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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
五章・毒の水

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海の戦

「[ネクロボルテクス]」

詠唱とともに、周囲にどす黒い水の柱が複数現れる。

それは竜巻のように渦巻く水であり、ゆっくりと移動する。

そもそもの銘からして不穏だが、この水柱の全てから死者の力を感じる。巻き込まれたら即死…とまではいかないまでも、かなり食らうだろう。


それはウェニーも感じたようで、「あの水柱は危険です!触れないようにしてください!」と叫んだ。

しかし、それで近づいて来た柱を避けた所にミュウマが術を仕掛けてきた。


「[アーグバブル]」

少し黒っぽい色のシャボン玉のようなものを複数飛ばしてきたのだが、これを食らったエーリングは走ろうとして転んだ。どうやら、泡となってまるで泥のように足にこびりついたシャボンが原因らしい。

単に滑るだけならまだいいのだが、これを受けた途端エーリングは顔色が悪くなった。恐らくは、弱体毒の効果もあるのだろう。

弱体毒は気分を害するだけでなく魔力とそれを使った行動の効果を下げる効果もあるので、地味に厄介だ。

しかし、すぐにアレイが海術で解除してくれた。


それでも足にこびりついた泡は取れないので、やむなくウェニーが魔法で水流を生み出して流した。

水流で簡単に流せるのが驚き…というか、なんか呆気ない。

というのはさておき、すぐにさっきの水柱が迫ってきたので、エーリングは慌てて回避した。

むろんこちらにも迫ってくるので、上手く避けつつミュウマを攻撃する。


「グロウサンダー」を唱え、さらに「メドールスラッシュ」を繰り出す。

そこに、セラとアレイが続く。

セラは杖を高速で振り、衝撃波を起こす「真空払い」という技を出していた。見た目だと風属性っぽいが、それはないだろう。

あくまで衝撃波で攻撃してるし、そもそも風属性ならミュウマにはあまり効果がない。


アレイは「ブレイクスリンガー」の他、氷の魔弾を出していた。おそらく撃墜を狙っているのだろう。

だが、さながら流未歌のごとく自由に空中を動き回るミュウマにはなかなか当たらない。

この調子だといずれイライラしてくるだろうが、冷静になってほしい。間違っても、ミュウマを追って空に出てはならない。


ミュウマが空から降りてこないのは、たぶん「波切りの月」を使いたいからだ。

月術の1つで、自身から水平に魔力の波紋を広げて攻撃する術なのだが、2つほど特殊な効果がある。

1つは、夜間に使うと威力が上がること。もう一つは、術師と同じ系統の種族や異形に対して特効があることだ。

ミュウマはアンデッドではあるが、元々はアレイと同じ海人。つまり、特効の対象なのだ。


どれだけ攻撃されても頑なに地上に降りてこず、あえて空中に居座っているのは、アレイだけを術の範囲に入れるためだろう。波切りの月の特効が発現するのはあくまで同類の存在に対してだけだ。

そして、この竜巻みたいな水柱もたぶんその一環だ。こいつのせいで俺たちは空に舞い上がれないが、セラとアレイは、反応を見る限りこの水柱に触れても大したダメージは受けていない。つまり、海人には威力が発揮されないのだ。


つまるところ、この水柱で彼女以外を地上に張り付けておき、アレイが飛び上がってきたら…という寸法なんだろう。

それをやらせるわけにはいかない。

だが、攻撃と水柱を避けるのに精一杯で言葉を伝える余裕などない。どうにか、本人が気づいてくれればいいのだが。


…と思ってたら、彼女の様子がおかしい。

なんと、しびれを切らしたような顔をして体を魔力で包み、片足を浮かせて地面を蹴ったのだ。

「お…おいおい、ちょっと待て!」

叫んだが、もはや手遅れだった。


アレイが自身と同じ高さまで浮き上がって来たとき、ミュウマは口裂け女のごとく笑った。

「来ましたね!それでは、参りましょう!」

見立て通り、奴は「波切りの月」を発動した。



…しかし、アレイが倒れることはなかった。

それどころか、アレイはまったく平気な顔をしている。

「…なっ!?バカな!」

ミュウマもこれで終わりだと思っていたらしく、目に見えて困惑していた。


「やっぱり、そういう魂胆だったのね」

アレイは落ち着いた声で言った。

「あの水柱、私達だけ触れても全然痛くなかったから不思議に思ったのよね。それで、ちょっと考えてわかった…あなたは月の術を使える。そして、元は私と同じく海人の仲間。わざわざ空に浮いて、しかも全然降りてこないのは、ピンポイントで私だけをおびき寄せて特効で確実に仕留めるためなんだって、気づいたのよ」


