模擬戦の結末
「…!」
アレイの術にスレフは驚き、また、感心したようだった。
「そっちも奥義を出してくるか…いやあ、見事だ」
「加減出来ない、と仰っていましたからね。
私も、少しばかり本気を出させてもらいました」
「…ふっ、そうか」
スレフは、静かに魔導書を開いた。
「[リニアス]」
さっき使ってた「エレクトロ」は初級魔法だが、今度のは中級の魔法。
電気の球を生成し、そこから一直線に稲妻を迸らせる。
もちろん、アレイが食らえば相当な傷を負うはずだ。
だが、アレイは、
「[氷の防壁]」
またしても氷の壁を作り出し、魔法を防いだ。
さらには、
「[霜降のスノーラル]」
冷気を起こし、スレフの体に霜をつかせ、その動きを鈍らせる。
そしてスレフのように魔導書を出し、氷の中級魔法を放った。
「[アイシクル]」
冷たい吹雪が吹き荒れ、スレフを襲う。
スレフは片膝をつき、多少の傷を負ったようだったが、まだ倒れはしなかった。
そして素早くアレイに飛びかかり、
「奥義 [雷電の破刃]」
電気の刃を生成して斬りかかるが、アレイはそれをバク宙で容易に躱し、カウンター技を決めた。
「[返り射ち]」
「うわっ!」
矢はスレフの右肩に刺さった。
「氷法 [久遠の氷]」
矢から氷を伝わらせてスレフの右腕自体を凍らせ、アレイはさらに術を使う。
「奥義 [永遠の氷の中に]」
アレイの術は、スレフの凍りついた腕を破裂させた。
「っ…!!」
スレフは右腕を押さえ、両膝をついた。
「…見事だ。うっ…」
そして、スレフはこうも言った。
「私の…負けだ」
「…!」
アレイは弓を下げ、顔をほころばせた。
「いやぁ…見事だ、本当に…うぅっ…」
スレフの腕はぐちゃぐちゃになっており、見るからに痛そうだ。
「おいおい…大丈夫かよ?」
「ちょっと…効きすぎなくらい…効いたぜ。まあ…大丈夫だ」
スレフは杖を出し、回復魔法を唱えた。
「[ヒーリング]…」
ぐちゃぐちゃになった腕が癒え、元に戻っていく。
「ふう…これでよしだ。
…アレイ、よく頑張ったな。私相手にここまでやるとは思わなかったぜ」
「正直、途中まで怖かったです。
でも、弾幕を使われたあたりで、私の中の何かが切れて…」
「ありゃ、そうだったか。
てことは、私の弾幕が君を強化した感じか?」
まあ、結果的にはそうなる。
てか、アレイあれで怖いって感じてたのか。
まったく怯えてるように見えなかったのだが。
「そう…とも言えるかもしれません。とにかく、私は後半はもうスレフさん…もとい電使いに恐怖は感じませんでした。ただ、眼の前にいるのは自分が今戦っている相手で、私が倒さなければならないんだ…とだけ思ってやっていました」
「それでいい。過程はどうあれ、相手に余計な感情を抱く必要はない。そういうのは、戦いに勝ってからいくらでも考えられる」
「その通りだ。まずは、相手を恐れずに立ち向かわないとな」
「…はい!」
アレイは、頭を下げた。
「…で、お前も私とやるか?」
「いや、遠慮しておく。あんたの戦いぶりは見れたし、アレイの目的も達成できたみたいだしな」
「そうか。…まあいい。
私も久しぶりに結構マジになった。まさか水兵相手にここまで全力を出すとは思わなかったよ」
やっぱり本気になってたのか。
としたら、アレイは尚更すごい。
本気を出した皇魔女に、膝をつかせたのだから。
「私も、自分がここまでやれるとは思いませんでした。スレフさん…ありがとうございました」
部屋を出た俺達は、すぐにロザミの元へ向かった。
今、俺達にはやるべき事があるのだ。
「ロザミ!」
「来ましたね」
「あんたと話したい事があるんだが…いいか?」
その後、影喰らいの事について話した。
何とも手はずがいい事に、ロザミはすでに向こうの居場所を特定してくれていた。
そこは、マトルアの東の森。
丁度、ミジーの近くだった。
「そこで間違いないのか?」
「はい」
「リスウェ湖からだと、ちょっと遠いですね。なんでまた、そんな遠くから…」
「あいつらは、あちこちうろついて殺人者を探すからな…」
「ミジーにはイクアルもいますし、いざという時は彼女に助けを乞うといいでしょう。
私の方から、手紙を送っておきますから」
「ありがとうございます」
「いいのです。くれぐれも、気を付けて下さいね…」
「ああ、大丈夫だ」
ここで、アレイが疑問を浮かべた。
「そう言えば、結局影喰らいって、なんで殺人者を食べるようになったんでしょう?」
「え?」
「私、訳あって殺人者を取り込んでいるんですが…その記憶の中に、影喰らいの事もありました。それで気になったんです。なぜ彼らが殺人者や祈祷師を捕食しているのか…」
そう言えば、俺もそこはよく知らない。
わかるのは、奴らが種族としての宿敵であるという事だけだった。
「それに関しては、私知っていますよ。もっとも、詩の内容として…ですが」
「え、詩にあるんですか?」
「はい。異人の種族について詠った詩の一節にあります」
「なら、今詠ってくれるか?」
無茶振りかもしれないが、正直奴らの事が気になるのと、ロザミの詩を久しぶりに聞きたくなったので言った。
「いいですよ」
ロザミは魔法でフィドルを出し、詠い出した。
「異人の詩 第8の節 影喰らい
愛する人々を守るべくして戦う異人、防人。
その戦いにて、最たる脅威となりしは殺人者と祈祷師であった。
古より存在する、悪魔の如き異人。
怪物と手を結び、人々を脅かす邪悪な異人。
それらに対するべく、防人はあらゆる手を尽くす。
されど、いずれも実は結ばず。
やがて、防人の中に変わり種現れん。
それは心の闇を喰らい、影に生きる者を屠る種族であった。
それは殺人者を打ち負かし、祈祷師の祈祷を跳ね除けた。
闇に囚われし異人を喰らうかの種族を、人々は影喰らいと呼ぶ。
その時より、防人の脅威は一つ減り、殺人者と祈祷師は防人を目の敵とした」
「…」
なるほど。要は、突然変異か何かで生まれた防人の変異種が影喰らいだった訳だ。
それで、影喰らいの出現によって防人は殺人者や祈祷師を恐れる必要がなくなった。
反対に、殺人者と祈祷師は防人をつけ狙うようになった。
確かに、殺人者や祈祷師の中には防人を憎んでいる者や殺意を抱いている者が結構いる。
何なんだろうなと思ってたが、そういうことだったのか。
影喰らいを恐れる種族故の本能的思考。
そこから防人への敵意が来ていたとは。
「今の詩にあったように、影喰らいは、元は防人の変異種族なのです。しかし、今回の影喰らいの活動は少々おかしな所があります」
「おかしな所?」
「影喰らいは、本来は町や国で問題行動を起こした殺人者や祈祷師を狙うものです。なぜ、何もしていない白水兵の集落を襲ったのでしょうか」
「…言われてみれば。まあ、奴らの腹なんぞわからんが」
理由なんてどうでもよかった。
とにかく、さっさと行って、奴らをぶっ飛ばしたい。
ただ、そうとしか思わなかった。
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