彼女が為の拷問
1時間後…
私達は、メドルア城の地下にある牢獄へ来ていた。
なぜかと言うと、ここには多種多様な拷問器具が揃っているからだ。
なんでも、スレフさんの前の代の皇魔女がかなり残虐な人で、罪を犯した人や容疑者の疑いがある人を片っ端からこの牢に入れては、あの手この手で拷問していたらしい。
…恐ろしい人がいたものだ。
それで、なんでその当時の物が残っているかと言うと、その人(先代の皇魔女)がこれらの拷問器具をとても気に入っていたようで、どうやっても壊れず、この場所から離れないように強力な術をかけているから、とのこと。
…やっぱり、恐ろしい人だ。
でも、今の私達には却って都合がいい。
「…まさか、この私がこれで拷問される事になろうとはな…」
そう、諦めたように言ったスレフさんの運命は、実際には見えずとも見えるような気がした。
「ぎゃあぁぁーーーーっ!!!」
スレフさんの悲鳴が響く。
今彼女が受けているのは「刀割り」という拷問。
足を開いた状態で逆さに吊るされ、巨大なナタのような刃物で股から割るように斬られるという恐ろしい拷問だ。
刃物はあまり斬れ味が良くないため、ノコギリのように何度も押し引きしなければ切れない。
それが、耐え難い苦痛の元となるのだ。
「あ…ぁ゙ぁ゙…ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ…っ!!」
おびただしい量の血を流し、涙と脂汗を垂れ流して苦痛に喘ぐスレフさんの姿は、見ている方が辛い。
しかも、それだけではない。
刃物が動かされるたび、肉と刃物が擦れる音が響くのだけど、これが何とも生々しい。
以前までの私なら、余裕で吐いてしまっていただろう。
もっとも、今、私は口と鼻を押さえ、薄目で眼の前のコトを見ているのだが。
「…そろそろやめだ」
エーリングさんが指示を出すと、龍神さんは刃物を動かすのをやめた。
「こんなもんじゃ、大して切れてないぜ?」
龍神さんは、残念そうに言った。
彼は、こう見えても拷問にはそれなりに精通しているらしい。
やはり、殺人鬼ということか。
「それでいい。間違っても死なせる訳にはいかないからな」
「そっか…そうだったな。はあ…加減するってのは難しいな…」
私は、思わずこぼした。
「今ので…加減してたんですか…?」
「そりゃそうだろ。本気でやってたらとっくに真っ二つにしてるよ」
納得できてしまうのが恐ろしい。
「スレフさん…大丈夫ですか?」
私は、スレフさんの顔を拭い、止血の魔法をかけながら言った。
本当は鎮痛の魔法くらいかけてあげたい所だけど、彼女の痛みや傷を癒やしては意味がない。
なので異形がスレフさんの体から出てくるまでは、彼女自身に耐えてもらうしかないのだ。
「だ…大丈夫…だよ…」
息を切らし、涙を必死にこらえるスレフさんの顔は、見るに堪えなかった。
「スレフ。もう1段階レベルを上げてもいいか?」
エーリングさんの問いに、スレフさんは諦めたように言った。
「無理…と言ってもやるんだろうが!」
「…では」
エーリングさんが龍神さんの方を見ると、彼は大きく頷いた。
そして、彼は術を唱えた。
「[エバレス・トゥイッチ]」
一瞬、えっ?と思った。
なぜなら、今彼が唱えたのは「脱衣」の術。
相手の防具や服を無理やり全て脱がして素っ裸にする、道徳的に問題しかない術だからだ。
でも、残念ながら彼は至って真面目だった。
彼は、裸になったスレフさんに近づくと、真顔で鉄製の鉤爪のような器具を取り出し、それで彼女の両方の胸を挟んだ。
「な…!ま、まさか…!?」
私とスレフさんが同時に、悲鳴にも似た声をあげたけど、そのまさかだった。
彼はそのまま、その非情な鉤爪を全力で引っ張った。
