電の術奥義
とりあえずロザミにも事の経緯を話し、知恵を借りることにした。
…のだが、その前にロザミに呼び止められた。
「あなた達に来客が来ています」
一瞬、まさかまた樹じゃないだろうな…と思ったのだが、そんな心配は無用だった。
城の客室で待ち構えていたのは、スレフだった。
「おっ、あんたは」
「久しぶりだな、お二人さんよ」
「スレフさん。今回は、どうされました?」
すると、スレフは縮み上がって言った。
「決まってるだろ…?お前ら二人に、私の術奥義を伝授しに来たのさ!」
「術奥義…?」
「そうだ。お前ら二人が尚佗を倒してくれたお陰で、私も術奥義が使えるようになったんだ。
その謝礼として、私の術奥義をお前らに伝授しようと思ってな!」
なんか、ちょっとテンション高いような気がするのは気のせいだろうか。
「え…?そのためにわざわざマトルアまで来たんですか?」
「ああ!シルトから、お前ら二人がマトルア近辺にいるって聞いてな、ここにいれば多分会えるだろうなって思って来てみたら、見事に会えた…って訳さ!」
シルトから…ねえ。
あの皇魔女、情報を集めるだけじゃなく広めるのもお手の物なんだな。
「それで、今から教えてくれるのか?」
「もちろんだ」
スレフは両手を広げ、全身から魔力を滾らせた。
「長い間、使いたくても使えなかった私の術奥義…
それは、空でも海でも切り裂く雷の術だ」
「海を、切り裂く…?」
アレイは少し引いているように見える。
まあ、それはそうか。
彼女は海人だ。海を切り裂く、とか言われると、その威力がよくわかるのだろう。
「そうだ…あらゆるものを焼き焦がし、切り裂く、雷の嵐を巻き起こす。それが、私の術奥義だ」
「…一つ、見せてもらえないか?」
「もちろんだ」
スレフは周囲に影響が出ないように結界を張り、魔力をさらに溢れさせた。
「よーく見ておけよ…これが電の術奥義、電術の頂点だ。
雷法 [万儡・ボルトストーム]」
空中に小さな稲妻が走ったかと思うと、たちまち轟音と共に無数の稲妻が現れ、竜巻のように渦巻いた。
「おお…」
「すごい…!」
「だろ。龍神、今の術に見覚えはないか?」
唐突にそう言われた。
「見覚え…まあ、強いて言えばサンダーサイクロンに似てるな」
サンダーサイクロンとは高位の電術の一つ。
渦巻く雷を召喚して敵を攻撃する術で、威力が高く、反射効果を無視できる上、弓も届かないくらい遠くの敵を攻撃することもできるが、その分消費が重い。
俺も使えるが、今までそんな遠距離攻撃の必要がなかったので使ってこなかった。
「そうだ。これは、あれを元にして作られた術なんだ」
「…あっ、なるほどな。てことは、俺にも扱えるのか?」
「使えるさ。私が今こうして伝授しているんだからな。
…こいつの使い方は、基本的にはあれみたいな遠距離魔法と同じだ。
魔力を全身から溢れさせ、指定したポイントに稲妻として顕現させる。最初は小さく、あとは全力で、魔力を解き放つんだ」
俺は、言われた通り全身に魔力を溢れさせる。
そして壁の一点に狙いを定め、魔力を少しだけ、稲妻として顕現させる。
小さな雷光が光った…と思ったら、その直後に魔力を一気に流す。
凄まじい音と共に、文字通り嵐のような雷が渦巻いた。
「雷法 [万儡・ボルトストーム]」
銘を詠唱すると、アレイが歓声をあげた。
「龍神さん…!すごいです!」
「…ま、不思議はないな。俺は電に適性があるから」
術を扱う者には誰しもが「適性」というものがある。
適性のある属性の術だと適性無しの場合よりも習得しやすくなる。
位の高い術は一定以上の魔力がないと習得できないが、適性がある場合はそのハードルも低くなる。
さらに、適性がある属性の術を唱える場合、使用する魔力が通常より少なくて済む。
故に、術への適性は術自体の強さと同じ位重要視される。
皇魔女の扱う術奥義となると、適性があっても、更にその上で魔力も相当に高くなければならないだろう。
俺は長い間術を使い続けてきたから、魔力は司祭並みにはある。
アレイは、どうだろうか。
まあ、今までにも皇魔女の術奥義をたやすく習得してたから、相当にはあるんだろうが。
「次は、アレイだな。魔力を全身から溢れさせる…できるか?」
「やってみます」
アレイは目を閉じる。
そして、全身から水色のオーラを醸し出す。
「おっ、出来てるじゃないか。じゃ、後はどこかに狙いを定めろ」
アレイは目を開け、ある一点をじっと見た。
「定めたか?」
「はい」
「あとは、そこに一筋だけ稲妻を走らせるんだ…ごくわずかにだけ、魔力を伝わらせるイメージでな。一筋の稲妻が走ったら、あとは全開で魔力を飛ばせ。
上手くいけば、私や龍神がやったのと同じような轟音が響く」
アレイは目を見開き、手をかざした。
壁沿いの空中に、小さな稲妻が走る。
そしてその直後、太い雷光が迸る。
「雷法 [万儡・ボルトストーム]」
アレイが術を唱えると、みるみるうちに稲妻が増え、轟音を響かせながら雷撃の嵐が吹き荒れた。
「…やった!」
「さすがだな。一回で習得するとは」
「完璧だ。やっぱり君は、生の始祖の末裔だぜ」
「ありがとうございます」
アレイは、俺達に感謝の礼をした。
そして顔を上げ、すぐに言った。
「ところでスレフさん…一つ、私達と手合わせを願えませんか?」
「どうした、急に」
「私…尚佗と戦って思ったんです。私には、まだ電属性の使い手への恐怖心がある。
それを、克服したいんです」
「君は海人だぞ?電属性の相手に恐れを抱くのは、自然なことだ。
それを無理に克服する必要は無いんだぜ?龍神もいるんだしな」
「いえ、私はどうしても、電使いへの恐怖心を捨てたいんです!」
アレイの気迫には、俺もスレフも驚いた。
「そ、それはまた、どうして…」
「私は吸血鬼狩りになりたいんです。なのに、恐怖心なんて持ってたら話になりません。それに私は…何となく、また尚佗と戦うことになりそうな気がするんです。その時にあいつを恐れたら、絶対に勝てないと思うんです!だから…だから!」
アレイのその目を見て、スレフは真剣な顔つきになった。
「…その目は、本気の奴のものだな。
わかった。私が、お前ら二人の相手をしよう」
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