特別訓練·技
さてさて、ああは言ったがどこに行ったらいいのか。
今は7時半過ぎ、まだ店とかもやってないだろうしな…
そんな事を思いながらデタラメに歩いていると、何やら金網に囲まれた施設の横を通りすぎた。
「んん?なんだここ?」
「ここは特別訓練所。強くなりたいと願う人が、特別な戦闘訓練を受けられる場所です」
「そんなのもあるのか…」
「そう言えば、龍神さんは訓練とかしないんですか?」
「昔はしてたが…今はやらないな」
「そうですか…
あ、龍神さんほどの方には愚問だったでしょうか」
「で、ここはどんな訓練を受けられるんだ?」
「私もよく覚えてません…何年も来てないので。
でもここは、今の時間帯でも開いてたはずです」
「そうか…じゃ、ちょっと覗いてみようか」
入り口のゲートには水兵がいたので、もう開いているのは間違いなさそうだった。
声をかけたら、受付云々の後に本施設について説明しますか、的な事を言われたので一応聞いた。
簡潔に言うと、この施設では術や武器ごとの技、立ち回りを教わったり実践したりできるらしい。
そしてそれらには、レークの中でも上位に位置するエリートの水兵が教官としてつくという。
時間は最大六時間までと決まっているが、好きな武器を使用できるらしい。
なるほど、これならいい訓練が出来そうだ。
「龍神さん、私、ちょっと受けてみたい訓練があるので…
いいですか?」
アレイにそう聞かれたので、勿論、
「いいとも」
と返した。
この訓練、水兵は無料で受けられるらしい。
アレイは弓と術のコースを選んだ。
俺は訓練を受けるつもりはないが、取り敢えず見るだけ見てみようと思ったので一緒についていった。
通されたのは、金網に囲まれた4m×10mほどの広さの空間。
今は俺たち二人の他に誰もいない。
取り敢えず横にあったベンチに腰かけて待つ。
すると程なくして、向こうの金網のドアが開いた。
そして、今回の教官が現れた。
「あ…」
思わず声が漏れた。
アレイよりも大柄で、二本の緑の帯が入った帽子を被った水兵。
前見た時よりだいぶ綺麗だが、あれは確かキュリン…
「あ、キュリンさんだ」
それを見るなり、アレイは元気に声を張り上げた。
「キュリンさーん、おはようございまーす!」
「おはよう」
さらにキュリンはこちらに気づくと、
「おはようございます」
と一礼してきた。
「おはよう。
あんた、ここの教官だったんだな」
「ええ。発電所の職員と、ここの教官を掛け持ちしているんですよ。
一応聞いておきますが、あなたも受けますか?」
「いや、そのつもりはない。
俺はただ見てるだけで十分だ」
「そうですか。では下がって見ていて下さい」
言われるがまま、ベンチに戻る。
「それで?あなたは何をしたいの?」
「いくつか弓の技と術を覚えたので、その実践相手になってほしいんです。
最も、まだ試作なので、もし改善点等あればアドバイスをお願いします」
「そう。
ま、いいわよ。やってみなさい」
キュリンはそう言って、扇を取り出してアレイと多少の距離を取る。
「では、行きますよ…」
アレイも弓を取り出す。
そして…
「弓技 [光陰一矢]」
矢を上に向けて放つ。
矢は高速でほぼ真上に飛び、落下を始めるあたりで急に消えた。
ーその数秒後、キュリンが扇を広げて矢を防いでいた。
「どうでした?」
「時間差技としては悪くないと思う。
ただ、これだと矢の見えやすさが戦場の明るさとか太陽との位置関係に左右されるから、矢自体に魔力を込めて、より見づらくしたほうがいいんじゃない?」
「そうですか…」
アレイは、矢を拾いながら言った。
「次も弓の技なんですが…
いいですか?」
「勿論よ、早くやってちょうだい」
「はい。
弓技 [ヘッドステッチ]」
今度は、キュリンの頭を正確に狙った射撃。
これもまた、扇で弾いていた。
「頭を狙った…ってことは、即死か気絶を狙った技ね?」
「はい、今のは即死を狙いました」
「速度も精度もよかったわ。上手く決めれれば即死、少しずれても気絶はさせられそうよ。
ただ、今の撃ち方だと連発はきついだろうし、外れた時の隙が大きいからそこは改良が必要ね」
「わかりました」
なるほど、そういう事か。
この水兵…キュリンは、かなりの手慣れだ。
扇は地味な印象を抱かれがちだが、実際は非常に強力な武器だ。
それには軽く持ちやすいために術や風の力を乗せやすく、強力な技を使うのが簡単だというのもあるが、扇の真価は、相手の攻撃をいなし、かわして反撃を見舞う事にある。
その強さは、上手く扱えればどんな盾や鎧を着込むよりも確実かつ強力な防御手段だと言われる程。
しかし、扇でいなしと回避をするには的確な判断力と優れた身体能力が求められ、そう簡単に出来るものではない。
故に、扇というのは強力ではあるが、扱いが難しい武器の一つなのだ。
そんなものを上手く扱えて、ほぼどんな攻撃でもいなせる奴が教官とは…
これは、なかなか面白いかもしれんな。