旧友…?
少し遅れてアリス三世の元へ向かった。
彼女は、私達が目の前で立ち止まるとすぐに、真剣な顔で言った。
「おや、ちょうどいいところに。
今言ってしまいますが…あなた方から邪悪な力を感じます。あなた方の中に、異形や不死者と絡みがある方はいませんか?」
いきなりそう言われ、驚きと同時に緊張した。「いや、私達は…」
「ああ、別に異形とかとつるんでは…」
この時、私ははっとした。
もしかして…
「いんや、俺達は知らないね」
樹さんはそう言った。
アリス三世は、私達一人一人を厳しい目で見た後、ほっとため息をついた。
「そうですか…」
「なんだ、俺達から異形の匂いでも感じるのか?」
龍神さんが聞いた。
「いいえ、異形、あるいは不死者とは断定できませんが、何やら邪悪な力を感じたもので…」
「だとしたら、この子が原因じゃないか?」
樹さんが、私を指さして言った。
「なぜ、彼女だと?」
「この子は、光の再生者星羅こころ…の妹だ。
長らく彼女と一緒にいただろうし、その力とか匂いとかが移っただけじゃないか?」
確かに、それはあるかもしれない。
でも私は、ここで一つ疑問が湧いた。
「なんで、私が星羅こころの妹だって知ってるんですか?」
「…?あ、それはなー、あちこち旅してるから、だな」
「…ほう?」
龍神さんは、問いただすように言った。
「…ほら、俺は探求者だからさ?色々あってあちこちまわってるんだよ。そんで、その旅先でお前らの事を聞いて…」
「まだ誤魔化すつもりですか!」
アリス三世が、叱るように言った。
「あなたは探求者などではないでしょう。本性を現しなさい!」
すると、彼は黙り込み…
不気味に笑って、ぐにゃりと歪んで姿を変えた。
「…やはり、人外の怪物でしたか」
それは、見た目はリヴィーのようだけど、全身の肌が黒い異形?アンデッド?だった。
「これが正体か…」
龍神さんの声に応えるように、それは彼に襲いかかった。
彼は異形に電撃を浴びせたが、効いていない。
「なにっ…!」
驚く彼を押し倒し、それは口を開けた。
その中には異様な形と大きさの歯が並んでおり、嫌悪感すら覚えるものだった。
私は、とっさに弓を出した。
すると、それは彼から離れ、私に飛びかかってきた。
「返り撃ち」で回避しつつ攻撃する。
けれど、怪物は怯まず突っ込んでくる。
龍神さんが後ろから斬る。
怪物の背中は一回裂けたけど、程なくして傷が塞がった。
「な…!」
「まるでアビスの吸血鬼だな…」
龍神さんがそんな事を呟く。
怪物は、目の無い顔で私を見てきた。
何か唸ったようだったけど、言葉としては聞き取れなかった。
この怪物は、誰かに化けている時しか喋れないのかもしれない。
「…なるほど。異形と不死者、両方の性質を持っているようですね」
アリス三世はそう言った。
そして、彼女は立ち上がり、
「我が城を汚す事は許しません…」
と言いながら両手を広げ、魔力を溜め出した。
怪物は、そんなアリス三世を正面に捉え、吠えた。
「忌まわしき存在よ…ここで消えなさい!」
そして、アリス三世は魔法陣を展開したー
黒い波動が放たれる。
それは最初は細かったが、すぐに太く猛々しいものとなった。
術を受けた怪物は、3秒と立っていなかった。
それを見て、私は彼女の力を思い知った。
術を放つ際に魔法陣を張るのは、強力な術に見られる特徴。
それを扱えるのは、術者が膨大な魔力の持ち主である証。
その魔力は、長い間経験を積んだ高位の異人であるが故のもの。
この人は、やはり高位の魔人だ。
アンデッドなどではない、正真正銘の生きた異人。
そして…
この時、私は視た。
彼女は、かつて生の始祖を助けた異人の一人。
生の始祖は、彼女を心から信じていた。
そして、生の始祖…すなわちシエラは、死の始祖を封じた後、彼女に託したものがある。
それは、自身が使っていた道具の一つ。
私には、それを使う義務がある。
でも、今の私にはまだ扱えない。
「…おや、まだ生きていましたか」
怪物は、ふらつきながらも立ち上がってきた。
「タフだな。あんな攻撃術を受けても生きてるとは。
…本当に、すごい生命力だな。アビスの吸血鬼と比べても遜色ないレベルだ」
「そうですね。…」
アリス三世は、彼に何かを察せと思ったようだった。
けれど、彼はそれに気づくことは無いだろう。
「しかし、参ったな。今ので殺せないとなると…」
彼がそう言った直後、
「[瀑布打ち]!」
誰かの声と共に、異形?は突如降ってきた滝のような水の下敷きになり、その直後、棍で叩きのめされた。
異形のような何かは、水を浴びた所から溶け、あっと言う間に跡形もなく溶けてしまった。
「樹…!」
棍の持ち主を見て、龍神さんがつぶやいた。
彼が、本物の樹さんか。
彼は、手を払って怪物を溶かした水を消し去った。
そして棍を収め、アリス三世の前に跪いた。
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