懐かしい人
夜、案の定キャルシィさんが夢に現れた。
ただ、既に今回起きたことの顛末を知っていたようで、頑張ってくれてありがとうと言ってきた。
そう言えば、キャルシィさんはどこで何が起きているのかも夢で見られるんだっけ。
そう考えると、今回の事の一部始終を知っていたというのも納得だ。
また、キャルシィさんはこうも言っていた。
「あなた達の今回の行動には、心から感謝するわ。・・・でも、あなた達は今回の一件で、『彼女』に目をつけられた。
フィージアの指導者・・・『水母』には、気をつけるのよ」
それで、私は尋ねた。
「『水母』について、キャルシィさんは何かご存知なんですか?」
「残念だけど、詳しいことは知らない。
ただ、彼女は少なくとも水兵ではない。そして、海人でもない」
「えっ・・・海人じゃないんですか?」
それは意外だった。
あの男たちから聞いた限り、『水母』が海人であることはほぼ確実なように思えたから。
「少なくとも今はね。そして、彼女はあなた達の追っている存在とも関わりがある。
・・・再生者ラディア。彼女にたどり着きたければ、まずは『水母』を破りなさい」
「それは、つまり彼らの本国に迎えると・・・?」
「焦ることはないよ。彼女は、いずれあなた達に近づいてくる。その時まで、待ちなさい。
それと、しばらくはアイゼス、レーク、ニームを往来することになるでしょう。もしニームに来ることがあったら、神殿に顔を出してちょうだい。リヒセロたちも喜ぶと思う」
「・・・?わかりました」
そして夜が明けた。
私だけでなく、龍神さんもキャルシィさんの夢を見たらしい。
彼は私とは違った話を聞いたらしく、「朝起きたら、懐かしい人に出会うはず。その人について行けば、次の死海人にたどり着ける」というヒントをもらったそうだ。
懐かしい人、というのが彼は引っかかっていたようだけど、それはすぐにわかった。
朝食の後、私達は寝室で待機していたのだけど、すぐに官吏が私達の部屋を訪ねてきた。
「お二人に、お客様がおいでだ。速やかに玉座の間へ来るように」
一体、誰が来たのだろう。
朔矢さんも、それが気になっているようだった。
そうして玉座の間へ行くと・・・
「おっ、久しぶりだな!」
明るく声をかけてきたのは、樹さんだった。
ポームの町、正確にはアリス三世の城で出会った、龍神さんの古い友人だという探求者。
私達に莫大な路銀を用意してくれた上、私を可愛いと言ってくれた人。
女好きなようだけど、きっと私に言ってくれた言葉は本心だ。
「ああ、なんだ樹か。・・・なんか、お前とは海人ゆかりのとこで良く会うな」
かつて龍神さんと樹さんが旅先で出会う時は、もれなくこのアイゼスのような海人と絡みのある町だったらしい。
過去を見て知った。
「そうだな。まあ、今回は本当に海人・・・それも貴重な陸生の海人を連れてるけどな」
「アレイな。この子は生まれつき海人ってわけじゃないけどな」
その時、突如朔矢さんが怒ったように言った。
「ねえ!あたしを忘れてない?」
それで、2人は朔矢さんを見た。
「忘れちゃいねぇよ・・・心配しなさんな」
「・・・あぁ、朔矢か。お前まだ捕まってなかったんだな。頑張るじゃんか」
「そりゃ簡単に捕まってたまるかって話よ。そもそもあたしは、普通の奴と同じく穏やかに暮らして、生きてたいだけなんだから」
穏やかに・・・か。
その割には、男性を誘い込んではお酒に酔わせ、殺しているようだけど。
「甘欄朔矢、あなたのしてきたことは許されるものではありません。ですが、これまでの経緯と事情を汲み、罪には問いません」
ウェニーさんが、いきなり言った。
「・・・あたしは呼び捨て?まあいいんだけど」
「私は、あなたのことは嫌いです。ですが、悪人だとは思えません。それはあなたに限らず、すべての殺人者に通じます」
「それはどうも。あたしとしても、うちらが根っからの悪人だなんて勘違いをしないでもらえるとありがたいわ」
そして、ウェニーさんは本題に切り込んだ。
「それで、ここからが本題です。皆さんは、『人魚の夢』というものをご存知ですか?」
「人魚の夢?」
私が言うと、樹さんが反応した。
「ありゃ、知らないのか?水兵なら、知ってると思ったんだが・・・まあいい。
人魚の夢ってのは・・・要は宝石だ。長い事在処が謎だったんだけど、最近になってこの国に面した海、ケルバー湾のどっかにある・・・って情報を掴んでな」
すると、ウェニーさんが補足をしてくれた。
「人魚の夢は、古くからその存在が伝承に語られている宝石の一種です。
とある海人の遺骸が、魔力によって変化したもので、緋色をした美しい宝石だと言います。
樹さんの仰る通り、その所在は長らく不明だったのですが・・・3ヶ月と18日前に、それに繋がる文献が見つかったのです!」
何でも、今から3ヶ月と18日前・・・に、このアイゼスの南西の浜で偶然、一冊の古文書が見つかった。
その解読を、これまで城の学者たちが頑張っていた。
そして、昨日の朝それが終わったらしい。
それでわかったのが、この書物には長らく伝説として語られていた宝石の在処が記されている、ということだった。
そのことがわかると、ウェニーさんはすぐにノグレにその旨を記した伝書を送った。
その時樹さんはちょうどノグレにおり、あの有名な「人魚の夢」の在処がわかった、と知ってすぐにアイゼスに来たらしい。
「それで、アイゼスの皇魔女さんに一言断ってから捜索をしようと思ってたんだが・・・」
そうは言っても、そんなに有名なものなら、仮に見つけても自分のものにはならないだろう。
このアイゼス沖の海に沈んでいるのなら、見つかったらアイゼスのものになると考えるのが自然だ。
まあ、私はそんなものの存在自体聞いたことないけど。
「それなら、私も協力します。・・・とにかく、宝石の在処については、3階の南の研究室にいる研究者達に聞いてください。
詳しいことは、私も知らないので」
「左様ですか。・・・一応お聞きしますが、海で調査してもいいですよね?」
「はい、もちろんです。ですがその前に、人魚の夢の在処がわかったら、私にも教えてください。
長い間、気になっていたことでしたので」
「もちろんです。・・・それじゃ、研究者達に話を聞きに行こうぜ!」
樹さんは、陽気に階段へと向かっていった。