アレイは「スターライトブリザード」を放った。

ミュウマがアンデッドであり、水をまとう海人でもあるためかその威力の現れ方は強烈で、奴の体は一気に凍りついた。

そして、地上に落ちてきた。

しかし、それと同時に水柱が一斉に俺たちとミュウマの間に立ちはだかるように並んできたせいで、追撃ができない。

だが、たぶんもう大丈夫だろう。


アレイはすぐに降りてきた。

そして、水柱の向こうに消えた。

その間、俺はエーリングたちと一緒に海賊の相手をする。


「…こ、この…威力…」

水柱が真っ黒いのもあって2人の姿は見えないが、声は聞こえる。

「あ…あなたは、もしや…」

ミュウマのかすれた言葉の直後、巨大な光の柱が落ちた。

その直後に水柱が消え、アレイの姿が見えた。

そこにはミュウマの姿はなく、ただ手を翳すアレイの姿だけがあった。


「…」

アレイは無表情で立っていたが、やがて口を開いた。


「みなさん…」


直後、背後に気配を感じた。

さっと振り向くと、髪から変化した触手の一閃をセラが間一髪のところで受け止めてくれていた。


「セラ…!」


「ちっ…!」

セラと睨み合っていたのは、紛れもなくミュウマだった。

ただ、その目はこぼれ落ちそうになっており、肌は変色してあちこちから腐敗した肉が見えている。

そして、その髪もさながらRPGのボスのようにめちゃくちゃに伸びており、完全な「触手」となっていた。


「よもや、彼女がお前に命を与えるような真似までできたとは…私は、大きな間違いをしたようだ」

ミュウマの声は、これまたRPGのボスが正体を現したのように変に変わっていた。

「『生体』の姿は美しいが、弱くてならぬ。この『死体』の姿は醜い。だが、これこそ私の本性。ありのままの姿であり、力だ」

ミュウマは顔を一旦仰け反らせた…と思いきや、恐ろしいほどの速度で髪…もとい触手を連続で叩きつけてきた。

それには、セラもあっという間に弾かれてしまった。


マストに叩きつけられたセラは、すぐにその周りに触手を打ち込まれて釘付けにされた。

「本当はお前などに興味はなかったが…気が変わった。お前もまた、星羅の妹と同じ道を歩ませてくれる」

そこにアレイが矢を放ち、触手を全て切断してセラを助けた。

ミュウマは、改めてアレイを見た。


「星羅の妹よ…あなたはしてはならない事をした。我らの側につくべき定めに抗い、そして…」

奴は目を光らせ、体中から紫のオーラを噴き出す。

「この私を怒らせた!!」


オーラが消え、姿が大きく変わった…ということはないが、それでも異様な迫力はある。

奴は、怯えることなく…さながら魔王に挑む勇者の如く立つアレイに語りかける。

「私はあなたの同族だ。だから、あなたの味方をするつもりでいた。だが、こうなってはもはやそんなわけもない。ラディア様の命令通り、例え殺してでも連れて帰る!」


「言ってくれるじゃない。でも結構よ、私だってあんたに助けてもらうつもりなんかないもの」

アレイは軽くあしらい、弓を引く。

「さあ、始めましょう。あんたの望み通り、彼らは海賊たちの相手をする。そして私は…あんたの相手をするわ」


その直後、こちらに海賊たちが執念の如く襲いかかってきた。

アレイの言葉通り、こっちはこいつらの相手をしたほうがよさそうだ。



    ◇





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