尚佗の力
最初に細い電撃を放ってきたので、私は氷の壁を作り出して防いだ。
氷は電に強いので、属性の相性的には悪くはない。
でも、麻痺効果のある技を使ってこられると厄介だ。
「こいつは…」
「スペクターの類いね。でも、自身で電気を生成できるようになってる。
恐らく、プラズモとスペクターをかけ合わせたとか、そういう事じゃないかしら」
「その通りだ…こやつは、プラズモとスペクターを組み合わせた生体兵器。
我らはボルスペクターと呼んでいるが、あくまでも通称だ。正式な名称は今のところない」
スペクターは、中位の霊体系アンデッド。
プラズモは、電気を生成する能力を持つエレメント系の異形。
その2つを組み合わせて、電気を生成できるアンデッドを作り出した、といった所か。
次にそれは、両手を広げて大量の電撃を飛ばしてきた。
氷だけでは防げないと判断し、魔力を多めに使って強めの結界を張って防いだ。
(っ…これはちょっとまずいかも…)
海人は総じて電撃に弱く、勿論水兵である私もその例に漏れない。
氷を使えるとは言え、強力な電撃を直接浴びればまずい。
そう思った次の瞬間、
「きゃっ!」
電気がいきなり強くなり、結界を壊されてもろに電撃を受けてしまった。
全身が痛い。
電撃が流れたのは一瞬だけど、まだ手足がビリビリと痺れ、動かしづらい。
「水兵などになったのが仇となったな。人間であれば、そこまで苦しまなかったものを」
「人間だったら…あっさり死んでた。
異人に…なっててよかった…わ」
「私としては、お前にはせめて海の祈祷師になっていて欲しかったのだが…残念だな」
「バカな事言わないで…私は、純粋の水兵よ」
海の祈祷師は水兵と祈祷師の混血の種族で、両方の性質を持ち、純粋の水兵や祈祷師より強い。
でも、私は人間上がり…人間から異人になった身。
故に混血種族とは縁もゆかりもないし、純粋な水兵である事に誇りを持っている。
「電気を生み出せるアンデッドとは…新しいな」
龍神さんも、見たことがないのか。
「当然でしょ。これは尚佗様が造られた、全く新しいアンデッドなのだから」
エリムは手を合わせ、目を閉じた。
「偉大な主よ、私めにあなた様のお力を…」
そして、エリムは目を開いて、
「雷法 [プラズムネット]」
蜘蛛の巣のような形の電撃を飛ばしてきた。
「させるか!」
龍神さんが飛び込み、電撃を切り裂いてくれた。
でも、彼は分かれた電撃を浴びてダメージを受けた。
「ぐっ…!」
「龍神…!?どういうことだ…!」
驚く樹さんに、エリムはにんまりと笑いかけた。
「これが、再生者の力…相手の属性耐性に関係なく、傷を負わせられる」
「…!」
やはり、そうか。
となると、もはや頼れる人はいない。
私が、自力でこいつらを…
「なにしてやったり感出してんだ」
龍神さんが立ち上がった。
次の刹那、彼はエリムの胸を斬って払い抜けていた。
エリムは血を流し、へたれこんだ。
すると、次はメバロが彼を狙う。
「鎌技 [鎖鎌縛り]」
鎌に魔力で鎖をつけて巻き付ける、相手の動きを封じる技を放った。
「[アクアカルチェレ]」
樹さんが、水の檻を作り出して防いだ。
「ちっ…!」
メバロは舌打ちをして、鎌を戻した。
ワーグルはそんなメバロとエリムの様子を見て、
「やはり、先に始末するべきは探求者のようだな」
と言い、スペクターに樹さんを狙うよう命じた。
「っと、やべっ…!」
樹さんは、飛んできた電撃を回避した。
でも、その後も追いかけるように飛んでくるので、当たらないように逃げ回った。
彼は水属性だから、電気に弱いのだろう。
よく見れば、メバロがエリムを回復していた。
龍神さんと私は奴らの中に飛び込もうとするが、スペクターのせいで近づけない。
せめて、ワーグルがスペクターを操るのをやめさせられればいいのだけど…なかなかタイミングを見計らえない。
そうこうしているうちに、エリムは回復してきた。
そして、
「[アンデッド・イリュージョン]」
エリムの術で、スペクターが一気に増えた。
「まずい…!」
「これで、もはやお前達は終わりね」
「案ずるな…そこの探求者以外は殺しはせぬからな」
ワーグルとエリムがそんな事を言った直後、
「…」
メバロが倒れた。
「メバロ…?」
メバロの身を案じたエリムも、続くように倒れる。
「なんだ…何者だ!?」
ワーグルは、間一髪で「それ」の奇襲を食い止めた。
それはアリス三世だった。
「アリス、三世…!」
彼女は、龍神さんのものとは違う、反りのない刀でワーグルを押していた。
「貴様…いつの間に!」
「私はずっといた。今までは、存在を消していたに過ぎない」
そう言えば、今までアリス三世の事をすっかり忘れていた。
…そうか、彼女は[存在]の異能を持っていて、自身や他人の存在を人の意識や視界に映し出したり、逆に消したりする事ができるんだ。
「っ…小癪な真似を…!」
「お前達には言われたくない」
アリス三世はワーグルを蹴り飛ばした。
そして、これによってスペクターが全て消えた。
残りの祈祷師二人が立ち上がり、アリス三世を見る。
「愚かな吸血鬼ね…尚佗様の力を得た私達に、不意打ちをするなんて!」
「再生者の下僕となるとは…祈祷師は、どこまでいってもそんなものなのね」
「…お前、我らを侮辱するか!我らは、誇り高き異人だ!」
「真に誇り高き者は、再生者の部下になるなどという事はしない」
「不意打ちなどという汚い事をしておいて、よくそんな事が言えるな!私達は、お前などより余程誇り高いし、格も高いわ!」
「そう…」
アリス三世は、息を吸い込んで言った。
「なら、やはりお前達は三流の異人。
まず、不意打ちは歴とした戦術…汚いなどと言う事自体が間違っている。
次に、格が高い、という言葉は他者から言われるからこそ意味がある。真に格の高い者は、自称したりはしない」
穏やかな口調だけど、並々ならぬ威厳と迫力がある。
「言ってくれるな…!ならば、ここで決めようではないか…
我々と貴様らと、どちらが正しいか!」
「…何?勝った方が正義とでも?」
「ああそうだ…我らは実力主義!勝者が正しく、強い。敗者は間違っており、弱いのだ!」
「…はあ。呆れたものね。
いいでしょう。この町の伯爵として、高位の吸血鬼として、お前達を倒してくれるわ」
アリス三世は、こちらを見た。
「申し訳ありません。さあ、共に戦いましょう」
「はい!」
「ああ!」
「よしゃ!」
私達と祈祷師。
三対三の、対等な戦いが始まろうとしていた。
面白い、続きが読みたい、などと思って下さった方は、星の評価やブックマーク登録をして頂けると作者のモチベーションも上がって更新頻度を維持しやすくなりますので、ぜひよろしくお願いします。
またコメントやいいねもお待ちしています。