最初の死海人
船長は左手を伸ばし、俺達みんなを捕らえてきた。
「急遽、今すぐに儀式を執り行う事になったが…それを見られたからには、どの道生きては返せんな!」
「あ…あなた達、何者!?」
アレイの言葉に、船長は鋭い表情で答えた。
「すぐにわかるわ…例え嫌だと言ってもな!」
そうして甲板まで引きずり出された。
そこにはやはり多くの海賊達がいた…のだが、みんなして上の方を見上げている。
船長は俺達を離すと、他の海賊達と同じように上を見上げた。
そして両手を広げて叫んだ…
「我らが主よ!我らが…偉大なる海の支配者の眷属よ!ここに、姿を現したまえ!」
すると、船のマスト全体が妖しく光った。
そして、そのてっぺん近くから何かが分離するように出てきた…
「あれは!まさか…!」
アレイが声を張り上げる。
炎のように赤く、しかし不気味に黒ずんだ長い髪を持ち、濃い青色の肌をした海人。
目を開けば、これまた不気味な桃色の瞳が見える。
もはや、何者なのかは考えるまでもない。
「死海人ミュウマ…だがなぜこの船に!?」
エーリングの疑問の答えは、これからわかるだろう。
ミュウマはゆっくりと舞い降りてきた。
同時に、海賊たちは一斉にひざまずいた。
「…バルク」
名を呼ばれた船長は、顔を上げた。
「此度の任務は、正直無理ではないかと思っていましたが…見事でした」
「勿体なきお言葉です」
「…それで」
奴は振り向き、アレイを見た。
「あなた様が例の妹…星羅こころ様の妹様ですね。水兵になったと伺っておりましたが…やはり、あの方に似ておられます」
「…私は、生の始祖の末裔よ」
「それも承知しております。…確かに、あの小賢しい女の面影を感じるお顔です。しかしそれはこころ様も同じこと。それに、あなた様はあの女とは違う。何しろ、既に我らの中核を担う方の実の妹なのですから」
「姉を知っているの?」
「もちろんですとも。我らが主であるラディア様を通じ、幾度かお会いしたことがございます。あなた様と同じような、素敵な目をしておられる方ですわ」
すると、エーリングが割り込んだ。
「…口を閉じろ!お前に彼女と話す資格はない!」
その槍をさっと躱し、ミュウマはエーリングを見つめた。
「…あら?見覚えのある方だと思ったら、レザイの騎士様でしたか。あなたのことは、我ら一同よく覚えていますよ…魔騎士エーリング」
「私とて、お前たちのことは忘れもしない。かつて生の始祖を始めとした、戦友達と共に戦ったあの戦いのこともな…!」
どうやらこの女、伝説の時代から生きているらしい。
まあ魔騎士…というか上位種族からすれば6000年なんて大した年月じゃないんだろうが。
「あの時は、私達は惨敗を喫する結果となりましたね…しかし、思い上がらないことです。が、ここでリベンジマッチ…と行くのは些か軽率です。まずは、例の妹様を回収しましょう」
ミュウマは再びアレイに近づく。
エーリングがつっかかるが、ミュウマには容易く弾かれた。
そこへ、ウェニーが魔弾を放つ。
「…?」
ウェニーの格好を見て、ミュウマは察したようだった。
「なるほど、アイゼスの皇魔女ですか。…とすると、セリールは既に死んだのですね?」
「そのようなこと、あなたには関係ありません!例え、セリール様がどうなっていようと…!」
「おやおや、心外なお言葉ですね。全ての生物には、いずれ死が訪れる。そうなれば、我らの世界へ来ることは避けられないのですよ」
「…!?まさか!」
最悪の想像をしたであろうウェニーに、ミュウマは不気味に笑った。
「ともかく、今の私の狙いはあなたです。…我らだけではない、我が主もまた、あなた様がこちら側へ来られることを楽しみにしておられますわ…アレイ様。さあ、こちらへ」
ミュウマは、その冷たい手を伸ばす。
「…!」
アレイは目を見開き、全身から謎の魔力を放った。
それにより、ミュウマは大きく後退させられた。
「こ…これは!?」
「命の護符…わかるでしょ?かつてシエラがまとっていた、陽の道よ!」
その言葉には、皆が驚いた。
陽の道とは、陰の道と対を成す「陰陽道」、即ち高位の魔法。
そしてそれを扱える者はごく一部の高位の異人だけで、元々はそのような者を「陰陽師」と呼んだ。
それがたまたま祈祷師…つまり闇を扱う種族の最上位種だった、というだけのことだ。
「陽の道…なるほど」
ミュウマは嬉しそうに笑った。
「素晴らしいですわ…!あなた様が、もうそこまで血筋の力を目覚めさせていたなんて!」
奴は何か勘違いしているようだ。
本気で、アレイがあちら側に行くとでも思ってるのか?
「ですが、このように雑兵を連れていたとは少々残念です。この者たちの相手は、私がするべくもないというのに」
「なに…!」
エーリングがミュウマを睨みつける。
「以前は、確かにそこの騎士どもに惨敗を喫しました。しかし、今回はそうはいきません。何しろ、彼らがいるのですから…」
奴は再び高く浮き上がり、海賊たちの上で静止した。
「この者たちが、あなた達の相手です。私が手を下すまでもなく、消えていきなさい…!」
ただの海賊が…と思ったが、よく考えれば奴は復活能力持ちだ。まともに戦っては分が悪い。どうにかして、ミュウマを叩かなければならないだろう。だが、果たしてそう上手くいくか。
普通に弓や術を撃ったのでは、まず間違いなく躱される。とすると…?
ともかく、船長を先頭とした海賊どもが向かってきた。
まずはこいつらの相手をして、突破の糸口を探すとしようか。




