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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
五章・毒の水

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海鱗

 結局、私は全部で4品の料理を作った。

鶏肉のようにトマトと煮込んだものや、海カズラという植物の葉っぱで包んで焼いたもの、同様にして(ふか)したもの。

そして、卵とじといった感じだ。


頑張って考えたのだけど、シレイネの身はあっても他の材料が乏しかったので、こんなものだった。


 バターや酢、胡椒など最低限の調味料はあったから、それらで適当に味をつけた。

本当は海水を取って味をつけてもいいのだけど、それをやると外部の人には出せなくなる。


海水をそのまま使うと、海人以外にとっては苦みの強い味になってしまう。

私達は平気だけど、他の人達は食べられなくなってしまうのだ。





 さて、出来上がった料理をみんなに出したところ、結構好評だった。

アイゼスの人達は元より、龍神さんたちにも喜んでもらえた。


彼は肉料理が好きな一方、焼いたり蒸したりした魚は嫌いなようなので、トマトと煮込んだものと卵とじを勧めた。


これらは、獣肉の味がするシレイネの上半身を使った料理だからだ。


「へえ、こりゃなかなかだな。宿屋で出てきても文句ないレベルだ」


「シレイネのトマト煮・・・ってわけね。でも、結構いけるわ」


 朔矢さんも、龍神さんと同様に喜んで食べてくれた。

魚の味のする部分も食べていたけど、こっちもこっちで美味しいと言ってくれた。


何気に、龍神さんたちに私の料理を振る舞うのは初めてだ。

アイゼスの男たちの中には、「水兵の長さんは、いつもこんなんを食ってるのかよ!」と羨んでいる人もいた。


 でも、それは違う。

長、つまりユキさんに出す料理を作っているのは、神殿専属の水兵。


それになれるのは、優秀な腕を持つと認められた人たちだけ。

私のような一介の者では、そんなことはとてもできない。


 もっと言えば、私は普通の料理店務めだから、これは言わば、単なるお店の味だ。

でもまあ、喜んでもらえると嬉しいことに変わりはない。



 キュリンさんに、選別した鱗の中に海鱗があったか聞いたら、2つあったと聞いて驚いた。

シレイネの海鱗はまず見つからないものである上、一度に2つも取れるなんて。


シレイネの鱗は結構多いけど、海鱗と呼ばれるものはとりわけ大きくて、きれいな光沢を持つからすぐわかる。


 ちなみに私が料理したシレイネたちの鱗はというと、海鱗に該当するものはなかった。


それでも剥いだ鱗は捨てはせず、船を降りたら港に引き渡すとキュリンさんは言っていた。

シレイネの鱗は、防水や強度底上げの加工ができるし、装身具や武器、水耐性を持つ防具なんかの素材として使える。


「これだけの数を持って帰ったら、喜ばれると同時に驚かれそうね」

キュリンさんはそう言って笑った。




 下船してすぐ、男たちは海鱗が欲しいと言ってきた。

気持ちはわかるけど、少しばかり待ってほしいものだ。


「海鱗は、そのままではただの鱗とさして変わらないの。一晩乾かして、丁寧に磨いてこそ、その美しさが現れるわ」


「え、魚の鱗なのにそんなことする必要あんのかよ?」


 私は、ため息をついた。


「シレイネは魚じゃない。それに、濡れたままの鱗なんて持ち歩きたい?」


すると、不平を言っていた男は「ん、それもそうだな」と言っておとなしくなった。

まあ元々盗賊だったらしいし、いろいろと粗野なのは仕方ない部分もあるか。


 

 でも正直、一番大変だったのはセレンたちだ。

彼女たちにはなんやかんやで船に一緒に乗ってもらったものの、とうとう最後まで活躍の場面がなかった。


先のアイゼスでも活躍の場面がなかった彼女たちは、我慢の限界だったのだ。

セレンを筆頭に、なんで戦わせてくれないんだ、これなら普通に仕事してた方がマシだ、私達の時間を返して、と言って怒った。


 私としては、シレイネたちがメインの船の方に行く可能性を考え、保険としてついてきてもらったつもりだったのだけど・・・


3人にそのつもりはなかったのか、そんな扱いをされること自体が嫌だったのか。


いずれにしても、槍を振り回して暴れられては危ないので、キュリンさんともどもどうにか上手く説き伏せて、なだめた。


 今は、同族同士でもめているような時間はない。

なるべく早く、行動しなければならない。




 その後は、町外れの宿屋に泊まった。

すでにユキさんから話がいっているので、もちろんアイゼスの男たちもタダで使える。


タダ宿だといって喜んでいるのを見て、スタッフの子に「あんな人達、入れたくないんだけど・・・」とささやかれた。


「仕方ないよ。ユキさんと、アイゼスの皇魔女さんのお墨付きだし。

それに今夜だけだから・・・ね?」


「・・・はあ。何の因果で、囚人なんか泊めなきゃないのよ・・・」


気持ちはわからないでもないけど、仕方ない。



 ちなみに、2つの海鱗は私とキュリンさんの部屋に、それぞれ一つずつ保管して乾燥させることにした。

服のように吊り下げておけば勝手に乾いてくれるので、天井から紐で吊るしておいた。


寒くても、湿気があっても、数時間できれいに乾くのは、シレイネの鱗の特性だ。

でも、その理由は未だによくわかっていない。


 ベッドから見上げると、海鱗はきれいに月の光を反射していた。

これだけでも十分きれいだけど、明日になって乾けばもっときれいになる。


私は、これまで意外と海鱗を見る機会がなかった。

明日目覚めたら、どれほどきれいになっているんだろう。


楽しみだ。

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