表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
182/321

尚佗の力

最初に細い電撃を放ってきたので、私は氷の壁を作り出して防いだ。

氷は電に強いので、属性の相性的には悪くはない。

でも、麻痺効果のある技を使ってこられると厄介だ。


「こいつは…」


「スペクターの類いね。でも、自身で電気を生成できるようになってる。

恐らく、プラズモとスペクターをかけ合わせたとか、そういう事じゃないかしら」


「その通りだ…こやつは、プラズモとスペクターを組み合わせた生体兵器。

我らはボルスペクターと呼んでいるが、あくまでも通称だ。正式な名称は今のところない」


スペクターは、中位の霊体系アンデッド。

プラズモは、電気を生成する能力を持つエレメント系の異形。

その2つを組み合わせて、電気を生成できるアンデッドを作り出した、といった所か。


次にそれは、両手を広げて大量の電撃を飛ばしてきた。

氷だけでは防げないと判断し、魔力を多めに使って強めの結界を張って防いだ。


(っ…これはちょっとまずいかも…)

海人は総じて電撃に弱く、勿論水兵である私もその例に漏れない。

氷を使えるとは言え、強力な電撃を直接浴びればまずい。


そう思った次の瞬間、

「きゃっ!」

電気がいきなり強くなり、結界を壊されてもろに電撃を受けてしまった。




全身が痛い。

電撃が流れたのは一瞬だけど、まだ手足がビリビリと痺れ、動かしづらい。


「水兵などになったのが仇となったな。人間であれば、そこまで苦しまなかったものを」


「人間だったら…あっさり死んでた。

異人に…なっててよかった…わ」


「私としては、お前にはせめて海の祈祷師(マリンシャーマン)になっていて欲しかったのだが…残念だな」


「バカな事言わないで…私は、純粋の水兵よ」

海の祈祷師(マリンシャーマン)は水兵と祈祷師の混血の種族で、両方の性質を持ち、純粋の水兵や祈祷師より強い。


でも、私は人間上がり…人間から異人になった身。

故に混血種族とは縁もゆかりもないし、純粋な水兵である事に誇りを持っている。


「電気を生み出せるアンデッドとは…新しいな」

龍神さんも、見たことがないのか。


「当然でしょ。これは尚佗様が造られた、全く新しいアンデッドなのだから」


エリムは手を合わせ、目を閉じた。

「偉大な主よ、私めにあなた様のお力を…」


そして、エリムは目を開いて、

「雷法 [プラズムネット]」

蜘蛛の巣のような形の電撃を飛ばしてきた。


「させるか!」

龍神さんが飛び込み、電撃を切り裂いてくれた。

でも、彼は分かれた電撃を浴びてダメージを受けた。


「ぐっ…!」


「龍神…!?どういうことだ…!」

驚く樹さんに、エリムはにんまりと笑いかけた。


「これが、再生者の力…相手の属性耐性に関係なく、傷を負わせられる」


「…!」

やはり、そうか。

となると、もはや頼れる人はいない。

私が、自力でこいつらを…


「なにしてやったり感出してんだ」

龍神さんが立ち上がった。



次の刹那、彼はエリムの胸を斬って払い抜けていた。

エリムは血を流し、へたれこんだ。


すると、次はメバロが彼を狙う。


「鎌技 [鎖鎌縛り]」

鎌に魔力で鎖をつけて巻き付ける、相手の動きを封じる技を放った。


「[アクアカルチェレ]」

樹さんが、水の檻を作り出して防いだ。


「ちっ…!」

メバロは舌打ちをして、鎌を戻した。


ワーグルはそんなメバロとエリムの様子を見て、

「やはり、先に始末するべきは探求者のようだな」

と言い、スペクターに樹さんを狙うよう命じた。


「っと、やべっ…!」

樹さんは、飛んできた電撃を回避した。

でも、その後も追いかけるように飛んでくるので、当たらないように逃げ回った。

彼は水属性だから、電気に弱いのだろう。


よく見れば、メバロがエリムを回復していた。

龍神さんと私は奴らの中に飛び込もうとするが、スペクターのせいで近づけない。

せめて、ワーグルがスペクターを操るのをやめさせられればいいのだけど…なかなかタイミングを見計らえない。



そうこうしているうちに、エリムは回復してきた。

そして、

「[アンデッド・イリュージョン]」

エリムの術で、スペクターが一気に増えた。


「まずい…!」


「これで、もはやお前達は終わりね」


「案ずるな…そこの探求者以外は殺しはせぬからな」


ワーグルとエリムがそんな事を言った直後、



「…」

メバロが倒れた。


「メバロ…?」

メバロの身を案じたエリムも、続くように倒れる。


「なんだ…何者だ!?」


ワーグルは、間一髪で「それ」の奇襲を食い止めた。




それはアリス三世だった。


「アリス、三世…!」


彼女は、龍神さんのものとは違う、反りのない刀でワーグルを押していた。

「貴様…いつの間に!」


「私はずっといた。今までは、存在を消していたに過ぎない」


そう言えば、今までアリス三世の事をすっかり忘れていた。

…そうか、彼女は[存在]の異能を持っていて、自身や他人の存在を人の意識や視界に映し出したり、逆に消したりする事ができるんだ。


「っ…小癪な真似を…!」


「お前達には言われたくない」

アリス三世はワーグルを蹴り飛ばした。

そして、これによってスペクターが全て消えた。


残りの祈祷師二人が立ち上がり、アリス三世を見る。


「愚かな吸血鬼ね…尚佗様の力を得た私達に、不意打ちをするなんて!」


「再生者の下僕となるとは…祈祷師は、どこまでいってもそんなものなのね」


「…お前、我らを侮辱するか!我らは、誇り高き異人だ!」


「真に誇り高き者は、再生者の部下になるなどという事はしない」


「不意打ちなどという汚い事をしておいて、よくそんな事が言えるな!私達は、お前などより余程誇り高いし、格も高いわ!」


「そう…」

アリス三世は、息を吸い込んで言った。


「なら、やはりお前達は三流の異人。

まず、不意打ちは歴とした戦術…汚いなどと言う事自体が間違っている。

次に、格が高い、という言葉は他者から言われるからこそ意味がある。真に格の高い者は、自称したりはしない」


穏やかな口調だけど、並々ならぬ威厳と迫力がある。

「言ってくれるな…!ならば、ここで決めようではないか…

我々と貴様らと、どちらが正しいか!」


「…何?勝った方が正義とでも?」


「ああそうだ…我らは実力主義!勝者が正しく、強い。敗者は間違っており、弱いのだ!」


「…はあ。呆れたものね。

いいでしょう。この町の伯爵として、高位の吸血鬼として、お前達を倒してくれるわ」


アリス三世は、こちらを見た。

「申し訳ありません。さあ、共に戦いましょう」


「はい!」


「ああ!」


「よしゃ!」




私達と祈祷師。

三対三の、対等な戦いが始まろうとしていた。


面白い、続きが読みたい、などと思って下さった方は、星の評価やブックマーク登録をして頂けると作者のモチベーションも上がって更新頻度を維持しやすくなりますので、ぜひよろしくお願いします。

またコメントやいいねもお待ちしています。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