは声をあげる事もうごく事もできず、いずれ死ぬというわけだ。


だが、のんびり待っている時間はないので、頚椎を叩き切る。

こうすれば、すぐ終わる。


終わったら、清掃魔法で相手が着ている服をきれいにし、金を奪う。

ざっと24万入ってたから、まあ一般的なとこに勤めてる奴だったんだろう。


能力を使い、死体を黒焦げにした。

あとは、適当な所に始末すればいい。


結局、死体は町外れの林の中に埋めた。

当然、ここまで痕跡は一切残していない。


酔っ払いなら、いなくなっても騒がれるリスクは低い。

しかも、ああして遅くまで飲んだくれてる奴は、大抵は給料日直後だから、結構金を持ってる事が多い。

故に、俺のような者にとっては色々と助かる存在なのだ。



俺の仕事。それは、殺人強盗だ。

俺は道行く者を殺し、その持ち物を奪って生計を立てている。


当然、社会では悪とされる行為だ。

故に、俺は決まった家を持たず、放浪生活を送っている。


なんでこんな事を…と思われるかも知れない。

勿論、これにはそれなりの訳がある。


まず、俺は昔から人と話すのが苦手だった。

どういう訳かは自分でもわからないが、自分の考えを言葉にすることが上手く出来なかったのだ。


そして、好きな事以外にはとことんやる気が出なかったし、その好きな事もゲームと読書くらいだった。

他にも、俺は昔から変人と呼ばれ、中学まではいじめを受けていた。


とりあえず高校を卒業した後就職したが、口での指示をすぐに理解出来ない事がちょくちょくあった上、態度がデカいだの敬語がなっていないだのとケチを付けられたり、まあ…色々あって、結局仕事を続けられなかった。

…いや、正確には、社会で生きていく事自体が出来なかったのだ。


両親も、はっきり言ってクソだった。

親父はろくに働かずに酒ばかりあおり、暇があれば俺や弟たちに絡んできたし、母親はとかく金遣いが荒く、事ある毎に俺や弟たちにお金を貸してと言ってきては自分の欲しい物を買い、貸した分もろくに返さないうちにまたお金貸してと言ってきてみたり、貸さないとかないとか言うとこっちのものを無理やり売り飛ばしてまで金を作るような奴だった。


とまあそういう訳で、俺は長らく人生ハードモードだった訳だが、自殺するという選択肢はなかった。


俺は昔から、自分が何者であり、何のために生まれて、何のために生きているのか考えていた。

そして、一つだけ結論を出すことが出来た。

それは、自分は必要だから生まれてきたのだ、ということ。


この世は不思議なもので、本当に必要のないものはそもそも生まれてこない。

故に、例えどうしようもない失敗作でも、凶悪な犯罪者でも、世の中が存在していくにはそれが必要なものであるから生まれてきたのだ。


ならば、俺は何をすべくして生まれてきたのか?

こんな、どうしようもない奴が、一体なぜこの世に生を受けた?


答えは単純、この世に必要とされたからだ。


人間社会から見てどうかは関係ない。

『この世』から見て、必要であるから生まれてきたのだ。


俺は、社会の歯車にはなれなかった。

だが、世界に必要な存在にはなれた。

それだけでも、誇るべき事だと思う。

戦争や疫病もそうだが、この世が続いていくためには連続殺人犯や無差別殺人犯も必要なのだ。


そして、俺のような奴は、始めからそうなるために生まれてきたのだと思う。

事実、俺は小学生の時から殺人衝動があったし、グロいものが大好きで、そういう絵だってよく書いていた。

なんなら、教科書にグロ系の落書きをしてたまである。


とは言え、俺は生まれながらの精神病質者(サイコパス)ではない…残念ながら。

俺は、どちらかと言うと社会病質者(ソシオパス)、後づけの異常者だ。

それは、『タイプ2の殺人鬼』という種族が何よりも証明している。


殺人鬼はその成因によって2つのタイプに分かれる。

タイプ1は生まれつき良心や後悔の感情がなく、冷酷で知能が高い人間や殺人者が昇格したもので、タイプ2は虐待やいじめ・迫害などによって心を壊された人間が直接、あるいは殺人者から昇格して殺人鬼になったものだ。


実際の所、殺人鬼はほとんどがタイプ2で、タイプ1の殺人鬼は少ない。

それは、社会生活の中で心を殺される人間が数多くいることを示唆している。


殺人鬼は、それぞれ事情は違う。

だが、共通していることがある。

それは、この世のはぐれ者であるという事だ。


俺とて、好きでこうなった訳では無い。

本当は、普通の生活を送りたかった。

なのに、それを許されなかった。

だから、俺は罪を犯し続けている。

社会に、復讐するために。


俺は社会を恨んでいるし、憎んでいる。

だが、その奥底には深い悲しみとやり場のない怒りが渦巻いている。


俺はもう1500年近い間、色んな国から追われている。

捕まる気は毛頭ないが、もし捕まったら言ってやりたい。

殺人鬼(俺達)は、罪人だ。

だが、俺達は社会(お前ら)のせいでこうなったのだ…と。





さて、結局1時間半ほど仕事ができた。

仕留めた人数は6人。稼いだ額は85万。

まあ、まずまずの収穫だ。


あとは、後始末をきっちりして、旅館に戻ればいい。


洗浄魔法を使って、服や靴についた血を拭き取る。

刀は、そのままにする。

俺の刀は雷冥刀という名前で、こいつは血を啜る事で斬れ味が回復する魔刀なのだ。


そして、痕跡を一切残さないようにして旅館に戻り、布団に潜ろうとしたその矢先…


(ん?)


肌身で気配を感じた。


アンデッド(奴ら)が、町に入ろうとしている。


場所は…北のほうか。


すぐに町の北口へ向かう。

      

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