死せる白水兵
白水兵達は、祈祷師達が消えると同時に攻撃を始めてきた。
「水法 [ジェットバブル]」
樹さんが小さな無数の泡を高速で放ち、剣持ちを攻撃した。
でも、さして効いていないようだった。
「奴らは水に耐性がある!別の属性で行け!」
龍神さんの言う通り、白水兵は水中でも活動が出来る種族なので、私達程ではないけど、水に耐性がある。
というか、樹さんは水属性なのか。
となると、ちょっと分が悪い。
別の属性、例えば氷とか地とかを使えるならいいのだが。
「そうか…なら!」
樹さんは手を組み、術を使った。
「白法 [オーラストーム]」
…白属性の術なんて久しぶりに見た。
というか、探求者が白属性の術を使えるとは。
にわかに驚いたけど、これは好都合だ。
白属性は、本来は霊騎士や司祭など高位の騎士系・修道士系種族が扱う属性で、殺人者系種族や祈祷師系種族、異人以外ではアンデッドに対して効果が高い。
殺人者が司祭などに弱い理由は、ここにある。
黒属性はその逆で、呪術師や魔王などが使う事が多い属性だ。
でも、どちらもそう簡単に扱える属性ではなく、光属性や闇属性に別の属性を組み合わせた術を使う異人の方が遥かに多い。
そんなものを使う異人が…それも探求者が、私の前に現れるなんて。
感激の気持ちもあったけど、今は見惚れてる場合じゃない。
今ので、樹さんが4体の敵を仕留めてくれた。
ここを見逃す訳にはいかない。
「剣技 [祭事斬り]!」
祈りを込めて斬り裂くアンデッド特効の技で、敵を斬り倒した。
自分で出しておいてなんだけど、一見すると普通の斬撃のように見える。
でも、白水兵達には抜群に効いているあたり、やはりアンデッド特効があるのだろう。
本当、何なんだろう。
このマチェットを手にしてから、おかしな事ばかりだ。
ーいや、おかしくはないか。
当然の事が起きているだけだ。
(はっ!)
また変な考えが頭に浮かんできた。
今は、戦いに集中しなきゃないのに。
一瞬物思いにふけったせいで、危うく槍を胸に受ける所だった。
そいつは龍神さんが斬り倒してくれた。
けど…どうも最近、事あるごとに変な考えが浮かんできてしまう。
このままでは、普段の旅も上手く出来ない状況が出てきてしまうかもしれない。
本当に、何なんだろうか。
もしかしたら、私は精神的な病気に罹っているのかもしれない。
二重人格になりかけてるとか、そういう感じの。
「しっかし、中々手堅いな…」
樹さんが唸った。
私達も、守りに徹するばかりで攻めあぐねている。
それには訳がある。
敵は、白水兵のアンデッドの群れ。
でも、それらは単に武器で攻めるだけではなく、剣持ちや斧持ちが前列となり、槍持ちや短剣持ちがその後ろに、弓持ちや術使いがさらにその後ろに…といったようにしっかり隊列を組んで、しかもそれをなるべく崩さないようにして襲ってくる。
「まるで、騎士の一団ですね…」
私は、投げ槍を躱しながら言った。
「奴らは、要は群れた殺人者だからな…
あまり完璧に統率を取られると、厄介だ」
龍神さんも、考えあぐねているようだ。
「術で片付けたい所だが、水が効かないんじゃあなあ…」
樹さんもぼやいていた。
「白の術は、もう使えませんか?」
「ムリだ。あれは一回使うと、しばらく時間が経たないと使えない制限があるんだ」
「そうですか…」
やはり、白属性の術は探求者が使うには重いようだ。
「おっと!」
そんな話をしている間にも、短剣が飛んでくると同時に斧持ちが彼に斬りかかってくる。
樹さんは斧を受け止め、相手の股を蹴って突き放した。
私は、飛んできた短剣を凍らせて速度を下げ、次に、足元の石を凍らせて浮かべ、それを短剣にぶつけて地面に落とす。
そして、短剣を投げてきた敵に反撃した。
技は使わず、「ブレイド」の鏃をつけた矢を射った。
そして相手の目を撃ち抜き、その後ろにいた数体も一緒に貫いた。
すると、今度は剣持ちが向かってきた。
すぐに「スラッシャー」の矢を番える。
今度は技を使う。
「弓技 [レイヴンバレット]」
アンデッドの首を狙った矢で、首を落とした。
「へえ、やるじゃんか」
樹さんが関心してくれたけど、喜んではいられない。
「ありがとうございます!」
言葉で感謝の気持ちを示しつつ、術を放つ。
「氷法 [ブリザードフラッシュ]」
強烈な光で相手の目をくらませつつ、吹雪で攻撃。
今まで使ってこなかったけど、なかなか強い術だ。
そして、これで多くの敵を倒せた。
でも、残った敵…
槍持ちやハンマー、剣持ちの動きが怪しい。
攻撃をやめ、武器を構えたまま一点に集まって外側を向いて固まり、みんなで防御結界を張ったのだ。
「っ…!」
こうなると、攻めるに攻められない。
総員で結界を張られたので、術も恐らく弾かれてしまう。
しかも、奴らはみんなゾーンを張っていた。
合術か合技か、いずれにせよまずい状況だ。
「まずいな…どうする…!」
私にもわからない。
今まで、こんな状況に直面したことがない。
でも、何とか乗り切らなければ。
「えーと…えーっと…!」
私は頭を抱え、髪を掻きむしったが、案は出ない。
(ああ…どうすればいいの…!)
ふと、奴らの様子を見た。
結界を半円形に張り、その中でゾーンに入っている。
もちろん、こちらの様子を見ながら。
(ダメだ…何も浮かんでこない!
せめて、結界が角柱状だったら…)
ここで、ふと閃いた。
(そうだ…よし!)
一か八か、かけるしかない。
「樹さん!」
「どうした!?」
「奴らの足元の地面を、水で持ち上げる事は出来ますか?」
「?まあ、出来るが…」
「では、私が合図したら水を吹き出して、奴らを持ち上げて下さい!」
「わ、わかった!」
そして、私は両手の手のひらを向かい合わせて魔力を溜める。
「何をする気だ…?」
龍神さんはまだ、私の思惑に気づいていないようだ。
でも、いい。
成功するかもわからない事だから…。
やがて、魔力の装填が完了した。
「樹さん!今です!」
「よ、よし!」
樹さんが右手を上げると、奴らの足元から水の柱が飛び出す。
そして、奴らは高く持ち上げられ、バランスを崩した。
(今だ!)
「奥義 [グレイシャル・イロージョン]」
水の柱を、根本から凍らせる。
柱がてっぺんまで凍りきったら、すぐに氷柱の根本を蹴り砕く。
そして、落ちてきた敵を「拡散氷矢」で撃ち抜く。
打ち漏らしたものは、龍神さんたちに片付けてもらう。
これで、OKだ。
正直、上手くいく自信はなかった。
でも、上手くいってくれてよかった。
異人・探求者
人間から分化する種族の一つ。
純粋な心を持ち、鋭い洞察力と豊かな発想力、感受性を有する事が多い。
また非日常感とスリルを強く求め、気になった事をとことん追求しようとする傾向にあり、冒険家や探検家、研究者になる事が多い。
基本的には3年の命(3年毎に一つ加齢する)を持ち、総じて童顔で、その心も実年齢より若い事が多い。
亜種として流浪者や探索者が存在し、上位種族に追求者、冒険者が存在する。
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