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悲しみ

その雷は、今までのものとは違っていた。

勢いも、迫力も。


それを見て、私は心の底からぞくぞくした。

人間の心が残っているが故の恐怖か、あるいは海人という種族故の恐怖か。

「…!」


「アレイ!」

樹さんに呼ばれてはっとした時には、もう電撃に当たる寸前だった。


「っ…!!」

その瞬間に、龍神さんが飛び出して電撃をかわりに受け、私は無事だった。


「龍神さん!」


「だっ…大丈夫だ…」

それを見て、尚佗は舌打ちをした。

「ちっ…優しさアピールしやがって」


「アピールなわけないだろ…ふう…」

龍神さんはお腹を押さえていたけど、じきに手を離して、

「アレイを巻き込もうとするな。俺と決着をつけたいなら、素直にそう言え!」


と、斬りかかった。

「確かに、私はお前と決着をつけたいとは思う。

だが、それはあくまでも私個人の事情!」

尚佗は、龍神さんの刀を薙刀で受け止めた。


「大前提として、その娘を連れて行くという用事があるのだ!」


「アレイは渡さない!何があっても!」


二人がやり合っているところへ、

「その通りだ!」

樹さんも参戦した。


「樹さん…!」


「大丈夫だ…こいつの事は、オレ達が一番よく知ってる!」


樹さんの棍も一緒に受け止め、尚佗は喋る。

「そうだ…お前には、まだこいつの事を言っていなかったな。

こいつは、昔から龍神とつるむ事がちょくちょくあった。空いた時間に、くだらない馬鹿話などで盛り上がっていた…」


そして、尚佗は薙刀を払い、

「だが私からすれば、変人同士で無駄な時間を過ごしていただけだ!」

と、二人を薙ぎ払った。



「っ…!」


樹さんが吹き飛ばされ、倒れたところへ、

「死ね!」

尚佗は薙刀を刺そうとした。


「させるか!」

龍神さんが尚佗に体当たりし、二人で乱闘を始めた。


「俺の事はいい…だが、樹を変人呼ばわりするな!」


「変人とつるむ奴も…変人だ!」


「変人で何が悪い…」

龍神さんは拳を握り、

「変な奴で…個性的な奴で、何が悪い!」

尚佗の顔に、思い切り振り下ろした。


「[スパークレイト]!」

尚佗の魔弾を受け、龍神さんは突き放された。


「この世は、長らく人類が努力し、積み上げてきた努力の結晶。それに合わせられない者が、皆から蔑まれ、弾かれるのは、至極当然の事だ!」


「それ自体、間違いだとは思わないのか!」


「何が間違っているんだ?人類は社会性生物…社会を築き上げ、生きるのが定め!その中で生きられぬ者に、生きる資格はない!」

龍神さんは、尚佗に再び斬りかかる。

勿論、樹さんも一緒に。


「社会の意味を…履き違えてないか?

みんなが同じ事をするのが…社会じゃないぜ!」


「その通りだ!社会ってのは、真面目に働く奴だけで成り立ってるもんじゃない…!

それに、お前は俺達を変人呼ばわりするが…今まで、歴史を大きく変えてきたのは、一体誰だったと思ってる!」


「例え誰であろうと、関係ない!人としての禁忌を犯し、社会道徳から外れたお前の言葉になど、何の価値もないわ!」


そして、尚佗は斬撃を放つ。


「俺は好きでこうなったんじゃねえ…お前みたいな奴がうようよいるから、こうなったんだよ!」

龍神さんの言葉には、うっすらと悲しみと怒りがこもっているように感じられた。


「どんな経緯があろうと、人の命を奪い、世の流れに抗う事は許されん!

お前に、私やこの世にとやかく言う権利はない。お前は、人間社会において…世の中において、最低の極悪人なのだ!」


「…?」

すると、龍神さんの目つきが変わった。


「り…龍神…?」

樹さんも、驚いていた。


…いや、違う。

確かに驚いてはいるんだろうけど、私とはその意味が違うだろう。


「…そうだな、確かに俺はどうしようもない悪人だ。だが…」

彼は、震えながら言った。


「俺を悪人にしたのは、どこのどいつだと思ってんだ!!」

彼は、刀のみならず全身に電気をまとい、尚佗に突っ込んでいった。




…初めて見たかもしれない。

龍神さんが本気で怒る所を。




尚佗は、彼の猛攻を受け止めていたが、その表情には少しばかり焦りが感じられた。


「俺は…!普通に社会で生きていきたかった!

普通に働いて、人間らしく生きたかった!

行きたい所もたくさんあったし、やりたい事だってあった!

なのに…なのに…!」


彼は、悲しみにも聞こえる声をあげた。

「社会は、俺を拒んだ!

みんなして、俺をダメな奴だ、変な奴だと笑い者にした!

どんなに努力しても、誰も俺を認めようとしなかった!

そして、誰も俺を愛してくれなかった…!」


そう言えば、彼は家庭環境も酷かったんだっけ。


父親には長い間虐待され、母親には家や彼自身のお金をほとんど使い込まれた。

しかも、彼は自身の特性と人格故に、弟たちと上手くやれなかった。

そんな環境で、彼は愛というものをほとんど知らずに育ったんだ。


「俺は、社会に絶望した…!

だから、生きるのをやめた!

せめて、最後に社会に復讐したい…

そう思って、人を殺して回った!

社会の脅威となって、最期は惨めに死ぬ事を望んだ!」


そして、彼は顔を肘でこすり、

「だが…そうさせたのは、この世の中だ!

お前のような奴らが…俺をこんなにさせた!

だから…俺はお前らを許さない!」

と、刀にさらに強烈な電撃をまとわせた。


「…!あれは…!」


私にも、何となくわかる。

あれは、彼の『最終奥義』。

今まで、一度も見せてこなかった最強の技…



「[雷皇閃・怨恨の一太刀(ヘイトバイル)]」



凄まじい電気をまとった派手な斬撃が、尚佗を斬り裂いた。


世界観・奥義

各異人が個人で開発したオリジナルの技や術につけられる名称。

異人の間で広く使われる技や術に各自の異能や技法を組み込んだものと、個人で一から作った完全オリジナルの技・術の2種類がある。

本来は「一際強力な技や術」という意味の言葉だったが、時代と共に意味が変わって今の用法になった。

なお、一人の異人が扱う奥義の中で最も強力な効果を持つものは「最終奥義」と呼ばれ、威力は格別だがその分反動や代償も大きい場合が多い。



面白い、続きが読みたい、などと思って下さった方は、星の評価やブックマーク登録をして頂けると作者のモチベーションも上がって更新頻度を維持しやすくなりますので、ぜひよろしくお願いします。

またコメントやいいねもお待ちしています。


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