これは、とても直視出来なかった。
同時に、さすがにやり過ぎだと思った。
同性として、あまりにも気の毒で…
そして、ショッキングだったからだ。
スレフさんの悲鳴と、壁に飛び散った血を見て、私は思わず自分の胸をかばった。
握れるほどもないけど、それでもこんな所を引きちぎられるなんて、想像したくもない。
しかも、スレフさんは私から言わせれば結構大きい。
彼女がどこまで積極的かは知らないけど、女として大切な場所の一つを鉄の鉤爪で引きちぎられたという事実は、きっと彼女の心に大きな傷を作るだろう。
「…」
私は無表情かつ無言で、スレフさんの出血を止めた。
出来る事なら、もう何も考えたくないし感じたくない。
エーリングさんはというと、龍神さん共々無表情で苦しむスレフさんを見ていた。
龍神さんはともかく、エーリングさんも平気そうな顔をしてるのにはちょっと引く。
騎士とは言え、女としての心はないの?と言いそうになる。
私だったら、あんな拷問は間違ってもやらないし受けたくもない。
でも、逆に言えば、だからこそ効果が見込めるのかもしれない。
この拷問は、間違いなくスレフさんの心と体を大きく傷つける。
それ故に、異形を追い出せるに相当するくらい彼女の心身を痛め付けられるのかもしれない。
まあ、私はもう…感情を捨てて傍観するだけだけど。
「はあ…はあ…」
「…ダメだな。しかしあんた、ずいぶんいいモン持ってんな」
龍神さんの言葉は、私の心から完全に感情を消し飛ばした。
「な…お…おま…え…」
スレフさんは、苦しみながら彼を睨んだ。
「どこを見ているんだ。…全く、男というやつは…」
エーリングさんがため息をつくけど、私から言わせれば「今のあなた達二人は同類です」だ。
「だが、まだまだ異形を追い出すには足りないのは事実のようだ。
次は…どうしたものか…」
「なら、釘打ちなんかどうだ?」
ああ、そうですかそうですか。
釘打ちは全身に細長い釘を一本ずつ打ちこんでいく拷問。
いやあ、異形を追い出すにはいいと思う。
「釘打ち…か。まあやってみよう」
そして、エーリングさんは術を使う。
「[スキュルア・ディフュー]」
あたりに無数の釘が現れ、龍神さんがそれを拾う。
そしてそれを一本ずつ、砥石をハンマー代わりにしてスレフさんの体に打ちこんでいく。
最初は左の脇腹に、次はその少し上に。
スレフさんがすごい声をあげるけど、それで表情を変える人はここにはいない。
釘打ちの拷問は、出血はあまりないけど、苦痛は凄まじい。
脇腹だからまだいい、これが向こう脛とか目とかだったら…
「やっぱり脇腹じゃダメか。なら…爪の間にするか」
爪の間…ですか。
まあ、拷問でそこに針やら釘やらを刺すのはよく聞く話だ。
「…!?」
スレフさんは、もはや言葉すら発せずに彼を怯える目で見た。
そして、彼はスレフさんの左手を取り、親指と爪の間に釘を刺した。
スレフさんは「ーーーっ!!」って、声にならない叫びを上げていた。
そして、釘が打ち込まれるたびにそれは大きく、悲痛になっていく。
最終的には、スレフさんの両手の全ての指と爪の間に釘が打ち込まれた。
さらに龍神さんは、次は両足の指の爪の上から釘を打とうなどと言い出した。
そして、エーリングさんもこれを了承した。
もはやスレフさんの意志は殆ど関係なくなっている。
当の本人は、もう虫の息だ。
素直に斬首とかで殺された方が、どれほど幸せなことか。
スレフさんの脚はきれいだった…私に負けず劣らず。
今は血と汗にまみれて見る影もない。
「あぁ゙ーーーっ!!」
右足の親指に釘を打たれ、スレフさんが叫ぶ。
その時、その口から小さな光が飛び出した。
「…出た!!」
本人以外の全員が叫ぶ。
同時に、私達はみな彼女の事を思い出した。




