海娘の実力
それから1時間ほどして、数人の海賊が扉を開けて入ってきた。
「出ろ。港についた」
もちろん、みんなは奴について行こうとする…ふりをして、注意を引き付けた。
その隙に俺が扉の裏から奇襲を仕掛け、一撃で始末した。
「ついた…って言ってたけど、なんか静かじゃない?」
「確かにな…」
と、何やら廊下からバタバタと音がした。
俺は素早く死体を隠しつつ飛び上がり、天井に張り付く。
その直後、部屋に数人の海賊が入ってきた。
「いたいた…お前ら、こっちにこい!」
奴らは皆を連れて行こうとしたので、朔矢が従うふりをして短剣を振るい、全員を瞬殺した。
「す、すごい…」
サレーは、その速さに脱帽していた。
「なんか慌ててたわね。もしかして…?」
「ええ。とりあえず、甲板へ急ぎましょう!」
甲板へ向かう道中では、全く海賊に会わなかった。
そして甲板に繋がる階段の下まで来た時、何やら甲板が騒がしいことに気づいた。
「この騒ぎは…?」
すると、ファシェが「みんなだ…!みんなが、来てくれたんだ!」と喜んだ。
恐る恐る顔を出して覗くと、海賊たちはみな、船の外を向いていた。そして、その手にはボウガンを持っていた。
「あんたの部下は、優秀だな!」
俺は、ファシェにそう言った。
「レキナはちゃんと伝えてくれたみたいだね。それじゃ、私たちも行こっか!」
「ああ!…しかし、弓で背後から倒せば良くないか?」
「それだと私たちが戦えないでしょ。それに彼らの掃除は、本当は私たちの仕事。あなたたちにやらせるわけにはいかない」
「そうよ。どうせ残り少ないんだし、あなたたちはお客さん。どうか、私たちの戦いぶりをここから見ててくださいな」
ファシェとサレーにそう言われたので、その通りにすることにした。
それと今気づいたが、ルーデウスはいつの間にか姿を消していた。まあ、ウェニーの持つ宝玉の中に戻ったんだろう。
とりあえず、今回は出番を海娘たちに譲る。彼女らの戦いぶりを、見せてもらうとしよう。
船の外にいる海娘たちに気を取られていた海賊に、ファシェたちは襲いかかる。
どうせ不意打ちなのだからわざわざ使うまでもないと思うが、技を使って倒していた。
セズフィナの他は短剣、剣、大剣を使っている子が多かった。さっき朔矢の技に驚いていたサレーは短剣使いのようで、朔矢と同じく「釘付けの剣」を使って壁に敵を釘付けにしたりもしていた。
セズフィナは杖を用い、風属性の刃を飛ばす「裁きの刃」や無属性技の「虚空斬り」を放っていた。
マーレンは剣を振るっていたが技はあまり出さず、確認できた限り一度「スラッシュヒット」を使っただけだった。
一番本気になっていたのはファシェで、「雷神断ち」や「狭間斬り」といった強力な大剣技を繰り出していた。前者は電属性技で、後者は即死の技だ。
また、ファシェは奥義も使っていた。
「大いなる雷の護り」という銘で、大剣を振るい、自身の周りにシールドを発生させつつ電気を迸らせるというものだった。
何となくだが、あれは攻撃というよりは防御に身を置いた奥義のように思える。攻撃を受けるリスクを考えているのだろうか。
そうしているうちに、あっさり戦いは終わった。
最後の海賊はファシェがやった。そして、海賊の全滅を確認するとセズフィナが杖を高く掲げて白い弾を打ち上げた。
それはしばらく飛び上がり、ある高さでパーンと弾けた。まるで打ち上げ花火だ。
それを見て、船の外にいた海娘たちは一斉に歓声を上げた。どうやら、海賊の全滅を確認したという合図らしい。
「やったわね!」
朔矢に続いて、甲板に飛び出した。
「すごいです、皆さん!」
「やるじゃんか。やっぱり、あんたたち優秀だな!」
「お見事です、海娘の皆さん!」
銘々が、彼女らを称賛する声を上げた。
「あっ、もう終わったの?早かったわね!」
「数が少なかったのがよかったね。久しぶりに戦ったけど、腕が落ちてなくてよかった!」
サレーとマーレンは、そんなことを言っていた。
マーレンの言う通り今回は敵が少なかったし、彼女らの本気がどんなものかわからないが、少なくとも弱くはないようだ。
ファシェが奥義を使ってたから、他の海娘の奥義も気になってしまうが…まあ、いずれ拝めるかもしれないし、楽しみにしておこう。
その後、海賊達の死体は回収し、まとめて埋葬した。たとえ海賊と言えど、埋葬はしっかりする辺り、海娘たちには水兵と同じ優しさがあるようだ。
また、船内の積み荷は外にいた海娘たちが回収することになった。その数は、ざっと20人ほど。
もちろん俺達も作業を手伝ったが、船が結構大きいので、時間がかかりそうだ。
世界観・シールド
防御魔法の一種。
結界に似ているが、球形あるいは壁状の形をしている、一定時間が経つかある程度攻撃を受けると自然に消滅するといった違いがある。




