龍神の影
人目のない路地裏にラヴィナさんを運び、壁に過去を映し出す。
一体、彼女をあれほど怒らせたのは何だったのか。
この前、と言ってたから、数日前・・・まあ、1週間以内と言ったところだろう。
その辺りの過去の記憶を、覗かせてもらった。
今からちょうど1週間前の夜、ラヴィナさんは仕事が終わり、酒場にいた。
そして、そこにいた1人の男性に声をかけた。
「え、これって・・・」
それは、まるで龍神さんそのものだった。
彼はそれを見て、驚きつつも納得したような顔をした。
「さながらドッペルゲンガーだな。で、こいつが何かしたってことか?」
「追ってみましょう」
お酒を飲んでいたこともあってか、2人はさほど時間をかけずに盛り上がった。
そして、ラヴィナさんは彼にこの後暇かと尋ね、暇だと言われるとうちに来ないかと誘った。
「ずいぶん軽いな、この女」
私もそう思う。けど、見慣れた光景だ。
というのも、ラヴィナさんは大の男好きなのだ。
おそらく、ニームで一番だろう。
「この後、2人は夜通したっぷり遊んだようです」
私は、こうした不純な交友に興味は無い。
だから、さっさと次へ進めた。
もっとも、ラヴィナさんの見事な体を見ていると、言葉にならない嫉妬が湧くからというのもあるが。
2日後、2人はまた同じ酒場で出会った。
ラヴィナさんは龍神さん・・・と瓜二つな人物が気に入ったらしく、今日も夜遊ばないかと誘った。
その際、彼はラヴィナさんに贈り物があると言って、1つのお弁当を手渡した。
自身のためにと頑張って作ったと聞いて、ラヴィナさんは喜んでそれを受け取った。
翌朝、またも一晩中遊んだ彼を送り出した後、ラヴィナさんはもらったお弁当を食べた。
ご飯に肉を乗せたシンプルなものだったけど、ラヴィナさんは肉料理が好きなのもあってとても喜んで食べた。
・・・彼の体と相性がいいとか、何とか言っていたが、気にしないでおく。
しかし、問題はここからだった。
数時間後、仕事に行く時間になって、ラヴィナさんは猛烈な腹痛に襲われた。
お腹を壊したかと思ったラヴィナさんは、止むを得ず休むことにした。
その後安静にしていたものの、時間が経つとさらに吐くようになった。
吐き気を催したことで、ラヴィナさんは単にお腹を壊したのではなく、食あたりかもしれないと感じた。
そして、考えられるものを思い返した。
昨日今日で口にしたもので、怪しいのは彼のお弁当だけだった。
食べている時に違和感は感じなかったものの、他に考えられるものはない。
あのお弁当は、彼が作ったと言っていた。
ということは、始めから傷んだものを使って作ったか、作った後に不適切な環境に置いていたか。
いずれにせよ、今回の食あたりは彼が原因だ。
結局、ラヴィナさんは3日間症状に苦しんだ。
彼女は、彼が自分にわざと傷んだお弁当を食べさせたのだと思い込み、とても怒っていたようだ。
「・・・そういうことだったんですね。
それなら、怒るのも無理ないです」
3日間、彼女の苦しむ様子を断片的に見たが、夜も眠れず、顔は青ざめ、何度も吐いていた。相当辛かったに違いない。
「食あたりってか。しかし、そんなことであそこまでキレるとは」
そんなこと・・・って。結構、重大なことだと思うのだけど。
「とにかく、あれは俺じゃない。見た目は似てたかもしれんが、全くの別物だ。
そもそも、俺は料理なんかしない。女遊びだって、興味がない!」
「それはわかってます。とにかく、目覚めたらラヴィナさんに事情を説明して、誤解を解きましょう」
それからしばらくして、ラヴィナさんは目を覚ました。
龍神さんを見ると、「あ、あんた・・・!」と唸ったが、私が待ったをかけた。
「待ってください!話を聞いてください」
事情を説明すると、ラヴィナさんは納得しつつも、「それなら、あたしを貶めたあいつは何者なのよ?」と怒るように言った。
まあ、簡単には怒りは解けないだろうが。




