最後の石
「…スレフ!」
「スレフさん…!思い出しました!」
そうだ、思い出した。
この人は、このメドルアの皇魔女。
マトルアの城で、ロザミと私達と四人で話した。
「私も思い出した!…スレフ、しっかりしろ!」
スレフさんは項垂れたまま、黙っていた。
「…スレフ?」
「お…終わった…のか…?」
「ああ。よく頑張ったな」
龍神さんはそう言って、今しがたスレフさんの体から出てきたモノを見た。
四角い形をした、小さな青白い光。
普通にきれいで、異形と言われてもピンとこない。
「これが、異形…?」
光はふわふわと漂って牢を抜け出し、地上へ続く階段を登っていこうとした。
「まずい…!また誰かに寄生したら厄介だ!」
エーリングさんが手をかざすと、地上へ続く扉が閉まって結界が張られた。
そして、光はUターンしてこちらへ向かってきた。
龍神さんが刀で斬ろうとしたけど、光は器用に動いて避けまわった。
これは厄介な相手だな…と思っていると、
「[焦点突き]!」
エーリングさんが一撃で貫いた。
槍の先端に刺さった光をよく見ると目のようなものがあり、確かに異形であるようだった。
そしてそれは、みるみるうちに光を失っていった。
「これで解決だな」
龍神さんは、それを見届けて言った。
「あ、あの…」
私は、声を絞り出すように言った。
「ん?どうした?」
「言いづらいんですが…龍神さん…その…」
「…?」
私はちらちらとスレフさんの方に目線をやりながら話したのだけど、彼は察してくれなかった。
けど、エーリングさんが言ってくれた。
「とりあえず、スレフに服を着せてやろう。
龍神、お前は先に上に行っていろ。流石に皇魔女の裸体を男に見せる訳にはいかない」
「いや、今更それ言うか?まあ、先に行ってろって言うんなら…」
彼が地上に出たのを確認し、私はスレフさんの服を取って渡した。
「スレフさん…大丈夫ですか?」
「ああ…でも、色んな意味でキツかったよ」
「まあ、それは…」
「しかしあいつ、ずいぶん度胸あるな。まさか、私に脱衣魔法を使った上にあんな事をするなんて」
「彼は…そういう種族ですから…」
「あいつが殺人鬼でよかったよ。守人とかだったら、私の身体に欲情して別のコトを始めてただろうぜ」
「流石に…それはないかと…」
確かに、スレフさんの身体は…まあ、いい。
でも、彼はそこまで欲の強い人ではないだろう。
「…ま、お前らのおかげで助かったよ。異形も仕留めてくれたしな。
あとは、国のみんなが私を思い出してくれればいいんだがな…」
「それは大丈夫だろう」
エーリングさんが言った。
「私達が思い出したのだ、国の者達もお前を思い出しているだろうさ」
「そうか…そうだよな!」
スレフさんは服を着て帽子をかぶり、力強く笑った。
「よーし、行くぞ!」
城の人達は、みんなスレフさんの事を思い出していた。
正確には、彼女の事をみんな忘れていたという事を忘れていたようだったが。
そして私達は、玉座の間で改めてスレフさんに謁見した。
スレフさんは一度部屋に戻って着替えたようで、さっきと同じだけどきれいな服を着ていた。
「ふう…
改めて、よくやってくれた。
私は、お前達に心から感謝する」
「ありがとうございます。スレフさんが無事に皇魔女の椅子に戻れたようで、何よりです」
「私は、この国の騒ぎを静め、混乱を収める任務を果たしただけだ。礼など勿体ない」
「俺達はあんたに用があって来た。その都合上、あんたを助けたまでだ」
口ではそう言うけど、本心では彼女を助けたいと思ってただろう。
(素直じゃないわね)
「私に用…か。聞こうじゃないか」
「この城に、3つ目のスカイストーンがあると聞いたんだが」
「スカイストーン…か。確かに、うちには黄色のスカイストーンがある。
あれが欲しいのか?」
「ああ。青と赤はもう手にしている。
だから、あとは黄色だけなんだ」
「そうか…わかった。誰か、持ってきてくれ」
すると一人の兵士が奥の扉へ消えていき、数分後に戻ってきた。
その手には、輝く黄色の丸い石があった。
「ありがとう。こっちへ来い」
スレフさんはその兵士を自身の隣に来させた。
「これが黄のスカイストーン…我が城で最も価値がある物の一つだ。
かつて三聖女の一人、凛央から預かったものだ。
長らく宝物庫にしまっていたが、どうやら外に出る時が来たようだ」
そして、スレフさんは一呼吸置いて言った。
「アレイ、そして龍神よ。この石はお前達に託す。
私達に代わって、再生者尚佗を討ち取ってくれ」
兵士が前に踏み出し、私に石を渡してきた。
「…ありがとうございます」
ここで、龍神さんが一番大事な事を言い出した。
「で、これをどうすればいいんだ?」
「夜雪の町ポームにいる、アリス伯爵婦人の元へ持っていくのさ。そうすれば、尚佗の電撃に耐えるために必要な護りを得られる。
向こうへは途中までは馬車で行けるが、途中からは歩いて行かなきゃない。
…と言いたい所だが、いいぞ。私が送ってやるよ」
「いいんですか?」
「ああ。それに助けて貰った礼をしなきゃないしな」
「そうかい…ならありがたく送ってもらうよ」
スレフさんに送ってもらうのは、これで二回目だ。
そして、私達は夜雪の町ポームへ送ってもらった。
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