皇魔女との模擬戦
数十分後…
俺達は、城内の実戦訓練室なる部屋に来ていた。
ここはその名の通り実戦形式の訓練を行うための部屋で、本来は主に城の兵士や術士が利用する所らしいが、ロザミにスレフとの訓練を行うと伝えたら、それならここを使うといい、と言われ、通された訳だ。
部屋の中には何もなく、ただそこそこ広いだけの空間となっている。
まさしく、訓練用の部屋といった感じだ。
「ここでなら、思う存分やれるな。
それで…二人で一緒に来るのか?」
「いや…それはやめておく。皇魔女とは言え、女を二人がかりで攻めるなんて真似をするのは気に食わないんでね」
「そこは気にするのか。お前らは礼儀も何もない種族だろうに」
「まあ…な。それと、俺はあんたの戦いぶりを見てみたいんでな」
「そうか。…まあ、いいぜ?私の…皇魔女の戦いぶりを、しかと見るがいいさ」
アレイの方に目を移す。
「アレイ、いいか?」
「はい。むしろ、都合がいいです。
龍神さんの力無しで、電使いと戦える機会ですから」
すると、スレフは嬉しそうに…また、挑発するように、笑った。
「ふふ…そうこなくっちゃあな」
…この笑い方、なんか見たことあるような気がするんだが。
そして、スレフとアレイは見合った。
俺は、リングとして張られた結界の外に陣取った。
「ルールは簡単だ。相手に両膝をつかせた方が勝ち。それでいいな?」
「はい」
アレイは返事を返すや否や、目にも止まらぬ速度で矢を放った。
スレフは、体をひるがえしてそれを躱した。
「気が早いな」
「…」
アレイはそれに応える事なく、すぐに次の技を放った。
「[水切り羽]」
またしても矢を瞬速で射つ技。
それを躱されると、アレイはすぐに手を翳して術を放った。
「氷法 [霧氷固め]」
霧のような冷気が生成され、スレフの体に氷がまとわりついていく。
「[核電熱]」
スレフは自らの体に電流を流して体温を上げ、氷を強引に溶かすと、
「そろそろ私も行かせてもらおうか。
…言っておくが、私は加減は苦手だぜ?」
と言って、手元に魔法陣を作り出した。
そして手を大きく振り、アレイに向けてかざして術を放った。
「雷法 [サンダースクリュー]」
太い電撃が放たれる。
アレイはそれを躱して、カウンターとばかりにスレフに飛びかかる。
すると、スレフはサッと魔導書を取り出した。
「[エレクトロ]」
稲妻を食らって、アレイは墜落した。
だが、間一髪で両膝をつかずに持ちこたえた。
「っ…!」
「やっぱりそれなりに効いてるな。だが、この程度では怯まないだろうな?」
「もちろんです…!」
アレイは、震えながら立ち上がった。
「次はこうです!氷法 [氷花冷撃]!」
6つの青い魔弾を生成し、それらから一筋の光を伸ばして雪の結晶の形にして、そこから氷の波動を放った。
「[プラズマカーテン]」
スレフは電気の壁を張り、アレイの波動を容易く受け止めた。
「…!」
驚き硬直するアレイに、スレフはさらに畳み掛ける。
「雷法 [雷玉光]」
一個の黄色い球体を作り出し、縦に一直線に電気のビームを放つ。
アレイはそれを、間一髪で回避した。
「[電光彗星]」
スレフは、複数の小さな火花を落とした。
アレイは、それらを全て躱したが、回避し終わった時にわずかに隙が出来た。
そこに、スレフは魔弾…いや、弾幕を放った。
「[フェラルスフィア]」
俺にとっては、アレイが攻撃を食らった事より、本物の弾幕を初めて見られた事の方が重大だった。
現代のノワールにおいて、その使い手は下手な上位種族より珍しいとされる魔法を、この1500年間一度も見た事がなかった魔法を、この目で見られたのだ。
なんか色々と引っかかる所もあるが、まあいいとしよう。
「うぅ…」
「もう終わりか?」
アレイは胸を押さえ、絞り出すように声を出した。
「これが弾幕…下手な魔法より、威力がありますね…」
アレイはそう言うが、正確には弾幕はそれ自体が強いのではなく、それに宿る魔力が強い。
故に厳密に言うと、単にあれを放ったスレフの魔力が強大だというだけのことだ。
「私は魔女だ…魔力は強くて当然だろう」
そして、スレフは黄色い球体を9個背後に浮かべた。
「…!」
「その様子だと、まだまだ大丈夫そうだな。
安心したよ。水兵は電に弱いから、あっさり気絶とかしちまうんじゃないかと心配してたんだ」
「それはどうも…ですが、私はそう簡単には落ちません!」
アレイは手を掲げ、術を唱える。
「氷法 [氷河の風]!」
スレフに強烈な冷気を当て、胸を凍りつかせる。
そして、そこ目掛けて矢を放つ。
「弓技 [フローズンブレイク]!」
これは効いたようだ。
スレフは胸を押さえ、唸る。
「くっ…やるな。だが…!」
スレフが言い終わる前に、アレイは術を唱えた。
「[盤床・グラウンドゼロ]」
アレイの体に岩石がまとわりつき、かつての王典にも似た姿となってゆく。
「おお…」
それを見て、スレフはうめき声を上げた。
「カイナの術奥義か。確かに、相性的には分が悪いな。だが…」
スレフは再び弾幕の構えを取る。
「それだけでは覆らないものもあるんだぜ!
奥義 [鮮麗なる電光の嵐]」
9個の球全てを撃ち出し、壮絶な稲妻を巻き起こした。
奥義を出した、ということは本気を出されたか。
これはあくまでも模擬戦であるはずなのだが。
そう思った刹那、スレフの腹を察した。
アレイの様子が、何やらおかしいのだ。
相手が技を出そうとしてるというのに、静かに目を閉じている。
やがてアレイは目を開いた。
そして巨大な氷を生成してスレフの奥義を容易く防ぐと、飛び上がって手に魔弾を生成した。
それは、今までのものとは違う、途轍もない魔力を感じるものだった。
「私が地の術奥義を使ったのは、属性相性のためではありません。これを出すためです!
奥義 [少女的絶対零度]」
強烈な吹雪が巻き起こると同時に、無数の氷柱が降り注ぐ。
それは、スレフの張った結界を破り、回避しようと動き回るスレフの手を貫き、頭を掠った。
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