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黒界異人伝・生命の戦争  〜転生20年後の戦い〜  作者: 明鏡止水
五章・毒の水

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喫茶店

最初に訪れたのは、町の北にある商店街。

他の国の市場と同じように、様々な店が並んでいる。


「ここ、来たことある?」


「いえ、ないです。…アイゼス自体、今までほとんど来たことがなかったので…」


「そうなの?レークの水兵は、よくこの国に来ると聞くのだけど」


「確かにそうですが…私はなんだかんだで来る機会がなくて」

アイゼス以外の場所、例えばニームなどのレークと関わりのある所へはワープが繋がっていて一瞬で行ける。なので、どうしてもそちらにばかり行っていた。

もちろんアイゼスへも行こうと思ったことはあったけど、最短でも数時間かかるのでなかなか来ることがなかったのだ。


「まあ、海を渡ってくるのも時間かかるだろうし、仕方ないかもね。あとでウェニー様に、レークと繋がるワープを置けないか尋ねてみる」


「え!ありがとうございます!」

そうしてもらえると、今後私を含む多くのレークの人がアイゼスに来やすくなる。もちろん、逆にアイゼスの人もレークに来やすくなって、人の流れが円滑になるだろう。

「そしたら、ユキさんにも話をつけないとですね。まあ嫌だとは言わないでしょうけど」


「レークの長ね…彼女ならいい返事をしてくれそうね。そもそも今回私がこの国に来たのも、元はと言えば彼女が発端だし」


「外部の町との間でワープが開通すれば、それだけ行き来する人が増えます。双方の町の繁栄に繋がるし、レークの存続も容易になるし、良いことづくめです」


「そうね。…そうだ、店を見て回りましょうか」


「はい!」



そうして、あちこちの店を回った。

レークで見かけないようなものはあまりなかったけど、エーリングさんにつられるようについ色々買ってしまった。

それも、不思議なことに甘いものばかり。


「甘いものが好きなの?」


「いや…確かに好きですけど、こんなに食べるなんて思ってませんでした…」


「疲れでも溜まってたんじゃない?」


「疲れ…ですか…」

そうは感じないけど。

でもまあ、元々私が町で当たり前の生活をすることを生きがいとする異人であることを考えると、戦い続きのこの旅は疲れがたまるものだったのかもしれない。自覚がないだけで。



ずっと歩いてるのも疲れるので、途中で喫茶店に入った。

意外にも、エーリングさんに視線が集まったりということはなかった。美人だし、魔騎士なんてそうそういないから注目されるものだと思ったのだけど。


席につき、コーヒーを注文した。

エーリングさんは髪がすごく長いけど、座るとき大丈夫なの?と思ったら大丈夫だった。


「コーヒーは好き?」


「嫌いではないです」


「私は好きよ。年を重ねるたびに、深い味わいを感じられるようになる。これに限らず、昔とは異なったものの捉え方ができるようになることに、年を重ねる意味があると思う」

そう言って彼女はコーヒーを口にした。

普通、彼女のような魔騎士…というか位の高い異人にとって年齢はほぼ意味のないものだ。でも、この人にはとってはそういうわけでもないのかもしれない。


「ところで、1つ心配なことがあるのだけど」


「な、何でしょう…」


「如何なることがあっても、自分を見失わないでね。殺人者をパートナーとして持つ者は、何かと心が傷つきやすいから」


「それはそうかもしれません。龍神さんも、ちょっと変わった人ですし。でも、私は彼を嫌な人だって思ったことは今までにないです」


「あら、そうなの?」


「はい。それに…私は過去を見る異能があるんですが、それで彼の過去を知ってから、あの人が悪人だとはどうも思えなくて」


「過去…ねえ」

エーリングさんは、さっきの店で買ったノンアルコールのワインを飲んだ。

「あなたはかつて人間だったのよね。なら…自分の異能故に苦しんだ、って経験はない?」


「それは…あります。人の過去を見るのは、時にとても辛いものを見ることになりますから。でも、もう慣れてます」

見るに堪えない過去を見たことは何度もあるけど、人の過去を見ても辛いと思わなくなったのは、龍神さんや朔矢さんの過去を見てからだろうか。彼らの過去は、今まで私が見てきた人の中でもトップクラスに悲惨なものだった。

正直…よく自殺しなかったなと今でも思う。


「…偉いと思う。まだ幼いのに…」


「幼いって…私はこれでも30年生きてるんですよ?人間のままだったら、いい大人です」


「体はね。心が育ちきっていなければ、例えいくつになっても大人とは言えないわ」


「それは…まあ…」

そう考えると、私は異人になれてラッキーだったのかもしれない。人として成長するための時間が、人間のままでいるより数倍に伸びたのだから。


「そう言えば、あなたは元々何の仕事をしていたの?」


「私はレストランにいました。基本的には料理担当でしたが、たまに表に出て接客をやることもありましたね」


「それじゃ、料理は得意なの?」


「はい。昔から好きです」

私は15年ばかり料理人として働いてきたから、料理の腕はちょっとしたものだ。

この旅ではほとんど機会がなかったけど、いつかその腕を振るえる時が来たらいいな…なんて密かに思っている。


「素敵ね。私も料理が好きなの。…あなたは、夫を迎えようとは思ってるの?」


「一応は。でも…」


「料理が出来ると、男を引き止めやすくなるから有利よ」


「それは知っています。でも、私は…どうも、男っ気がなくて」

私は、いつかは夫を迎えたい。でも、その機会がいつ来るのかはまったくわからない。

そもそもそんなにスタイルや性格がいいわけでもないし、女を武器にしているわけでもないし。


「それは、あなたの魅力に気づいている者がいないだけじゃないかしら。魅力がまったくない者なんて、いないんだから」


「そうだと良いんですが」

…私は、どうにも昔から自分に自信を持つということができない。

私には、何か才能があるのだろうか。


「自分には自信を持った方がいいわ。でなきゃ、自分の力を出し切ることも出来なくなるんだから」

それは確かにそうだろう。でも、実際に行動に出すのはなかなか難しい。

私は…なぜ自分に自身を持てないんだろう。

自分でも、よくわからない。


「まあ、でも焦ることはないでしょうね。あなたにはまだまだ時間があるのだし、これからの人生でじっくり考えればいい」

そう言われたけど、それはむしろ私より彼女の方がそうだろう。


なんか、母親と話しているような気分だ。

私は母親の記憶はあまりないけど、ちょうど彼女のような人だった気がする。

そう思うと、何だか心にしみ入るものがあった。

けれど、同時に寂しさと悲しさもこみ上げてきた。


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