眷属まとうもの
流未歌の伸ばした手から出た光と、輪から分離した顔の口から吐かれた光が交錯した…と思ったら、それは私達に襲いかかってきた。
細い青い光にしか見えなかったけど、ちょっと胸に掠っただけでも痛かった。
大部分をルーヴァルが受けてくれたようだけど、全て食らっていたらかなり手痛いダメージを受けていたかもしれない。
「スレイブレイト」を放とうとしたけど、すでに流未歌を守る風が再生していた。なので、闇の魔導書を取り出す。
「[ヘル]!」
私の攻撃は、歪んだ顔が吐き出した結界で防がれた。でも、完全にガードされたわけではなく、少しだけ通ったようだった。
あの顔が厄介ね。そう思った、ちょうどその時に龍神さんも言っていた。
「あの顔をどうにかせんと、やってられないな」
「やはり…」
と、顔は再び光を吐き出してきた。
青い光線のような光は、私ではなく龍神さんを狙って飛び、ルーヴァルに防がれた。
続けざまに数々の攻撃を食らってもなんともないのは、やはり最上位種族といったところか。
「あの顔はどうにもならん。それより、奴自身を倒すことに専念するぞ!」
ルーヴァルはそう言って、剣を目の前に構えた。
「『抵抗者よ、我に力を』!」
彼の周りに緑色をしたオーラが集まり、その剣に収束したかと思うと、それを中心に円形に魔力を放ってその中にいた流未歌たちを切り刻んだ。
やはり浮いた顔は結界を張ってきたけど、なんとそれを無視しているようだった。
流未歌が若干怯んだ、その隙をついてルーヴァルと龍神さんは飛びかかった。
2人は、流未歌の腹部の左右を突き刺し、そしてX字に切り裂いた。
驚いた。あれは、「クロスジャック」…殺人者が2人で放つ合技。互いを信頼していないとできないと言われている技だ。
まだ出会って間もないのに、もうそこまで信頼関係を築いているなんて…。
―いや、当然か。
彼らは殺人者だ。固有の特性があるから、異種族と仲良くなるのは難しいが、代わりに同族同士なら驚くほど早く仲良くなれる。
この短時間で、合技を放てるほどの信頼を築いていたとしても不思議はない。
…前々から思ってたんだけど、これは何なんだろう。
ある時、突然突拍子もない考えが浮かんできて、謎の理論で納得した答えを出す。
私はそんなこと考えてもないのに、勝手に飛び出してくるのだ。
まるで、私じゃない何かが考えているかのように…。
「合技とは…小賢しい」
流未歌は血を滴らせながらうなった。
「そっちこそ、取り殺した奴と一緒に技を出してきたじゃんか」
「こいつは取り殺したのではない…私の力で魅せ、任意の元で同化したのだ」
「どっちにしろ、もてあそんだのには違いねえだろうが」
「お前などに何がわかる。かつて私のすべてを否定し、価値観を押しつけたお前に…」
「俺は自分の考えを言っただけだ。お前らこそ、都合の良い味方をつけてくだらんことを押しつけやがって。他の奴らは納得できても、俺は納得できなかったんだよ」
「ただ、それだけの理由で私をあんなにも否定したのか?…まあ、よかろう。そうであってくれるほうが、私としても…」
流未歌は喋りを止め、驚いた顔をした。
その左手は、切り落とされた。
私が、星巡りの刀を振るったのだ…魔力を込めて。
「…」
血が溢れ出す左手首を見て、流未歌はつぶやくように言った。
「これは。…そうか、とするとお前は…」
流未歌は突如、球形の衝撃波のようなものを放ってきた。
ダメージは受けなかったけど、多少吹き飛ばされた。
「星羅の妹よ!私は気が変わった。お前の体はここで跡形もなく切り刻み、その魂だけをもらっていくことにする。従って…」
流未歌は左手を再生させ、その手に曲刀を出した。
「お前たちはみな、ここで殺す!星羅と死の始祖様には、あとで事情を説明する!無意味な足掻きはやめて、早々にこちらへ来い!」
ルーヴァルが技を繰り出したけど、例の顔に防がれた。
そして、流未歌は何やら魔力を溜め始めた。
「『風と共に、滅びろ』…」
すべてを察した私は、すぐに結界を張った。
龍神さんとルーヴァルも、同様のことをした。
念のため、私は結界に魔力を通してさらに頑丈にしておいた。
そして…流未歌は大技を繰り出した。
「奥義 [グラビティストーム]」
何か、得体の知れないものを無数に巻き込んだ竜巻が私達に襲いかかってきた。
それは威力もさることながら留まる時間が長く、結界は確実に削られていった。
このままでは、破られてかなりの傷を負ってしまう…
そう、思った時だった。
「ようやく、その気になったか…」
ルーヴァルの方を見ると、何やら笑っていた。
さらに、龍神さんも微かに笑っている。
「貴様がこの技を使うことは知っている。だから我が父は、対策を講じていたのだ…!」
ルーヴァルはそう叫び、なんと結界を解いた。
そして、荒れ狂う風が肌に触れた次の瞬間、剣にその風を吸い寄せて受け止め、刀身に黒い風をまとわせた。
「なっ…!?」
流未歌が驚いたわずかな隙に、ルーヴァルは彼女の体を切り裂いて払い抜けた。
「かつて流未歌と戦い、この技に苦しめられた親父が編み出したのを引き継いだ反撃技、[ストーム・グリム]。…思ったより威力があったな」
龍神さんは、そんなことを言っていた。
「…」
これで終わったか…というとやはりそんなことはなく、流未歌は数秒で回復した。
さらに、またしても輪の一部が分離して顔になった。
今度は、不気味に微笑んでいるような表情の顔だった。
「あの男が私の対策を練り、それを息子に引き継いでいたとはな…だが、甘い。これは我が技の中でも、最弱の分類だ!」
2つの顔とともに、流未歌は私達を見てきた。
「私を傷つければ傷つけるほど、我が眷属達が目覚めてゆく…最終的には、貴様らが負ける定めなのだ!」
私は弓を引き絞り、魔力を通した矢を放った。
意外にも命中し、流未歌の眉間を撃ち抜いた。
すると、彼女は恐ろしい目で私を見てきた。
「ほう…お前、いい度胸だな。私を怒らせたこと、後悔させてくれる!」
次の瞬間、私は左手に激しい痛みを感じた。
思わず目を移すと、手首から先がなかった。
「…!」
驚いている隙に、さらなる攻撃を食らった。
「[ピアッシングナブラ]…」
技名が聞こえたけど、もはやろくに頭に入ってこなかった。
左手と全身の痛みで、それどころではなかったのだ。




