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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
五章・毒の水

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怒れる水兵

 落ち着きを取り戻した船長に、私は怒ったように言った。


「だから、私たちは泥棒なんかじゃないって言ってるでしょ!」


船長は、さっきまでの怒気が嘘のようにしおらしくなっていた。


「・・・え?そうなのか?」


 そこで、龍神さんも言ってくれた。


「ああ、俺たちはハンドルを盗んじゃない。むしろ、取り返してきたんだ」


「そうだよ。そんで船員の1人から、ハンドルを盗られて怒り狂ってるあんたを落ち着かせてくれって言われたんだ!」


 樹さんもビシッと言ってくれた。

船長は、まるで別人のように弱々しい声で言った。


「そうだったのか。そりゃ、すまなかった。

どうもおれは、思いどおりにいかないとすぐカッとしてわけがわかんなくなっちまうんだ」


見た目は大人だけど、精神的には子供みたい。

こういう人、意外といるものだ。


「ともかく、これで事件解決だよな。操縦室に戻ろう」



 操縦室の人たちに船長を静めたと言うと、お礼を言われると同時に「どうやったんだ?」と驚かれた。

あの人は、怒るととても手が付けられないらしい・・・


まあ、確かにちょっと手を焼いた、というか襲われたのだけど。


「とにかく、あなた方にはお礼を申し上げます。ニームまではもう少しです!」


「ありゃ、そうなのか。そしたら、朔矢を起こしに行かないとだな」




 しばらくすると、廊下の空気が一段と冷たくなった。窓の外を覗くと、海に鋭くそびえる氷山が漂い、ちらちらと雪が舞い始めていた。


いよいよ、ニーム近辺の海域まで来たようだ。


「あら、あれは・・・流氷? それとも氷山?」


「あれは氷山ですね。北方諸島の海から流れてきたのかと」


 「北方諸島」とは、その名の通りこの東ジーク大陸の北の果てにある島々。

1年を通して雪と氷に覆われた、極寒の島々だ。


人間はまったく住んでいないけど、異人なら寒さにめっぽう強い種族が住んでいる。


ニームからは100キロほどの距離があり、時折こうして海流に乗って氷山がやってくるのだ。


 美しい氷山を見にニームへ来る人もおり、ニームの町にとっては重要な観光資源でもあるという。


「そうなのね・・・きれい」


「ええ」


 氷山の多くは、北方諸島の陸地を覆う氷が海に落ちて流れ出したもの。

その氷は元は雪であり、長い年月をかけて降り積もり、氷となり、氷山となった。


これらの氷山は、かつて自身が覆っていた大地に生きていた人々や生物の記憶も覚えている。

そして、私はものの記憶を読み取り、それを見ることができる。


 私にとって、この海を漂う氷山は単に美しいだけでなく、かつて極地に生きていたものたちの記憶を持つ、証人のようなものでもある。


 と、アナウンスが聞こえてきた。

「乗船中のお客様にお知らせします。当船は、まもなくニーム港に到着致します」


「おっ、マジか。よっしゃ、荷物まとめて降りる準備しようぜ」




 そうして、船は港に止まった。

7時をまわった夜の港は、闇の中にちらちらと灯りが灯っている。


船を降り、懐かしいニームの町を見渡した。

かつての悲劇からしばらくの時が経った今、町の建物はあらかた建て直されていた。

でも、町の人口はそうもいかないだろう。


「久しぶりだな、ニームに来るの」


「あたしもよ。・・・そうだ、ちょーっとだけ町中を見ていかない?」


「あ、いいな。水兵達がどこまで町を立て直したのか、気になるしな!」


 かくして、樹さんと朔矢さんは「行ってくる!」と行って走っていってしまった。

この寒い中、元気にしていられるものだ。


まあ、買い物とかしてくれれば、町としては嬉しいのだけど。


「・・・ あの2人、観光に来たのと勘違いしてないか?」


「ま、まあ・・・ニームにとっては、お客さんには違いないですから・・・」


「・・・やれやれだ。とりあえず、どっかで一杯飲みたいな。アレイ、どっか酒場を知らないか?」


「知ってます。案内しますね」


 なんだか、私も何か飲みたくなった。

お酒を飲むかはわからないけど、とりあえず酒場には行こうと思った。




 そうして夜道を歩いている途中、見覚えのある人とすれ違った。

黄色の帯が入った制服を着た、金髪に青目の大柄な水兵。


私は、思わず声をあげた。

「あ、ラヴィナさん!」


 ラヴィナ・・・もといラヴィナ・シェラワットさん。

理由は色々あるけど・・・ニームではわりと有名だ。


2トンのコンテナを素手で持ち上げられるほどの力持ちで、荷物や人を遠くまで護送する仕事をしていて、戦い上手で・・・。


「あ、アレイ!久しぶりね!」


 明るく答えてくれたと思いきや、龍神さんの顔を見るや否や、ラヴィナさんは表情を一転させた。



 私は息をのんだ。次の瞬間、ラヴィナさんの蹴りが龍神さんに叩き込まれていた。


「・・・いきなりご挨拶だな」

彼は腕を交差させ、ラヴィナさんの蹴りを受け止めた。


「っ!」


 足を戻し、ラヴィナさんは表情をそのままに言った。

「・・・この前はよくも!」


いや、この前って・・・この2人は、今初めて対面したと思うのだけど。


「ん?何の話だ?」


「とぼけないで!こないだのお弁当・・・!あんた、わかっててよこしたんでしょ!」


「べ、弁当?」


「そうよ!おかげで、ひどい目にあったんだから・・・どういうつもりか、説明しなさいよね!」


 龍神さんは困惑していた。

初対面の人に、まったく身に覚えがないことを言われたのだから、そりゃそうだろう。


「ちょ、ちょっと待てよ。・・・は?何のことを言ってるのか、まったくわからないんだが・・・」


 その反応が癪に障ったのか、彼女はさらに怒りを膨れ上がらせた。


「は・・・?あんた、マジでふざけんなよ!!」


突如として発せられた怒鳴り声は、あたりの建物にガンガンと響いた。

理由はわからないけど、とにかく相当怒っている。


「あたしをなめんな!そんなふざけた真似するなら・・・こうしてやる!!」


 ラヴィナさんは大剣を抜き、体を横に向け、武器を背中に構えるような独特な構えを取り・・・


まずい!

この構えは、「コズミックリア」だ!

あれをまともに受けたら、龍神さんでも無事では済まない。


 私は止むを得ず技を出した。

「ヘッドステッチ」でラヴィナさんを気絶させ、その場に倒れさせた。




「ふう・・・危なかった」


真面目に危なかった。

なにしろラヴィナさんの「コズミックリア」は、ニームでも最強格の技の1つとされているのだから。


「よくわからんが、とにかく君が助けてくれたことだけはわかった。しかし・・・こいつは、一体何をキレてたんだ?」


「さあ・・・とりあえず、どこか人目のつかない場所に連れていきましょう」



北方諸島

北の果ての「凍海」と呼ばれる海に浮かぶ島々の総称。

流氷や氷河が見られる他、島の大半は永久凍土に覆われている。

1年を通して寒さが厳しく、夏場でも気温がマイナス5度を上回ることは滅多にない。

人間はいないが、異人は寒さに強い海人の仲間が住んでいる。



ラヴィナ・シェラワット

ニームの水兵の1人。年齢は26歳。職業は運送業。

適性は氷属性と地属性。武器は大剣と斧、そして短剣。

ニームでも屈指の力持ちであり、戦い上手であり、男好きでもある。


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