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掘り出し物

「さて、これを磨けるとこを見つけないとな」


「探す必要はないですよ。

この町にも、そういう所はありますから」


「いや、ただの武具工房じゃダメだ。

設備が充実してて、本当に腕のいい職人がいる所でないと」


「あら、もしかして私たちを見くびってます?」


「と言うと?」


「腕のいい武具職人なら、この町にもいますよ。

…私と同じくらいの歳の人が」


「へえ…そいつと面識とかあるのか?」


「勿論。何しろ、彼女は私の前の同僚ですから」


「前の同僚?」


「前に龍神さんも会いましたよね?彼女ですよ」


「…?」

龍神さんは最後まで気づいてない様子だった。






中央の町中にある小さな工房。

それこそが、私の目的地。

そして、私達が外部に誇れる場所の一つだ。

なぜなら、ここにいる水兵ー

アメルは、ジーク最高の武具鍛冶職人なのだから。




入り口のドアをくぐり、作業場の奥に声をかけるとすぐに彼女が出てきた。

「お、君は…」


「…久しぶり。

アレイ、どうしたの?」


「これを研磨して欲しいの」

そう言って、先ほど入手した錆びた刃物を見せた。

するとアメルは驚いた顔をして、

「どこでこんなものを?」

と言ってきた。

「カトスの門から町に入ろうとしてたゾンビが何体かいてね。龍神さんと一緒に倒してきたんだけど、そのうちの一人が持ってたの。

これ、あなたなら磨けるでしょ?」


「ええ、勿論…」

アメルは刃物を受け取ってはくれたけど、なんだかぎこちない様子だ。

「どうしたの?なんか変よ?」


「い、いえ…

とりあえず、二人ともこっちにきて」





      ◆





アレイから錆びた刃物を受け取るなり、アメルは明らかに様子が変わった。

パッと見、錆びまみれの(なた)か何かにしか見えないのだが…

でも、あれは魔力を帯びていた。

そして、一級の鍛冶職人である(らしい)彼女のあの表情…

ひょっとすると。


連れてこられたのは、作業場の奥。

色んな工具やら原料やらがあり、壁には薙刀などが何本もかけられていた。

「これ、本当にゾンビが持ってたの?」


「ああ。

見た感じ鉈か何かのようだが…」


「そうね、確かにこれは鉈よりの武器。

でも、それだけじゃない」


「どういう事だ?」


「これは、おそらく創生武器」


「創生武器!?」

これは驚いた。

創生武器とは有史以前の、創生期と呼ばれる時代に作られた武器。

いずれも今のノワールでは到底再現できない技術…いわばロストテクノロジーで作られていて、その多くは今のノワールの武器とは形状や性質が明確に異なり、何かしらの強大な力が宿っている。

…要は、今普通に作れる武器より強い掘り出し物の武器、ってとこだ。

しかし、創生期が終わって早1200年。

当時の武器の大半は発掘という形で発見されるのだが、ひどく傷んでいたり、錆びまみれであったりする事が殆どだ。

しかも研磨·復元には相当の技術が必要となり、見事復元できたものは博物館くらいにしか置かれていない。


「え、創生武器?これが?」

アレイも驚いた様子だった。

「途中で、これから変な魔力を感じなかった?」


「確かにやけに強い魔力を帯びてるな…とは思ったが…

まさか創生武器だとは思わなかった」


「でも、これゾンビが持ってた物よ?

さすがに…ねぇ…」


「なら磨いてみましょう。そうすればわかるはず」

アメルは座って刃物を右手に持ち、左手で刀身を擦り始めた。

「いや、手でやるのか…」

と言いかけてすぐに言葉を切った。

アメルが擦った所はたちまち錆びが落ち、鈍く銀色に光る金属が顔を覗かせた。

「[刀匠]…

武具でさえあればどれだけボロボロでも研磨·復元できるし、材料があれば何でも作ることができる。それが私の異能」

研磨しながら説明をしてくれた。

「凄いな…」

能力もすごいが、それを素手でできることに驚きを隠せない。

「そう、凄いんですよ。

アメルは、私達…

いえ、このジークの中で最高の技量を持つ鍛冶職人です。

私達が使っている武具も、殆どはアメルが作ったものです」


「へえ…そうなのかい?」


「ジークで最高…かはわからない。

でも、町のみんなの武器を作ったのは確か。

一時期は鍛冶の仕事が暇になったから、アレイと同じ所で働いたりもした」


「なるほどねぇ…

あれ、するとアレイの武器も?」


「いや、アレイの弓は違う。

ユキさんが直接あげたものだけど…あれもまた、なんか不思議な感じがする。

よくわからないけど」


「そうか…」

さて、そんな話をしている間に武器の錆びはほとんど落ち、鈍く銀色に光る刀身が露になっていた。

しかし、一部が大きく欠損している上に刃自体がボロボロなため、やはりまだ使えるレベルではない。

「あとはこれを復元して研ぐだけ」


「復元か…

難しそうだな」


「別にそんなことない」

アメルは刃物の背に手を当て、

「[匠の業·修復]」

技の詠唱らしき言葉を呟く。

すると、一部が欠けてくすんだ色になっていた刃物が瞬時に修復され、本来の姿に戻った。

「これは…」


「…やっぱり、創生武器で間違いない。

それも、珍しいマチェット型のね」


「だな…

あとは研ぐ、か?」


「ええ。

このままだと、切れ味の保証はできないからね」


「研ぐ…って、砥石を使うのか?」


「そんな必要ない」

アメルは腕を捲り、手首に刃を擦り付けた。

端から端まで擦り付けると、刃の角度を変えてまた擦り付ける。

そしてそれが終わった時、刃は新品同然のきれいな刃になっていた。

「おぉ…」


「これで切れ味は大丈夫。

アレイ、いいよ」

研ぎ終わった山刀をアレイが受け取ると、何やら一瞬だけ青い光が山刀全体から放たれたように見えた。

「ありがとう…

これ、私が使っていいのかな…?」


「勿論。

てか、それはあなたが使わなきゃ駄目よ」


「どういうこと?」


「創生武器には自我を持つものがあってね…そういう武器は、自ら持ち主を選ぶのよ。

そして選んだ人の手に渡ったとき、主に強大な力を与える」


「…!

でも、どうしてそんなのわかるの?」


「あなたが今それを持った瞬間、武器が光った。

それは、その武器があなたを持ち主として選び、あなたの手に渡ったことを喜んだ証拠。

…その武器は、あなたに使われたがってるのよ」


「…」

アレイは驚き、また不思議そうな顔で、山刀を見回した。

「そのままだと危ないから、鞘を作ってあげる」


「あ、ありがとう」


「鞘作るなら、モノが必要なんじゃないのか?」


「大丈夫。

一度手掛けた武具は、いつでもコピーを生み出せるから」

そう言って、手に今しがた修復したのと全く同じものを生み出す。

「本当、すげぇな…」


「こればっかりは時間がかかるから、しばらく外の散策でもしてきたら?」


「しばらく、ってどれくらいかかるの?」


「1時間くらいかな」


「そうか、ならそのほうが良さそうだな。

アレイ、行こう」


「ええ」




アメル·ステノア

レークの水兵の一人。

ぶっきらぼうだが思いやりはある性格。

[刀匠]の異能を活かして武具鍛冶を営んでおり、レークで使われる武具の殆どを手掛けている。

その鍛冶技術はジークで最高と呼ぶ者もいるほど。

戦闘では火属性の術法と槍を扱い、セレンらと共に真っ先に立ち向かう。



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