防衛
外はほぼ真っ暗だった。
まあそれはそうだろう。もう5時を過ぎている。
「急ぎましょう!」
「ああ!」
町についたのは5時40分ごろ。
この時間は大体、人々が仕事を終えて家に帰る頃だ。
「まだ…来てないみたいですね?」
「だな、まあ何もなければいいんだが…」
私達が潰した奴らの拠点は1つ。他にも拠点があり、そこの者たちにもアルノの情報が伝わっていたら…
「そうであって欲しいですね…」
「とりあえず、宿を取っておく。
それと、町の門番に警戒するよう伝えてきてくれ」
「わかりました」
私は町の門に向かい、門番に事情を説明した。
もちろん彼の名前は出さず、私が同行している人が吸血鬼狩りであり、彼が言っていたと伝えた。
門番は意外にもあっさり納得してくれた。
そして、町の回りの警備を増員しておくと言ってくれた。
することは終わったので、龍神さんの元に戻る。
この町に宿は3つある、はたしてどこに?
幸いにも、最初に向かった旅館の門前に彼がいた。
「お、来たな」
「言われたとおり、門番の人達に伝えてきました」
「よし…まず、部屋に行こう」
「いつごろ…来るんでしょうか」
「7時くらいだろう。
奴らはなぜか、決まってその時間帯に町を襲うんだ」
今、時計は6時を指している。
「じゃ、今のうちに夕食とかを…」
「ああ。
頼んでおこう」
私たちは、時間を見ながら夕食として出された料理を食べる。
なんだろう、戦いの前に食べる食事かと思うと、あまり美味しく感じない。
「どうした?不味そうな顔してるけど」
「いえ、なんか…
あまり美味しく感じなくて」
「緊張してるのか?」
「そうかもしれません」
「最初はそんなもんだ。そのうち慣れるよ」
6時半前には食事を終わらせ、片付けてもらった。
入浴したかったけど、終わってからの方がいいと言われたのでやめた。
「そろそろ行こう」
「はい」
町の南の門は門番が固めると言ってたので、私達はもう1つの門がある西側の門に張り込んだ。
刻一刻と、7時が迫ってくる。
「どっちから来るんでしょう」
「それはわからん。ただ、最寄りの巣窟は潰したから、こっちからだとは思う」
「そうですよね…」
そんな会話をしていると…
遠くに、複数の火の灯りがぽっと現れた。
「来たぞ!」
私達は弓を構える。
そして私は、
「弓技 [スターアロー]」
複数の矢を一気に上空に打ち出し、それを敵に向かって降らせる技を放った。
矢は途中で見えなくなったけれど、少しすると遠くの灯りのいくつかがぽつぽつと消え始めた。
(よかった、当たってる…)
そんな事を思ってると、
「[ボルトショット]」
龍神さんが弓から電撃を放った。
そして、これで全ての灯りが消えた。
「これで大丈夫ですよね…」
「いや、まだだ。次は南の門に行くぞ」
「え、あ、はい!」
すぐに南の門へ向かった。
そこでは、数人の門番と何十体ものアウトルが乱戦を繰り広げていた。
「やってるな」
「助けましょう!」
「ああ!」
門番も敵も、私達の存在には気づいていない。
今回は味方が何人かいるので、術で拘束を狙う。
「氷閉じ…」
術を放とうとしたその時、突然別の術が浮かんできた。
(そうだ…)
今までのは拘束するだけだった。
でも今度のは、さらにダメージも見込める。
名付けて…
「氷法 [五体樹氷]」
敵を全て、完全に凍らせる。
そして、驚いている門番の人達に言った。
「今です!」
彼らはすぐに、凍った敵を打ち砕いてくれた。
「これで…いいのか?」
「はい…」
「…いいな」
龍神さんがそう言った。
「え?」
「アンデッドを凍らせて砕く、ってのは考えた事がなかった。
考えたな」
「そうですか?」
「ああ。
それより、そっちの被害は?」
「あなた方が来てくれたおかげで、ほとんどない」
「ならよかった」
「あなたは?」
「彼が先ほどお話した、私の知り合いの吸血鬼狩りです」
「そうだったか。
何と礼を申し上げればよいか…」
「そんなんはいらない。当然の事をしただけだ」
「そうか…」
人々は、彼が殺人鬼であることに気づいていない様子だ。
「名はなんと言う?」
「名乗る必要はない。俺達は陰に生きる者だ…。
行くぞ」
彼はさっさと走っていってしまった。
「あ、待って下さい!」
なんだかずいぶんと疲れたので、旅館に戻ってすぐお風呂に入り、歯を磨いて寝た。
龍神さんも疲れたのか、同じようにしていた。
吸血鬼狩りの仕事というのは、本当に大変なんだろうな、と思った。
日々、一度のミスも許されない環境で、自分の命を危険にさらしながらアンデッドを狩っているのだから。
吸血鬼狩りは国家などの組織と関わりがあり、アンデッドを狩って人々を守り、組織から報酬を受け取っていると聞く。
正直、普通に働いた方が遥かに安全に、かつ確実に稼げると思うのだけど…
それを言うと、彼の人生を否定する事になってしまう。
こんな事を言っては何だけど、吸血鬼狩りになった人にはどんな過去が、どんな事情が、あるんだろうか。
あえて危険な仕事を選んだからには、相応の経緯があるはずだ。
旅立つ前に姉から聞いたけど、龍神さんは世界最高峰の吸血鬼狩りとして有名らしい。
彼は…どうなんだろう。
いつか、見てみたほうがいいかもしれない。
人の過去を勝手に読み漁るのは好きじゃないけど…
これから一緒に旅をする人だ、それくらいはさせてもらってもいいだろう。
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