『人魚の夢』
朔矢さんの攻撃は、辺りの水を一気に赤く染め上げた。
フィージアの2人の体は、服は元よりその下の胸や腹部が大きく切れた。
そこから垣間見た限り、この2人は女のようだ。
見た目はかなりむごいことになっていたけど、2人は特に怯んだりはしていない。
そこを狙って、矢を放った。
その時、少しだけ傷が癒えた気がした。
彼らは私の方を見てきた。
「殺人者も脅威だが、水兵も邪魔だな・・・」
そして、左の女は全身に青い魔力のオーラをまとい、私たちの辺りを回るように泳ぎ始めた。
何をするつもりかわからないけど、動きを止めてやろう。
そう思って氷の魔弾を放ったけど、凍りつかなかった。
水中にいるのに、どうしてだろう。
と思っていたら、女は途中で泳ぎを止めた。
「大いなる海神のために・・・」
詠唱と共に、女は右手を高く掲げる。
上から竜のような形の水の塊が現れ、私たち目掛けて降ってきた。
幸いにも、樹さんが結界を張って防いでくれた。
そして、朔矢さんが旋刃盤を振るって女に反撃し、体を縦に斬り裂いた。
「ここでは・・・死ねない・・・!」
女は、倒れ込むようにして姿を消した。
危なくなった時に拠点に逃げる、緊急撤退の魔法を使ったようだ。
「ほう・・・我が相方『S-168』を。だが、まだ私の部下がいる」
残った方の女はそう言うが、残りの部下たちはすでに龍神さんと樹さんがあらかた片付けている。
そして、残った数人もまた、私が魔弾と弓の連射で片付けた。
「なにっ!?」
女が驚いている間に、朔矢さんが旋刃盤をその首に巻きつけ、ノコギリのような刃で斬り裂く。
女は即死こそしなかったけど、夥しい量の血を流した。
「わ・・・私は、まだ・・・!」
さっきの女と同じく、緊急撤退の魔法を使って消えた。
フィージアとて人間だ。死ぬよりは、逃げた方がいいという考えなのだろう。
その割には、部下たちは最期まで逃げなかったけど。
「ようやく追っ払えたな」
「海鱗を守れて、良かったです。あとは、これを・・・」
一面に砂が広がる海底のある一カ所に、妙に小さいサンゴ礁がある。
海鱗を空に向かってかざし、反射した月の光をその中央のくぼみに当てる。
すると、大きな音を立てて海底の地面が揺れ始めた。
「おっ、来たか・・・!?」
樹さんが歓喜の声を上げる。
「ああ、なるほど。そういう感じか・・・」
龍神さんは、何か納得したように言った。
そして、光を当てたくぼみとその周りのサンゴ礁を乗せた地面が上がり出した。
5秒ほどで上がりきり、動きを止めたそれは、小さな祠のようだった。
立て付けられた小さい扉を開けると、きれいな赤色・・・というか緋色をした、丸い宝石があった。
これが、人魚の夢か。
「これが、人魚の夢・・・噂に聞いてた通り、きれいだな」
「ええ・・・」
宝石を握ると、何かの力を感じた。
これは、ここでは私以外にはわからないだろう。
それは、海人の体から発せられる、独特かつ微弱な力だったから。
「アレイ?何か・・・感じるの?」
「はい。これは・・・遠い昔、息絶えた海人が形を変えたものです。なので、まだかすかに海人の力が残っています」
「海人の力、か。そしたら、あたしたちにはわかんないね」
「しかし、何故にフィージアの連中はこれを狙ってきたんだろうな?」
龍神さんが言うと、みんなは顔を見合わせた。
「単なる金稼ぎが目的、って可能性もあるが、どうも何か引っかかるんだよな・・・」
「そうか?でも、別に強い力が込められてるとかってわけでもないし、普通の宝玉だろ?まあ、できた経緯はアレだけど」
「・・・」
私は宝玉をじっと見つめた。
確かに、強い力は感じない。
でも、何だろう・・・この宝玉には、何かが隠されているような気がする。
そこで、私は一つ試してみることにした。
「この宝石の記憶を、覗いてみます。そうしたら、何かわかるかもしれません」
私は、特定の「物体」の過去、つまりそのものがかつて見た過去も見ることができる。
私は宝石を両手で持ち、目を閉じた。




